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「……しんちゃん、ほんまにそう思ってるん?」
玄関の前。
買い物袋を両手で持ったまま、🌸は俯いていた。
さっき——ほんの些細な行き違いで、
北信介はいつも絶対に言わへんような言葉を、勢いで吐いてしまった。
『そういうとこ嫌いやわ』
言った瞬間、自分でも「しまった」と思った。
けれどプライドと完璧主義が邪魔をして、すぐに謝れなかった。
北信介は拳をぎゅっと握る。
普段は感情を顔に出さん男やが、今は胸の奥がざわついて仕方なかった。
「……🌸」
彼女が上を向いた。
瞳は潤んで、必死に我慢しているのがわかる。
その姿を見た瞬間、北の中で何かが“ブチッ”と切れた。
「……俺の言ったこと、気にせんでええ」
低くて、少し掠れた声。
怒ってる圧じゃない。
自分自身に怒っている声。
「嫌いなんて……言うわけないやろ。勢いで言うたんや。あんなん……ほんまは言いたくなかった」
🌸はぱちぱちと瞬きをする。
北は一歩、彼女に近づいた。
普段から距離感に無駄がない男やのに、今は珍しく動きがぎこちない。
「なぁ、🌸。
俺、完璧やないねん。おばあちゃんに“誰かが見てるよ”言われて育って、なんでも丁寧にやらなあかん思ってきたけど……」
目を伏せ、ぎゅっと眉を寄せる。
「お前の前やと、それが崩れる。調子も狂う。……それが悔しくて、情けなくて、つい言うてしもた」
胸の内を吐き出すように、ゆっくりと言葉を落とす。
「でも嫌いなんかちゃう。
お前のそういうとこ含めて、全部……好きや。腹立つくらいにな」
🌸の表情が緩んだ瞬間、北がそっと買い物袋を取り上げた。
「泣くなや。俺が悪いねん。
……謝るの下手やけど、ちゃんと謝るわ。ごめん」
そしてぽつりと、いつもの淡白なトーンで。
「🌸のこと嫌いになるわけないやろ。俺が誰より好きなん、ずっとお前なんやで」
触れるだけのキス。
反復も継続も丁寧さもなくて、ただ感情のまま。
「……帰ろ。今日は俺が全部やる。黙っとってもええから、側におってくれへん?」
そう言う北の横顔は、完璧でも無表情でもなくて――
ただ彼女を失うのが怖かった、ひとりの男の顔やった。
🌸は小さく笑い、「うん」と頷いた。
北はほっと息を吐き、かすかに照れたように呟く。
「……ほんま、お前のこと好きすぎて困るわ」