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「君が私に会いに来るなんて、珍しいな」
クラウディウスは、ミハエルの真意を探る様にして見る。すると、彼の後方から見覚えのある令嬢が、颯爽と歩いて来るのが見えレンブラントは固まった。
「これはまた、面白い事になりそうですね」
ボソリと笑いを噛み殺しながらテオフィルがそう呟いたのが聞こえた。クラウディウスやヘンリック、エルヴィーラまでもが同じ様に思ったらしく、笑いを堪えるのに必死だ。
他人事だと思って面白がっている……腹が立つ。だが腹は立つが、こんな場所で怒る訳にもいかないと、レンブラントはグッと堪える。
「えぇ、まあ……俺は用はないんですけど」
ミハエルの言葉に確信を覚えた。そして思う。普通、ここまでしないだろう⁉︎ と。
どう動かしたかは謎だが、王子であるミハエルを使ってまで接触しようとしてくるとは、執念の様なものを感じる……。
「話があるんだろう」
唖然としていると、迷惑な事にミハエルが余計な事を言って彼女を焚き付けようとする。
彼女はクラウディウスに対して正式な礼を取り挨拶を終えると、迷わずレンブラントへと向かって来た。
「レンブラント・ロートレック様でございますね」
「あ、あぁ……そうだよ」
今更本人確認されるとは思わず、吃ってしまった。
顔が引き攣るが、人前で女性に恥をかかす訳にはいかないと、無理矢理笑顔を作る。
「レンブラント、こんな場所まで足を運んでくれたんだ。観念して、デートの一つくらいして差し上げろ」
(いやいや、おかしい。足を運んでくれたって、誰も頼んでないだろう⁉︎)
まるでレンブラントが頼んだ様に言うのはやめて欲しい。内心クラウディウスに突っ込みを入れながら彼を睨む。
「男なら腹括れ」
「往生際が悪いですよ、レンブラント」
更に追い討ちをかける様にエルヴィーラまでもが、うんうんと頷いていた。
(一体何なんだ、この空気は……)
まるでレンブラントが怖気付き尻込みする情けない男の図になっている……。
彼女に視線を戻すと、レンブラントの前に立ち真っ直ぐに此方を凝視していた。ついでに、その場の全員からの視線も突き刺さる。
「……」
ここは、大人になって自分が折れる他なさそうだとレンブラントは内心項垂れながら、諦めた。
「ティアナ嬢、だったかな」
「私をご存知なんですか?」
「うん、まあ、ね……」
目を丸くする彼女を見て、レンブラントは目を見張る。あれだけ付き纏われて知らない筈がないだろう⁉︎ 喉元まで出か掛かった言葉を飲み込み、軽く咳払いをした。
「それでティアナ嬢、君の期待に沿えるかは分からないけど、デートするくらいなら構わないよ。何時にしようか?」
今日程自分自身を紳士だと思った事はない。レンブラントは爽やかに笑って見せ、自らデートを申し出た。
「デート……」
だが何故か思っていた彼女の反応がおかしい。恥ずかしそうに頬を染め上目遣いで歓喜する、そんな反応を想像していたが、実際は呆然として瞬きを繰り返している。
「レンブラント様!」
「⁉︎」
暫く呆然としていた彼女は突如大きな声を上げ、テーブルにバンッ! と手をついた。
「デートなんて、どうでも良いんです!」
そして、衝撃的な彼女からの一言にレンブラントは固まった。