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「佐々木、さっきから食べるペースが落ちてるけどあまり腹が減ってなかったか?だとしたらごめん」
ここはよくあるチェーン店の居酒屋だ。結衣の眼の前には木田がいる。
(どうしてこんな状況になってるの……!?)
結衣が落ち着かない様子で視線をあちこちに泳がせていると、木田はぷっと吹き出した。
「佐々木、緊張しすぎ。そんなに緊張しなくたって、お前と俺の仲だろ」
「えっ、いや、あの、でも」
(木田さんの歓迎会があるって聞いたから来てみたのに、なんで二人きり?)
木田が本社から応援に来てから数日後。急遽歓迎会が開かれることになったから佐々木もおいでと木田に言われて来てみたものの、なぜか木田以外誰もいない。
「俺の歓迎会があるっていうのは嘘。歓迎会は来週だってさ。でも、まだ確定じゃないみたいだしみんなも知らない。ごめん、嘘ついて」
「えっ?嘘なんですか?どうして……」
「こうでもしないと二人きりになれないだろ。俺は佐々木と二人きりで話がしたかった」
そう言って、木田はビールをぐいっと飲む。確かに、歓迎会の話なんて誰もしていなかった。でも、木田がわざわざ嘘をつくなんて思いもしなかったのだ。
(二人きりで話って、なんだろう?)
「別に、話しがしたいなら普通に誘ってくださいよ。びっくりするじゃないですか」
「普通に誘って、来れたの?佐伯と付き合ってるんだろ?普通に誘ったら佐伯を理由に断られるかと思ったんだよ」
木田に言われて、結衣はあっ、という顔をする。そしてそんな結衣の顔を見て木田は苦笑した。
(確かに、木田さんと二人きりで時間外に会うのはちょっとまずいかもってお断りしてたかもしれない)
「佐伯ってもしかして束縛強い?俺にも初対面で牽制してきたもんな」
「えっ?牽制、してました?」
(いつの間にそんなことしてたの!?)
「気付いてなかったのか。まぁ佐々木は昔っから鈍感だったから仕方ないか」
「なっ!」
木田が笑うと、結衣はムッとしてから目の前の唐揚げに箸をのばした。
「それで、話って何ですか?支店のやり方に何か問題でもありましたか?」
結衣が不安げにそう尋ねると、木田はまいったな、と苦笑する。
「いや、仕事の話じゃないよ。ただ佐々木と久々にゆっくり話がしたかっただけ」
「そう、なんですか?」
結衣はなんだか心がむず痒くなって、ごまかすようにビールを飲む。
(まさか木田さんとこうして二人きりで飲むなんて)
結衣にとって、木田は新入社員の頃から憧れだった。とても厳しかったが、厳しさの中にもちゃんと新人を思う優しさがあって、結衣は木田に尊敬と憧れを抱いていたのだ。
「そういえば、佐々木は乙女ゲーム好きなんだって?『終末のホーリーナイト』だっけか?」
ブフォォォ!!!!
木田の発言に、結衣は飲んでいたビールを盛大に吹く。それは木田に綺麗に降り掛かった。
「いやぁぁ!すみません!ビールが!」
結衣が慌てておしぼりをもって木田の席側へ向かい、ビールを拭こうとする。
「あは、あはは!まさかビール吹くとは思わなかった!」
慌てる結衣とは正反対に木田は楽しそうに笑っている。
(笑い事じゃないですって!しかも、なんで木田さんが、乙女ゲームのこと知ってるの!?)
「ははは、でもその様子じゃ本当なんだな。だったら、俺の顔に見覚えはない?」
「……はい?」
木田へおしぼりを差し出しながらきょとんとする。
「あー、これだとわかるかな?」
そう言って木田はにやり、と笑いながら髪をかき上げる。いつもはおろされている前髪が上がりおでこが出た状態の木田を見て、結衣は今度こそ目を丸くして絶句した。
「う、そ……まさか、エイル?なんで?そんな、いや、でも、そんな……」
(ルシエル様以外にも転生者がいたってこと?え?そんな、いやまさか!でも……)
「正解。俺は『終末のホーリーナイト』に出てくるエイルだ。まさか佐々木があの乙女ゲームが好きだったとはね。ああ、でもゲームはしていないんだっけ?小説やアニメにはまってるって話は聞いたよ」
クツクツと笑う木田を、結衣は呆然と眺めていた。
エイル、それは『終末のホーリーナイト』のメインヒーローの一人だ。明るめの茶髪にやや垂れ目がちの騎士で、物腰は柔らかく攻略キャラの中でも人気が高い。
ただ、ゲームのエイルは木田よりも短髪でおでこが出ている。前髪をかき分けた木田を見て、結衣はようやくエイルだと気がついた。
「佐伯と付き合ってるってことは、佐伯のこともわかってるんだよな?あいつ、見た目まんまだし」
「そ、れは……えっと、はい……」
(どうしよう、ルシエル様のこと言ってもいいのかな?でもエイルだってルシエル様と同じ転生者……ってことだよね?いやでも木田さんが?えっ?あの木田さんがエイル?)
混乱して結衣が頭を抱えていると、木田はフッと微笑んで結衣の頭にぽんっと手を伸ばした。
「混乱させてごめん。でも、ルシエルと一緒にいる佐々木を見て、どうも胸がすっきりしなかったんだよ。付き合ってるって聞いて、余計胸がざわざわした」
(……え?それってどういう意味?)
結衣が不思議に思って聞こうとしたその時。
〜♪
結衣のカバンから着信音が鳴り響いた。
#歳の差