テラーノベル
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「――って、なんでこのタイミングで、こんなコテコテの恋愛劇なんだよ!」
月曜日の放課後、いつもの夕暮れの部室。星蘭と蹴翔は、手元の台本を握りしめたまま、机にガクッと突っ伏した。二人が所属する演劇部。そこで来月発表されることになったのは、学校の噂とは1ミリも関係のない、完全なフィクションの王道ラブストーリー『夕暮れの坂道で、君に文字を紡ぐ』だった。しかし、問題はその内容だ。偶然にも、劇中に登場する主人公たちのセリフや設定が、二人があの日放課後で自爆した「おの八文字」「ほの七文字」を彷彿とさせるような、じれったいすれ違いの連続だったのだ。おまけに、そのダブル主役(カレカノ役)に選ばれたのは、部内で最も演技がうまい星蘭と蹴翔。学校では「小野木健太郎&堀内千尋」のカップル誕生と同時に、自分たちのバカップル演技の件も本気で茶化され、大盛り上がりしている最中。さらに、お互いに
「あいつが本当に好きなのは別の人(小野木、堀内)なんだ」
という強烈な勘違いと嫉妬を胸に抱えたまま、二人の「主役としての居残り練習」がスタートした。
「ほら、モタモタしてると駄菓子屋閉まるよ。さっさと第一場、通すぞ」
蹴翔は無理やりプロの表情を作り、部室の真ん中に立った。
「……分かってるよ。いくよ」
星蘭もスッと目を閉じ、一瞬で『恋するヒロイン』のスイッチを入れる。星蘭がゆっくりと目をあけた。夕日の赤い光をいっぱいに浴びた、嘘を一切混ぜない、100%本気の少女の顔。これは台本通りの、完全なフィクションの演技だ。だけど、その口から紡がれる言葉には、どうしても自分の本音が乗ってしまう。
「……ねえ。私、実はあなたのこと、ずっと前から好きなんだよね。これ、演技じゃないよ?」
トクン、と部室の一瞬の静寂。台本通りのセリフ。なのに、星蘭の心臓は、あの日以上の熱量でバクバクと暴れ狂っていた。
(演技。これはただのフィクション。だから、どれだけ感情を込めても、全部『お芝居の練習』で片付けられる……!)
星蘭は一歩、蹴翔との距離を詰めるように身を乗り出す。
「世界一鈍感で、人の気持ちを裏返してしか見られないバカだけど、私、本当にあなたじゃなきゃ嫌なの。これは、一生に一度の、本当の、本物の告白だよ……!」
一気にまくし立てた星蘭の瞳から、大粒の涙がポロリと頬を伝ってこぼれ落ちた。主役としての完璧な、非の打ち所がない演技だ。だけど、その奥にあるのは、小野木健太郎への強烈な嫉妬なのか、それとも目の前のアイツへの本音なのか、自分でももう判別がつかなかった。あまりの熱量に、受ける側の蹴翔も完全にキャパシティをオーバーしていた。台本には『ここでキザに笑いながらヒロインを抱きとめる』と書いてある。いつもなら1秒と経たずに大人の余裕を見せるはずの彼が、今は喉をゴクリと鳴らし、ガタガタと肩を震わせていた。
(……クソ。星蘭のやつ、小野木のことが好きだから、こんなにリアルな告白の演技ができるのか? 俺じゃなくて、あいつを思い浮かべて泣いてんのか……!?)
胸をかきむしるような猛烈な嫉妬。それが、蹴翔の『役者としての表現力』を限界突破させた。蹴翔は台本を床に投げ捨てると、ガバッと星蘭の両肩を掴んだ。いつものキザな笑顔は消え、剥き出しの、本気の少年の目で星蘭を真っ直ぐに射抜く。
「……お前、それ、ガチな……」
セリフではない、完全なアドリブ。いや、ただの本音が口から漏れ出す。
「そんな顔で泣かれたら、俺が……他の男に渡したくなくなるだろ。俺の本当に好きな女子は、お前だけなんだよ……っ!」
「……え?」
星蘭は目を見開いた。台本にそんなセリフは一行も書いていない。お互いに「これは完全なフィクションの練習」「相手は別の人が好きなはず」という盾を構えながら、その盾をへし折るほどの本気の熱量と嫉妬でぶつかり合う二人。
「はい、そこまでー! 二人とも、初日から仕上がり最高じゃん!」
パチパチパチ、と部室の入り口から突然拍手が聞こえた。
「――っ!?」
二人が飛び上がるようにして離れると、そこには忘れ物を取りに戻ってきた演劇部の顧問の先生と、数人の部員たちが立っていた。全員、二人のあまりにもうますぎる、そして熱すぎるフィクションの演技に顔を紅潮させて感動している。
「いやー、大橋と穂志羅のバカップル噂、クラスの連中が本気で茶化してるから心配したけどさ。このフィクションをそれだけの熱量で演じられるなら、来月の本番、全校生徒が号泣間違いなしだね!」
「あ……あはは……。ありがとうございます……」
星蘭は真っ赤な顔のまま、ジト目で床の台本を拾い上げた。
「だろ? 俺たちの演技力、舐めてもらっちゃ困るぜ……」
蹴翔も震える手で耳たぶを真っ赤にしながら、どうにかキザなポーズを作ってみせる。学校中から本当に茶化されながら、完全なフィクションのダブル主役という最強の「お芝居の舞台」を用意されてしまった、二人の嘘つきコンビ。「カレカノの練習」という名目で交わされる、100%の本音と、お互いへの強烈な勘違い。二人の、世界で一番うますぎて不器用な『化かし合い』は、いよいよ舞台の上で、本当のクライマックスへと加速していく。
コメント
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あーもう、この回めっちゃ良かったわ!「演技だから」って盾にして本音ぶつけ合うの、最高にじれったくて胸が熱くなった。星蘭の涙の告白シーン、台本通りなのに本物すぎて泣ける。蹴翔のアドリブ「俺の本当に好きな女子はお前だけ」で完全に持ってかれたわ。顧問の先生のタイミングも絶妙で、二人の気持ちがバレそうでバレないもどかしさがたまらん。次が待ち遠しい🔥