スタンリーの監視が強化されたことで、玲央の自由な行動はますます制限されることになった。
(……さすがに、厳しくなってきたねぇ。)
実験室でも、ゼノの視線を感じる。食事の時間ですら、スタンリーが遠巻きに見張っている。
玲央はテーブルに肘をつきながら、ゆっくりと水を飲んだ。
(このままじゃ、千空たちに連絡を取るどころか、下手に動けば本当にスパイ扱いされて終わるねぇ。)
玲央はわざと気だるげにため息をつくと、テーブルに突っ伏した。
「……ダルいねぇ。」
「おや、疲れているのか?」
向かいに座るゼノが、静かに声をかける。
玲央は片目を開けてゼノを見た。
「まあねぇ。ずっと監視されてたら、誰だって疲れるでしょ。」
「それはそうだな。」
ゼノは淡々とした口調で答えながらも、玲央を注意深く観察していた。
玲央は何気ない仕草を装いながら、ゆっくりと視線を動かす。
部屋の片隅にある無線機——それが今の玲央にとって最も重要なものだった。
(どうにかして、これを使う方法を考えないとねぇ。)
しかし、ゼノの警戒心は高い。下手に触れれば、一瞬で疑われる。
そこで、玲央は別の作戦を考えた。
——まずは「信用」を得ること。
千空のように知識で信用を勝ち取るのは難しいが、玲央には玲央なりのやり方がある。
それは「音」の力を使うことだった。
玲央は目を閉じ、静かにリズムを刻む。
(ゼノが油断する瞬間を作る。スタンリーが監視を緩めるタイミングを狙う。)
音楽には、人の心を動かす力がある。
そして、玲央が得意とするのは「ノらせる」こと——。
玲央は、ゼノたちの前で、ある計画を実行する決意を固めた——。
***
その夜。
研究所の片隅で、玲央は静かに口を開いた。
「……ノってきたねぇ。」
静かな夜の空気に、玲央の歌声が響く。
最初は小さな声だったが、次第にリズムが生まれ、空間を支配するように広がっていく。
ゼノたちは驚いたように振り向いた。
スタンリーも、銃を肩にかけたまま立ち止まる。
「……へぇ、お前、歌えるのか?」
玲央は笑みを浮かべながら、さらに音を重ねていく。
「まあねぇ。オレの戦い方は、リズムに乗ることだから。」
歌声は、研究所の無機質な空間に溶け込んでいく。
不思議なことに、ゼノもスタンリーも、その音に引き込まれていた。
(このタイミング……今しかないねぇ。)
玲央は、静かに足を動かし、無線機のそばへと近づいた。
カチッ
その音が鳴った瞬間、スタンリーは玲央に銃口を向けた。
「……やっぱ、誰かと繋がってんな?あんた。」
「…あっは、これでバレるとかまじ…?」
「警戒をしておいてよかったよ。つい昨日、謎の周波に繋がってね。」
玲央は近くにある薬品に目を向けた。
ゼノが言っていた衝撃を加えるとと白い煙が出るというものだ。
「くくっ、やっぱり化学は面白ぇな!」
玲央は薬品を手に取り地面に投げその瞬間走り出した。
白い煙がボワっと出て視界を塞いだ。
後ろから銃声が聞こえる。
玲央はそれを無視して走り続ける。
「ここで捕まるかよッ!!」
玲央は走った先にあった窓から飛び降りた。
「さぁ!!ノってきたよ!!」
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