「……研磨、さっきの……本気で言ったの?」
夕方の体育館裏。
部活が終わった帰り道で、🌸が立ち止まった。
研磨はいつもと同じ猫背で、フードをいじりながら視線を逸らす。
言ってしまったのは、ほんの十分前。
『そういうとこ、嫌い』
相手が🌸だと、心の余裕がなくなる。
無気力な顔の裏側で、胸だけがざわざわしていた。
研磨は眉を寄せて、でもすぐに答えられない。
「……あー……その、ね。……勢い……だった、というか」
声は小さくて、語尾が消えていく。
🌸は唇を噛んだまま。
それを見た研磨は心の中でため息をつく。
(……やっぱ傷つけた、よね)
彼は感情の観察が得意だ。
他人の嘘も本音も、表情の動きで読める。
だからこそ、🌸の“悲しい”を見逃せない。
「……嫌いなわけない、よ」
か細い声で、ぽつりと落とす。
🌸が顔を上げると、研磨は珍しく目を合わせた。
その瞳には、ぐるぐるに渦巻いた後悔が滲んでいる。
「……あのね、俺、分析得意だけど……
🌸のことになると、全然ダメ。
いつも通りじゃいられない、っていうか……」
語尾が弱く震える。
「……バレーより、ゲームより、……🌸が気になって……それが、むずかしい」
手元の指がもぞもぞ動く。
「……だから、ちょっと……嫉妬した。
俺に言ってほしかったのに、他の人に頼って……なんか、モヤモヤして……」
本人は言いたくなさそうなのに、それでも誤魔化さない。
研磨は大事な人の前だけは嘘をつかない。
「……で、言っちゃった。嫌い、って……」
ほんの少し間があって、
「……ごめん」
その声は、いつもよりずっと弱くて、素直だった。
研磨はそっと🌸の袖をつまむ。
普段なら絶対しないような距離の詰め方。
「……嫌い、なわけない。
俺、嘘つくの下手だし、🌸の前じゃ……もっと下手になるから……」
そして、しばらく見つめてから。
「……好きだよ。多分、俺にしては……だいぶ、強めに」
頬がほんのり赤い。
照れてるのに、それを隠す気がまったくないのが研磨らしい。
🌸が近づくと、研磨はびくっと肩を跳ねさせた。
「……その、もう泣かないで。
泣かれるとどうしたらいいか、わかんないから……でも、そばにはいるから」
研磨は少しだけ前髪を触り、
「……帰ろ。
今日は……一緒にゲームしててもいいし、
俺が負けても…ちゃんと、怒らないから」
その言い方があまりに不器用で、優しくて、🌸は思わず笑ってしまう。
研磨はその笑顔を見て、かすかに安心したように呟く。
「もう嫌いなんて……絶対、言わないから」
その声は、小さくて、でも誰より本気だった。







