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レトとセツナから離れて、スノーアッシュの人たちと歩く私。
最初は二十人程いた兵士がいたけど、途中からいなくなっていった。
私に用事があると言った男は何も話い。
何をされるのか不安になりながらも、空を見上げて前に進む。
絶対にふたりの王子がいる場所に帰ると強く願いながら……。
「これから寒くなりますので、こちらのコートを着てください。
新品ですから安心してくださいね」
男の仲間が話し掛けてきて、私に厚い生地で作らたコートを渡してきた。
それを着ていると、遠くからパカッパカッと足音が近づいてくる。
この音は聞いたことがあった。でもどうしてここにいるのか不思議だ。
やって来たのは馬車。
屋根までしっかりと作られていて窓もついている。
「なんで馬車があるの……?」
「目的の場所の近くまでこれで移動する」
「でも馬ってこの世界に殆どいないんじゃ……」
「いいから早く乗れ」
「隊長! 大切なお客様に失礼ですよ。
滑りやすいですから、足元に気をつけて乗ってくださいね」
フードを被った男は冷たいけど、その仲間の人たちは意外にも笑顔で接してきてくれた。
悪い人だと判断するのはまだ早いかもしれない。
レトとセツナにとっては、敵なんだけど……。
馬車に乗ってから窓の外を見ていると、雪が降ってきた。
それは、真っ白ではなく灰色のようにも見える。
ここがスノーアッシュ……――
草が枯れ、地面が濡れて、雪が積もっている。
時計がないから出発してどのくらい経ったか分からない。
しかし、季節がガラリと変わったから、大分離れた場所に来たような感じがした。
それから馬車を降りて、下水道が流れる地下を歩いた。
いつになったら着くんだろうと思うくらい長い道のり。
コートを着ても寒いし、顔も冷たくなってきた。
不満を言いたい気分になって来た時、大きな扉の前に着いて男が足を止める。
「着いたぞ。おまえに用事がある人はここにいる」
ドアをコンコンッと叩いてからゆっくりと開けて、男はその部屋の中に入っていった。
私も一緒に入って辺りを見渡した時、誰かがこちらに走ってくる。
「待ってましたよ、かけらさん!
さぁ、ボクとおうちデートをしましょう」
満面の笑顔で迎えてくれたのは、ライトブルーの髪の毛が目立つ少年のような人。
白い軍服は金色で縁取りされていて、きらめくマントを羽織っている。王子様みたいな格好だ。
「おうちデートって……」
「かけらさんの事はシエルから全て聞いています。
別の世界から来て、旅を始め、グリーンホライズンとクレヴェンの同盟を結ぼうとした。
そしてここに連れて来られた。……ボクのお願いによって――」
なぜだろう。私がこの世界に来てから行ったことを怖いくらい完璧に言っている。
「あなたは何者なんですか?」
「ボクはスノーアッシュ第さ…、第二王子。
名前はトオルです。
かけらさんと早く仲良くなりたいですから、呼び捨てで呼んでくださいね」
また王子に出会うことができた。
戦争を止めるために、四つの国の王子と会おうとしていた私にとっては好都合だ。
「一体、何の用があって私をここに……?」
理由を聞いてみると、トオルは片膝を床について私を見上げて、手を差し出した。
真剣な眼差しに惹かれてドキッとする。
「ボクと結婚して欲しいんです」
「けっ、結婚!?」
驚きのあまり声を張り上げてしまった私は口元を両手で抑えた。
連れて来られて、いきなりプロポーズされるなんて思っていなかった。
これは冗談なのか、本気なのか混乱してしまう。
「あれ……? 喜ぶと思ったんですけどね。
スノーアッシュの民は王族にプロポーズされたらすぐに受け入れてくれるんですよ」
困った顔をしながら立ち上がるトオルの近くに、私をここに連れてきた男がやって来る。
「それにしても早すぎだろ」
「シエルみたいにゆっくりしていたら、かけらさんが僕の前からいなくなっちゃうかもしれないですか!」
どうやら、クレヴェンから私を連れてきた男は“シエル”という名前のようだ。
この部屋に入ってからフードを下ろしているから、きっとトオルとは親しい間柄なんだろう。
「美しい髪と優しい目元、そして穏やかなオーラを放つ。
かけらさんをひと目見ただけで素敵な方だと思いました」
「いきなり結婚とか言われても……。
トオルのことを何もしらないですし……」
「まだ負けませんよ。
時間に限りはありますけど、かけらさんが好きになってくれるように頑張りますから」