甘美な呪いを僕にくれた彼の事を、僕はきっと生涯忘れることはないだろう。
僕を取り込んだこの世界は、あまりにも長い年月僕を手放そうとはしなかった。
長い旅の果に辿り着いたのは一つの道で、其れはこの世界で一度生を終えなければならないことを指し示している。
だから僕は、この世界で生きていくことにした。
死ぬために、生きていくことにした。
だけど死ぬために生きるというのも其処まで容易ではなくて。
何をするにも気持ちは落ち着かない、何をしても疎外感しかない。
どんなにあがいたってこの世界にとって異物でしかない僕が生きていくための場所はあまりに遠くて、見つけられそうもない。
行く宛さえ失って、巡り巡る時計の針が僕を置き去りにして嘲笑う。
皆先へ先へと走る中、この世界の人間ではない僕は世界に拒まれて取れ残されていく。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!!
だけど、この世界から出るにはそうするしかない。
そう理解していても、此の手に握るナイフを体に突き刺すことなんて出来やしなかった。
僕は、臆病者なんだから。
辛くて、悲しくて、苦しくて、この世界が憎らしくて、なのに愛おしくて。
どう泣けば良いのかさえわからなくなってきてしまった僕に差し伸べられた手が、与えられた言葉が。
甘美な呪いが、僕を蝕む
その温もりが、頬を撫でた手が、僕を彼に縋らせる。
僕はこの世界で生きていていいの?
僕はこの世界に受け入れられない
それでも、僕の手を引いてくれるの?
問いかけた言の葉に彼が笑って頷いた。それで良いんだと、それが良いんだと。
ああ、そんな事を言われたらもうこの手を離せないじゃないか、なんて、思ったときにはもう遅すぎた。
一度希望を知ってしまえば手放す事なんて出来るはずもない。
あぁ、願わくば
この世界から僕の形が無くなるまで、手探りで生きて、そして、笑って彼の側を歩きたいと。
そう思ってしまうほどの呪いを、僕は背負って生きていくんだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!