この作品はいかがでしたか?
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「は…?アンタ今……なんて?」
ヒスイ「み、みんなが…おかしくなっちゃったの…」
「はぁ?」
おかしくなった?
アイツらいつもおかしいじゃない。
「おかしいって、どうおかしいのよ」
「新しく転生してきた人がいるって知ってる?」
「それは知っている。」
「そ、その子ね、アイラちゃんって言うんだけど、その子が…」
ヒスイの話によると、彼女は俗に言う「悪女」らしい。
本人は「ちょっとおかしな子」って言ってるけど、ちょっとどころじゃない。
ヒスイをいじめっ子に仕立て上げ、みんなヒスイの事をいじめっ子扱いするのだそう。
「…それで? どうして私に話にきたの? 救世主サマにはもっと頼れる人がいるんじゃなくって?」
「…そ、それで、今からアイラちゃんに呼ばれて行かないといけないの……だから…着いてきてほしくて……」
「あっそ……」
さぁ……どうするか…
……面白そうね。 めんどくさいけど。
ずっと嫌いだったヒスイが、みんなの中心だったヒスイが、居場所を失う……みんなに嫌われる。
そんな様子を見るのはすごく面白そうね。
今まで私が味わった気持ちを知ればいいのよ。
ヒスイが可哀想? そんなこと知らない。
《随分と楽しそうじゃねぇか。 何考えてんだ?》
「……ふふ……いいわ。着いていってあげる。」
「い、いいの? ありがとう!」
「……」
嬉しそうに笑うヒスイ。
私に助けて貰えると思ってるのね。 私が唯一の味方だと……そう思ってるんでしょう? 可哀想に。
私はただ、あなたが居場所を失うのを見たいだけ。
せいぜい楽しませてね♪
「それじゃあ、早速行きましょうか。」
さーてどんな人なのかしらね。 悪女サマとやらは……
「カルヴァリー、貴方も来る?」
《はぁ?なんでだよ》
「いいじゃない。面白いものが見えるわよ?」
《……わかった。行けばいいんだろ?》
「そうそう♪」
《ずいぶんとご機嫌だな。》
「ふふ…当たり前でしょう?」
だって、ずっと見たかった物が見れるの。
いつもみんなの中心だったあの子が、みんなからのけ者にされ、罵られる。
あぁ……生きててよかったわ…
《お前今、最高にゲスい顔してるぜ。 ヒスイに見られなくてよかったな。》
「女の子の顔をいじるのは失礼よ?」
《お前女だったか?》
「しばき回すわよ?」
《おっと、怒るともっと可愛くなくなるぜ?》
「それは、死にたいってことでいいのかしら?」
《へいへい、悪かったって》
そんな冗談を言い合いながら、カルヴァリーの入ったぬいぐるみを抱える。
「あら、あなた少し重いわね。太ったんじゃない?」
《幽霊が太るかよ》
「えっと、トウカちゃん?」
ずっと玄関で待っていたヒスイが心配そうにこちらを見ている。
そういえば、コイツもいたのね。
気づかなかったわ。
「お待たせ。さ、行きましょ? 救世主サマ♪」
「……うん。そうだね。」
待ち合わせ場所は街にある小さな路地。
中世のような街並みは、一年以上暮らしている透海でも、違和感は多少感じる。
まるで絵本の中に入ったみたい……転生した頃からずっと思っていた。
NO side
人通りの多いこの街にも、あまり人が近づかないような場所は必ずある。
そういう場所では必ずと言っていいほど、よくないことが起こる。
しかしこの世界の住民は、現実に生きる者から見ると、異常なほどに、心が広く純粋だ。
みんながお互いを信頼し合って生きている。
その証拠に、この街で犯罪は滅多に起きない。
起きるとしたら、それは魔王軍の仕業だろう。
しかし、この街に魔王軍はもういない、なぜならヒスイという一人の転生者によって魔王は退治されたからだ。
そんな彼女はいま、路地裏にてとある少女と待ち合わせをしている。
???「あれぇ?、もう来てたの。 意外ね?」
幼女のように幼い声が響くのと同時に、気持ち悪いくらい甘い、香水の匂いが当たりに満ちる。
ヒスイが振り向くとそこには、猫のように鋭い桃色の瞳。
そして、肩まである髪を揺らして意地悪く笑う、3人目の転生者、アイラの姿があった。
「うん。私もあなたに話さないといけない事があったから…」
「ふーん? まぁ、その前に♪」
突然、アイラは持っているバックから、カッターナイフを取り出す。
鋭い刃を自分の腕に押し当て、ゆっくりと引く、
刃が通った所からは、赤黒い鮮血が溢れる。
ヒスイ「っ…え………?な、なんで……自分の腕を…?」
ヒスイはその光景にただ、目を見開き、震えることしかできなかった。
「…っ……誰か助けてっ……!」
突然、アイラが先ほどの彼女からは想像もつかないほどの高い、可愛らしい声で叫んだ。
⁇?「あ、アイラちゃん!? どうしたの!?」
突然路地の外から、声がする。
可愛らしい、水色の尻尾を揺らしながら駆け寄ってきた彼の名は、ハルカ。妖狐である。
「あ、あのねっ……アイラちゃんが……急に…」
「ヒスイちゃんがっ……ここに呼び出して……私の腕を……私はただ…仲良くしたかっただけなのにっ……」
ヒスイの言葉を遮り、アイラが泣きながら叫ぶ。
それを聞いたハルカはヒスイを睨み、軽く舌打ちをした。
「……ヒスイ…君はそんな奴だったんだ。 見損なったよ。今後一切、アイラにも、僕にも近寄らないで。」
「……え……? ハルカ……?」
「それじゃあ、行こうか…僕が手当てしてあげるよ!」
一方、その様子を影から見ていた透海はというと………
「ちょw カッターキャーって、定番すぎよw」
カッターキャーという悪女の定番の行為に、ただただ愉快そうに笑っていた。
「それに、見た? ハルカの顔w あんなに真っ赤に染めちゃって〜♪ 悪女サマも中々やるじゃない。どうやって飼い慣らしたんだか」
《お前なぁ……》
「でもねぇ……」
そう言って、目を細める。
「私の元親友がオモチャになるのは気に食わないわ。」
《珍しいな。お前がそんなこと言うなんて…》
「あ、いいこと思いついた。」
《ん?》
トウカ「アンタはそこで待ってなさい。お荷物だから」
《ん?》
「何か文句でも?」
《いいえなんでも》
そう言って透海は路地裏へと歩いていった。
置いていかれたカルヴァリーが不満そうにトウカを見つめる。
透海 side
「あーら、誰かと思ったら、噂の悪女サマじゃない♡ あえてとっても嬉しいわ……ねぇ?
貴方もそうでしょう?」
「あ、貴方だれ? 貴方も私をいじめるの?」
猫を被った可愛らしい声で、大袈裟に怯えて見せる。
そばにいたハルカは、警戒しながらもその場に立って睨みつけるだけ。
気持ち悪っ……香水臭い……カルヴァリーの言う通りね。
「……はぁ…ずーっと猫かぶってて、疲れない?」
「な、なんの話?」
すると突然、透海がアイラの胸ぐらを掴み、壁に押し付ける。
「はぁ……貴方、いじめられっ子になりたいんでしょう?私達にいじめられて、みんなに心配されたいんでしょ?」
アイラ「なっ、何言って……」
「私になにを言ったって無駄。
ちゃんとお見通し。」
「は、はぁ?」
「ならさ、私が本当にいじめてあげる♪
それでアンタの被った化けの皮をお友達に前で剥がしてあげるね」
「や、やだっ」
アイラのことを少し睨みつけてやると、すっかり怯えきってしまったのか、情け無い声を上げた。
アイラの溝内に蹴りを入れる。
すると、アイラは、声にもならない悲鳴をあげた。
「ほらほら、さっきみたいに可愛く鳴いてみなさい? そしたらみんな来てくれる。」
「や、やめて……アイカちゃんを虐めないで! トウカ……君は違うと思ったのに……君もアイカちゃんをいじめるんだね」
ようやく助けに入ったハルカは私に刀を向けた。
「うるせぇ黙ってろ。 貴方なんてもう私の友達じゃない……っ……貴方なんて!」
怒りに任せ、掴んでいたアイカをハルカに向かって、勢いよく放り投げる。
アイカの体は固い石レンガの床に打ちつけられ、鈍い音を立てた。
「アイラっ……?!」
「……ねぇ…覚えてる?」
アイラに駆け寄るハルカに語りかける。
その瞳は目の前のハルカではなく、どこか遠い、遠い記憶を見ているようだった。
「……何を?」
「私達、友達だったのよ」
「……もちろん……覚えてる。今までもずっと……友達だと思ってた。」
「なら……どうして…………いえ、なんでもないわ。今の私達には関係無いものね。」
「……」
ハルカは無言で倒れているアイラを抱え、路地裏を歩いてゆく。
ねぇ……どうして……?
貴方はずっと私を友達だと思ってくれていたのよね?……なら……どうして……?
どうして私を1人にしたの?
「……透海ちゃん……?」
「今日のところはもう帰って。 明日、朝一番に私の家で集合。 調べたいことがあるの。」
路地裏の入口で、カルヴァリーを荒々しく抱えながらそう言い残し、その場を去る。
《家まで送ってやれよ》
「あら、どうして?」
《……お前が好きなようにすればいいさ》
「…………そう。」
時刻はもう夕方。
街の人通りもより多くなる。
街の住民からの視線が怖い……
皆が私を攻めているような視線が……ヒスイとの旅に着いて行かず、ヒスイ達が魔王との戦闘で苦戦している間、ただただ家でのんびりと平和に暮らしていた私を責めるような……
《……早く行こうぜ。》
そんな私の様子に気づいたカルヴァリーは、色々と面白い話をしてくれた。
生きていた頃の話、幽霊になったばかりの頃の話……
でも、そんな会話耳に入っては来なかった。
ハルカのあの言葉だけが、私の頭でぐるぐると回っていた。
ー今までもずっと……友達だと思ってた
トモダチダト……オモッテタ……?
その言葉は耳に入ってきたはずなのに、頭がそれを理解しようとしない……
ただ鉛玉のように沈んでゆく…
《なぁ、明日はヒスイとどこ行くんだ?》
家で紅茶を飲んでいると、そう尋ねられた。
「図書室。」
《俺はあそこ嫌いだよ》
「アイツうざいし」と付け足して、不機嫌そうに言う。
「なら、来なければいいわ。」
《じゃぁ、俺は家で留守番だな?》
「……何を言ってるの? 強制的に連れていく」
《はぁ……》
まぁ、私も図書室はあまり好きじゃないわ。
明日が楽しみね。
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