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甲斐田side
<え、がちぃ??
<そそ。まじらしい。
<えぇ〜、ざんねーん、ちょっと狙ってたのにぃ、
<てか、誰なんだろうね…好きな人。
あぁ、またこの話か…
“長尾に好きな人ができたらしい”
そんな噂が広まり出したのは3日ほど前。
他に好きな人がいる、だとかで振られた誰かがぽろっとこぼしたのが原因だった。
どうやら初めての断り方だったらしく、本当なんじゃないかとかそんな話があがったせいか、今じゃ学 年で持ち切りになるほどだった。
まあ、当の本人はあっけらかんとしてるけど。
<あの人じゃない??
<え、なにが
<ほら、今噂になってる…
<男が好きなんじゃないか、って言われてる人だよ
は、?
突然聞こえてきた言葉に耳を疑う。
あいつが…男が、好き……?
ふいに長尾に視線を送る。
一見すると何も聞いてないかのように普段通りだか、すこし眉間が寄っている気がした
まあ、そりゃ自分の噂話を耳にしていい気分にはならないだろう、
なんて思いながら、
もし噂が本当で、バレてることにイラついてる…とかだったりしたら、?
どこか期待してしまいそうになっている自分がいる。
両思い、だったりしないかな、、
[景くん、最近…大丈夫そう、?]
『あ? あぁ〜、別に俺は気にしてねぇからいっかな、』
『ま、好き勝手言わせときゃいいだろ』
709
「え、てかめっちゃ気になってたんだけどそれ!!」
『えぇ、晴ぅ?』
「好きな子って…、だれ?」
『あ〜、、んー…、』
[え、なに景くんマジで好きな人いるの?笑]
どき、どきっ…
応えを悩んでいる長尾の隣で僕の心臓はうるさい程に早く動いている
僕じゃないかもしれない…、いや、てか僕の方が可能性は低いんだけど。
でも。
僕かもしれない。
そんなたった数パーセントにも満たない希望が僕を期待させる。
風邪が僕らの間を抜けていった。
それが何処かまだかまだか、と急かす僕の心に寄り添ってくれるようで安心する。
『いやぁ、誰にも言ってなかったんだけどぉ…』
『特別に…”親友”のお前らには教えてあげようではないか!』
ぁ、
ぇ、まってっ…、ねぇ、
やだ、、それ以上はッ、、
『実はぁ…』
ちがう、ちがうッ…、
親友、なんてっ…そんなの、
聞きたくないッ…!
『官吏科の子が…気になってんだよな最近。』
ぁ、
耳に入ってきた言葉が目の前を真っ暗にさせた。
脳がその言葉を拒絶するかのように何も考えられなくなる、
聞きたいことなんか山ほどあるのに。
親友だって、お前の傍に居場所があるのがうれしいのに、、
信頼して、大事なことを、告白してくれてっ、うれしいのにッ、、…
それでも僕の頭も心も、悲しみに満ちている。
うれしさなんて入る隙がないくらいに身体中悲しみでいっぱいになってしまった、
ぁ〜ぁ、…涙、でちゃいそッ…、
なんで、なんでッ、…、、って、さ、
[は、…晴くん、体調、悪い…?ちょっと休んだほうがいいよ、、ね?]
「……、うん、そうするわっ!ごめんなー、せっかくいい所だったのに」
「ま、また今度、聞かせろよ!!」
『おん、それより一人でいけるか?』
「うん、よゆー!じゃ、ね」
逃げるかのように屋上を離れる
体調なんかちっとも悪くない、と言わんばかりに全力で走っている
そうすることで少しは気が紛れそうだったから。
誰もいない場所へ、はやく、…、
ちょうど今、悲しみに塗れた僕を表すかのように、雨が降り始めた、
廊下の窓から校舎に駆け込む人の影が見える。
丁度いいかもしれない。1人になれる場所が見つかった。
いっかい、頭を冷やそう、
『はるぅー!』
まるで愛しい何かを呼ぶかのような、そんな甘い声で僕を呼ぶ長尾がいつしか僕の中で大きい存在になっていた。
幼い頃から、ずっと一緒だったから、
僕に心を許していたんだろうし、僕もそれが心地よかった。
でも、
いつしかアイツのことがかけがえのない存在になった。
甘えた声も、信頼も、アイツの隣の、あの居場所も。
全部が特別で、なにより大切なものだった。
そして、それが長尾も一緒であると…ただ素直に、盲目に、思っていた。
その結果がこれだった。
「…、く、そッ”ぉ、…、」
ふと顔を少し上げてみれば窓に反射した自分が写っていた。
ただ、勝手に好きになって、勝手に期待しては、思いすら伝えられないまま、勝手に振られて散っていった。
雨で酷く濡れた世界一哀れで、愚か者の姿だった。
雨に濡れ、冷静になった今思い返してみれば、過去の自分はなによりも情けなく思えて全てが嫌になってくる。
この好意に気づいて貰えるようなアタックをしただろうか、
お前だけは特別だと、伝えていただろうか、
僕の幸せはお前と共にあると、行動で表せただろうか、
いいや、全てしてこなかった。
ずっと特別な関係でありたいと願うくせして、ただアイツの隣という居場所に満足していた。
それがずっと続くもので、当たり前だと思い込んでいた。
本当に、ほんとうにッ…、愚かで、憎らしくてしょうがない、
「…ッ、好きだった、なぁッ…、、」
今更ながらに出たアイツへの想いの言葉は、激しい雨に打たれ誰にも届かずに消えていった。
もう随分と雨に濡れていたからか体が冷たくて思うように動かない。
…風邪ひくんだろうな、
でも、長尾に会えない口実ができるならまあ、いっか
なんて、何もかも諦めたかのようにすっきりとした頭は他人事のように考えることしかできなかった 。