テラーノベル
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橙×黄
🍣「サポートのドラムの〇〇さん、インフルで欠席だって……」
ライブ開始3時間前。最悪の報せに楽屋は凍り付いた。代役など見つかるはずもない。中止か、あるいは録音を流すか……重苦しい沈黙が流れる中、端のパイプ椅子に座っていたゆうすけが、静かに、けれど力強く口を開いた。
🦁「……俺がやるわ。練習しとったし、いけるやろ」
少し掠れた声で笑うゆうすけ。その頬は、すでに微かな熱を帯びて赤らんでいた。けれど誰もが、それを本番前の「気合い」だと思い込んでしまった。ゆうすけは自分を奮い立たせるように、火傷しそうなほど熱いブラックコーヒーを何度も喉に流し込んでいた。
ライブが始まると、ゆうすけのボルテージは異常なまでに跳ね上がった。
🦁「かかってこいよ、お前ら!!」
ドラムの前に座った彼は、普段の冷静さからは想像もつかないほど激しく、狂気じみた手つきで鍵盤を叩き始める。
中盤の曲、ゆうすけは原曲の形を留めないほどの、暴力的なアレンジを叩き込んだ。ラップ担当らしい、身体の芯まで響くような低音の連打。ジャズとヒップホップを混ぜ合わせたような不規則なリズム。
「おい、あにき……?」
背後から迫る、地鳴りのような音圧。メンバーは驚愕して彼を振り返る。そこには、滝のような汗を流し、瞳孔の開いた目で鍵盤を睨みつけるゆうすけの姿があった。
しかし、客席の一部――彼のプレイスタイルを快く思わないリスナーたちの反応は冷酷だった。
「……やりすぎじゃない?」
「自分だけ目立ちたいの?」
一つ、また一つと、黄色のペンライトが消え、無情にも足元へ置かれていく。視界の端で光が消えていく。それでも、ゆうすけの意識はもはや高熱で研ぎ澄まされ、真っ赤な顔で嘲笑うように弾き続けた。
🦁「……終わった、わ……」
ステージを降り、楽屋の重いドアが閉まった瞬間だった。
ゆうすけは返事もせず、壁を支えにする間もなく、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
🤪「お疲れ、あにき! 最後のアレンジ、エグすぎ……って、おい!?」
駆け寄ったメンバーがその肩を掴んだ瞬間、まるで沸騰したヤカンのような熱さに手を弾いた。
ゆうすけの顔は、どす黒い赤に染まっている。異常な高熱により、意識はとうに混濁の闇に沈んでいた。
🦁「……あ、……ぁ、が……っ……」
虚空を見つめる瞳が激しく泳ぐ。次の瞬間、彼の全身が、弓なりに大きく跳ね上がった。
ガタガタガタガタッ!
🤪「嘘やろ、痙攣……!? あにき!!」
床に叩きつけられたまま、四肢を硬直させ、凄まじい振動で体を震わせるゆうすけ。白目を剥いた喉からは、「ヒューッ、ヒューッ」と、肺が押し潰されるような苦しげな異音が漏れる。
🤪「タオル持ってこい! 舌噛むぞ!!」
パニックに陥る楽屋。その時、彼の喉元がボコりと大きく波打った。
🦁「……っ、う、げぇ……!!」
――ドチャッ、ドロリ。
喉の奥からせり上がった熱い塊が、一気に口から溢れ出した。
🦁「……ごほっ! ぉぇ……っ、ぁっ……げほっ!!」
ゴボゴボと音を立て、床にぶちまけられる吐瀉物。
無理やり流し込んだコーヒーと、焼けるような胃液が混ざり合い、無残な臭いと共に床を汚していく。嘔吐の衝撃で、彼の体はさらに激しく痙攣し、床を叩いた。
🍣「あにき! 横向け! 詰まるぞ!!」
リーダーが必死に彼の体を支えるが、ゆうすけの意識はもう戻らない。
激しい熱と吐瀉物にまみれながら、ゆうすけはなおも、無意識の中でリズムを刻むように指先をピクピクと動かし続けていた。
熱狂のライブと、冷たく消えたペンライト。
その狭間で彼は、自分の全てを焼き尽くしてしまっていた。
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