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13 - 〘 センクラ〙あなたへ捧ぐfermata

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2025年04月28日

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「冷静なくせに無鉄砲」

「頭がいいのに考えなし」


――センリツの、名目上の上司に関する友人の論評である。

全面的に賛同する。

だけど正直に言おう。

ここまでとは思っていなかった!



ハンター試験を突破したばかりのルーキーと知った時には驚いた。

彼の纏うオーラにはまだ粗削りな部分があったが、練度は充分だったから。

ならば生得的に念の存在を知っていたタイプかと予想したが、これも外れた。

つまり彼は、十代にしてハンター試験を一発クリアし、わずか半年で念を習得し、A級賞金首の一人を戦って斃したということである。

世間はこういう人間を指して「天才」と呼ぶ。

思えば、センリツがまだ一介の音楽生だった時代にもこういう人間は少なくなかった。こと演奏にかけては非凡な閃きを示すくせに、日常生活においては性格破綻者でしかない連中が。

ともに『闇のソナタ』によって身体を灼かれ命を落としたあの友人など、挽いてもいないコーヒー豆にお湯をぶっかけて啜り、その味に首を傾げていたものだった。

あれは単なる世間知らずだが、時折クラピカがあきれるような不精をやってのけるのは同じだ。

平気で食事を抜く。

睡眠時間を削る。

自分をちっとも大事にしようとしない。たぶん、そんな発想さえない。

そのくせ、他人がちょっとした怪我を負ったり、体調不良を抱えていることには不思議と目聡い。

おかげで、ネオンに準じる未来予知の能力を持っているのでは、と一時勘繰られてさえいたのだ。

***

渋滞を避け、事務所のかなり手前でタクシーを降りたセンリツの視界の隅を、クラピカが通った。

おかしなことではない。この街はどの組の「シマ」にも所属せず、むしろ緩衝材のような役割を果たしている。

それだけに、一歩裏に回ると絶句するような無法がまかり通る部分もあるのだが。

いつものブラックスーツではなく、シンプルなシャツとダメージジーンズといういで立ちで、もうそこらの高校生にしか見えない。

その高校生が「殺人以外はたいていまかり通る」と言われる酒場へ吸い込まれていったので、さすがにセンリツも泡を食った

瞬間的にあとを追いかけて――やめた。変装をしているということは、つまりそういうことだ。干渉すべきではない。しかし。

せめてもと聴覚に意識を集中する。多勢に無勢でおかしな因縁をつけられていないかだけでも確認したい。

ひどい喧噪。別名「大声で密談が交わされる店」を思い出す。内部は意外なほど広く、あちらで女たちのあられもない嬌声が響き渡り、こちらで酔っ払いが小競り合いを始めるといった有り様だ。誰かがジョッキを取り落としでもしたのか、ガチャンという派手な破壊音に眉をしかめる。

クラピカは――いた。店の奥。センリツの位置からはちょっと遠い。おや、誰かが向かい側に座ったようだ。足音からするとかなりの小躯。年齢はたぶん40前後。何か話しているが、雑音にかき消されて聞き取れない。誰だ。何を言っている。

(情報料なんていらねえ。あんたの足、堪んねえよ――舐めさせてくれ)

「ええ?」

ようやくチューニングを合わせるなりそんなセリフが耳に飛び込んできて、思わずセンリツは声をあげてしまった。しかも揶揄いの響きはない。真剣だ。

(冗談か?)

(つれねえな。これでも本気だぜ)

(私としては金銭のほうが有り難い)

(金よりあんたのほうが魅力的だ。な、踝から先でいいんだ。頼むよ)

(この世で最もくだらない交換条件だな。他をあたらせてもらう)

(そ、それならこうしよう。とっておきの情報をやるよ。Zシティの闇オークションに…)

このあたりでいたたまれなくなり踵を返す。

なんとなく彼は応じるような気がした。足先くらい、あの覚悟の前にはどうということもあるまい。ドブ板をうっかり踏み抜いたようなものだ。

だけど決定的な了承の言葉を聞くのは――嫌だった。

***

…数日間の所在不明を経て戻ったクラピカが、地下を経由せず直接事務所に上がってきたので、センリツは意外に思った。彼のイレギュラな外出は十中八九『緋の目』に関することであり、取り戻した仲間はなにはさておき地下霊廟に安置されるのが常だったから。

一度など、かなりの深手を負っているにもかかわらず、止血も治療も後回しにしていたため、2、3日のあいだ使い物にならなかった。死人のような顔色をしているくせに、却って冴えわたった美貌はどういうつもりだ、と造物主の胸倉を掴んでやりたくなったが。

「センリツ。少し、いいだろうか」

マフィアの世界で上下関係というのは絶対だ。しかしクラピカはセンリツを未だ対等な同僚として遇する。一方的に呼びつけても済むところを、自ら足を運ぶのだ。おかげで「ノストラード組の若頭は女の趣味が悪い」などと一部で噂される始末である。ちなみにこの噂を耳にした本人の反応は、冷ややかに「何のことだかさっぱりわからない」だった。

「新しい依頼かしら? それか問題でも?」

「いいや。仕事とは関係がない。――これを」

と言って手渡されたのは分厚い書類。よく見れば羊皮紙で、しかも譜面だ。

「作曲家Pの直筆だ。奏者が次々と不運に見舞われたという曰く付きの品らしい。

 もちろん『闇のソナタ』とは次元が異なるだろうが、何らかの手掛かりになるかもしれない。差し支えなければ受け取ってくれないか」

手が震えた。

「…どこで、これを?」

「Zシティの闇オークションだ。『緋の目』が出品されるという噂だったが、同時にガセだとも囁かれていた。

 結果はまあガセだったのだが…僅かでも貴女の役に立てば、足を延ばした甲斐もある。それだけだ」

眩暈がした。

あの店の喧騒。友人の面影。コーヒーの香り。すべてを狂わせた魔曲。揺曳する緋色。複数のイメージが一瞬のうち脳裏へ溢れる。

自分の心音が割れ鐘のようで。

もはや、泣いていいのか、怒ればいいのかさえ。

とにかく、



――ああもう本当に、この人は!



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