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青空の下、県大会の決勝戦。
観客席からの声援、ピッチに響くスパイクの音。
佐南中と旭陵中の最後の戦いが、今始まろうとしていた。
佐南中のエースストライカー、駿(しゅん)は相手ベンチを見つめた。
そこには、旭陵中学校のエース、そして幼なじみの奏汰(そうた)の姿があった。
「絶対、今日こそ勝つからな」
駿が小さくつぶやくと、ちょうど奏汰も視線をこちらに向けて、ニッと笑った。
「……負けねーぞ、奏汰」
試合は激しく、どっちも一歩も引かない展開。
前半は0-0。後半開始から、どちらも全力をぶつけ合う。
後半20分。均衡を破ったのは、駿だった。
味方のパスを受け、ディフェンスを抜き、右足で思いきりシュート。
ゴールネットが揺れる。歓声が響き渡る。
「ナイス、駿!!」
でも、その直旭陵
奏汰もやり返す。ゴール前でフェイントからのシュート。
同点に追いつかれる。
――やっぱ、簡単には終わらせてくれねぇよな。
残り3分。体力も限界。でも、引けない。
そして、最後のチャンス。駿は、ゴール前でパスを受けた。
視界の隅に、必死で戻ってくる奏汰の姿。
(悪い、奏汰)
駿は迷わずシュートを打った。
それが、決勝点になった。
試合終了の笛が鳴る。
スコアは2-1で佐南中の勝利。優勝。
みんなが駿に駆け寄って、肩を叩き、泣きながら喜ぶ中――
駿は少しだけ、人混みから抜け出した。
反対側のベンチ、座り込む奏汰の前に立つ。
「……奏汰、ナイスゴール」
そう言うと、奏汰は顔を上げて、汗と涙でぐしゃぐしゃな顔で笑った。
「そっちこそ……マジで、やられた」
「でもな、今日の試合……めっちゃ楽しかったわ」
ふたりは無言でグータッチを交わした。
「なあ、奏汰! これからも、ずっと一緒にサッカーやろーな!」
「当たり前じゃん! 俺らが最強の2トップだろ?」
「じゃぁ、どっちが上なんだよ!」
「奏汰と俺で、最強なんだよ!」
あのころは、いつも同じチームで戦ってた。
勝ったときも、負けたときも、ふたりで笑ってた。
でも、中学に上がって、それぞれ違う学校に進んで――
初めて、敵同士になった。
グラウンドの中央、白線の上に整列する選手たち。
「第1位、佐南中学校! おめでとうございます!」
歓声が上がる中、駿たちはトロフィーを受け取る。
キャプテンが代表で賞状を受け取る横で、駿はずっと隣の列――
旭陵中の選手たちを見ていた。
奏汰も、まっすぐ前を見て立っていた。
駿に久しぶりに会ったのは、他校との練習試合。
「あれ、駿?」
「お、奏汰!? ……敵チームってどういうことだよ!?」
最初は、笑いながら驚いた。
でもその日の試合で、ふたりはお互いのプレーに驚かされて、少しだけ距離ができた。
「「なんか、あいつ…強くなってる」」
あのときから、ふたりはずっと意識し続けてた。
「第2位、旭陵中学校! よくがんばりました!」
拍手が鳴る。
その音の中で、奏汰はふっと視線をあげると、佐南中の列に並んでいた駿と目が合った。
……次の瞬間。駿が口パクで何かを言った。
『ありがとな』
奏汰も、口元をちょっとだけゆるめて、うなずいた。
「しゅーん!ボール貸して〜!」
「やだ、自分の持ってきなよ〜」
「え〜、一緒に蹴ろうよぉ!」
はじめて出会ったあの日、サッカーボールひとつで仲良くなった。
だけど今はもう、全力で戦い合えるライバル。
それでも、根っこはずっと変わってない。
表彰式が終わり、チームの輪が解けていく。
駿はゆっくりと、奏汰の元へ歩いていった。
「……やっぱ、おまえいなきゃ、ここまで来れなかったわ」
「は? 何急にカッコつけてんだよ。カッコつけんなよ…」
「いや、マジで。ありがとな、奏汰」
奏汰は少しだけ照れくさそうに笑って――
「……こっちこそ、来年、高校、優勝、取るぞ。」
「おう、任せとけ。あ、でもその前に…受験ヤベぇかも」
ふたりは顔を見合わせて、思わず笑った。
その笑顔のまま、空を見上げた。
夏の空が、ふたりの最後の試合を祝福するように、青く広がっていた。
冬が終わって、制服の上にコートがいらなくなった頃。
駿は、真新しい制服に身を包んで、高校の正門をくぐった。
「はぁ〜、マジで受かったの奇跡だわ……」
見上げると、桜が満開だった。
少し緊張しながら、入学式の案内を探してると――
背後から声が飛んできた。
「おい、駿!」
えっ!?って振り向いた瞬間、見覚えのある顔。
「……は?」
思わず変な声が出た。
「なに固まってんだよ、遅かったなー!おまえ!」
駿の目の前には、旭陵中のエースだった奏汰が立っていた。
ふたりはそのまま、笑って握手した。
まるで、あの日の引退試合のあとみたいに。
「お前……なんでここに?」
「は? 駿が第一志望ここって言ってたじゃん、オレもだったんだよ」
「え、マジで? いやいや、絶対別のとこ行くと思ってた。というか、俺がこの高校来ること知ってたなら教えろよ!」
「教えたからな?人の話を聞いてない駿が悪い。あと、正直駿は受験に落ちるって思ってた。」
「奏汰、なんか照れてる?」
「照れてなんかねーよ!」
ふたりはしばらく笑い合ったあと、グラウンドの方向を見た。
高校のサッカー部が、すでに新入生向けに練習を公開していた。
「……なあ、駿。もう一回一緒にサッカーやろうぜ」
「は? こっちは受験で体力ガタ落ちなんだけど」
「関係ねぇよ。また、あのピッチで走ろうぜ」
奏汰がそう言って、先に歩き出す。
駿はちょっとだけため息をついたあと――
「しょうがねぇな」って笑って、あとを追いかけた。
あの日、同じボールを追いかけてたふたり。
今度は、同じユニフォームを着て、同じゴールを目指す。
新しい季節。
また、グラウンドから始まる――。