玲央の背後から響いたゼノの冷静な声は、鋭い刃のように突き刺さった。
「……何をしている?」
(ヤベェねぇ……。)
玲央は心の中で舌打ちする。通信機のスイッチはすでに切ったが、ゼノに何をどこまで気づかれたかは分からない。
振り向くと、ゼノは静かにこちらを見つめていた。その瞳は冷静そのもので、じっと玲央を観察している。
「ちょっと、機材の調整をねぇ。」
玲央は軽く肩をすくめ、できるだけ自然に振る舞う。
「この機材、微妙にノイズが入ってたからさ。ついでにチェックしてたんだよねぇ。」
ゼノは微動だにせず、通信機のパネルに目をやる。
「それにしては、不自然な操作だな。」
玲央は内心、警戒を強める。
(……バレたか?)
「この周波数……短波通信に適したものだ。もしや、誰かと交信しようとしていたのでは?」
ゼノの指摘に、玲央の脳内に警報が鳴り響く。
(こりゃ、マズイねぇ……。)
張り詰めた空気が流れる。
「さて、玲央。君は一体、誰と話そうとしていたのかね?」
ゼノは口元に微かな笑みを浮かべながらも、その目は鋭く玲央を見据えていた。
その時——
「ゼノ、その子をあんまり問い詰めてやるなよ。」
低く落ち着いた声が部屋に響く。
(……スタンリー。)
部屋の入り口に、ライフルを肩に担いだ男——スタンリー・スナイダーが立っていた。
ゼノは視線を向ける。
「スタン、私はただ彼が何をしていたのかを知りたいだけだよ。」
スタンリーは肩をすくめ、玲央の方をチラリと見る。
「そいつが敵に通じてるってか? まあ、可能性はゼロじゃないが……」
ゆっくりと歩み寄りながら、スタンリーは玲央に向かって問いかける。
「なあ、坊主。お前、マジでスパイなのか?」
玲央は一瞬目を細めるが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。
「まさかぁ。そんな面倒なこと、するわけないでしょ。」
スタンリーは玲央をじっと見つめた後、鼻で笑った。
「まあ、そんな簡単に”はいそうです”とは言わねえか。」
「当然ねぇ。」
玲央は肩をすくめる。
ゼノはなおも冷静に玲央を観察していたが、やがて深く息をついた。
「……スタン。彼の監視を強化したまえ。しばらくは慎重に観察する必要がありそうだ。」
「了解。」
スタンリーはライフルを肩にかけ直すと、玲央に視線を向ける。
「お前、妙な動きをしたら即座に止めるからな。覚えとけよ。」
玲央は苦笑しながらも、内心では冷や汗をかいていた。
(……ゼノとスタンリー、両方に警戒されたのは面倒だねぇ。)
玲央は慎重に動く必要があると悟った。
(このままじゃ、千空たちと連絡を取るのがますます難しくなる……。)
だが、諦めるつもりはない。
玲央の頭の中で、新たな作戦が動き始めていた——。
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