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親指を強く握り、拳に力を込めた。衛兵が槍を振り上げるが、間に合わない。私の拳は風を切り、オルファ侯爵の左頬に重苦しい音を響かせた。拳が当たった瞬間、鈍い衝撃が腕に響き、侯爵の顔が歪むのが見えた。床に崩れ落ちたオルファ侯爵は、顔を赤らめる。彼は頬を庇い、尻餅をついたまま身動きが出来ない。私は彼を見下ろして言い捨てた。
「この世界、舐めると痛い目見るぜ?」
数分前のこと。
私、獅子頭橙子は部屋住みの若い衆が運転する、黒いハイクラスミニバンの後部座席で、偉そうに脚と腕を組んでおりました。若い衆といえばピンと来る方も多いのではないでしょうか……。そう、私は獅子頭組の跡目……お嬢様なのです。え、極道?「怖っ」、と誤解されがちですけれど、日常は一般庶民となんら変わりはありませんのよ。ほほほ。
組長である父は事務所の革の椅子に腰掛け、若い衆を厳つい顔で怒鳴っております。それはもう鬼の如く。「怖っ」けれど自宅に帰れば母の尻に敷かれ、腰にエプロンを巻いて皿洗いをしています。ソファに腰掛け、テレビのリモコンを弄る母が影の組長のようなものです。
私も組長の娘ですから贅沢三昧、我が儘三昧と思われがちですが、昨夜のご飯はシシャモでした。あ、それは……北海道産の立派なシシャモでしたけれど(北海道の組長が送ってきてくれた)。それに最近、親を困らせたことといえば、ピアノを習いたいと言ってピアノを買ってもらって、二ヶ月で飽きた程度。可愛いものだと思いません?
と、自己紹介はここまでにして。
私の乗った車が右折しようと交差点で信号待ちをしていたら、対向車線からスピードを緩めることなく大型トラックが突っ込んで来たの。実は、獅子頭組は敵対組織との激しい抗争の真っ最中。それは敵対組織トラックだったってわけ。「お嬢!伏せてください!」若頭の川上が声を張り上げた瞬間、激しい衝撃音と粉々に砕け散るフロントグラス。ガラスの破片が頬を切り、激痛が走った瞬間、意識