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4 - 第四幕:もう星は見られない-#1

♥

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2025年04月06日

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◯ATTENTION◯

・時系列的には一番最初の話

・特に捏造限界妄想過多

・今回はエロなし、フォリーが可哀想なだけ

なんでも許せる人向け

長くなるので小分けで出します






 遥か昔、そこには綺麗な屋敷と、青く生い茂った草と鮮やかな花の美しい庭園、そしてマッハ、カロライナ・マッハにとっての全ての幸福があった。庭園の芝生の上で少女カロライナは鍔の広い帽子を被ったまま木洩れ陽を浴び、盛ってきたレモネードを小さな口で少しずつ飲みながらのんびりと過ごしていた。彼女の栗色の長い髪と白い綿のワンピースは風で揺らぎ、澄んだ青い瞳は目の前でかけっこをして遊ぶ姉と弟を写していた。 姉のローラはアメジストの様な吸い込まれそうな魅力のある紫の瞳をした、真面目で優しく、そして自由に世界を形作る人であった。面倒見が良く、自分も弟とも良く遊び、度々キャンバスに鮮やかな色使いで絵を描き、そしてまた同じように世界の本質という絵の具で世界を作り、引き裂く事さえできた。

弟のクレイトはこの庭園の芝生の様に鮮やかな緑色の瞳をした、少し元気すぎるくらいには活発だった。己の家系、マッハ家をより強めさせる存在として産まれた彼は一瞬にして世界を駆け巡る能力があり、いつでも笑顔を絶やさず、度々別世界の話をすることもあった。

大きな大木に凭れ掛かりながら、2人を見ていたカロライナだったが、ふと、ローラに話しかけられるとぱちぱちとその大きな青い瞳を瞬かせて駆け寄った。

「なあに、お姉様」

「あなたがずっとウトウトしてそうだったからよ、今日もたくさん寝てたでしょう?」

「…うん、その、お友達と、遊んでてね」

「キャロルお姉ちゃん寝てる時も遊んでんのー!」

そう横からクレイトが突っかかって来ると、呆れるローラに対してカロライナは嬉しそうに、その友達の話を始める。

「えっとね、毎日白くて綺麗な世界に行ってね、ドリーマーっていうお友達と遊んでるの」

「へぇ…夢のお友達ね…どんな見た目か教えてくれる?キャロル」

「うん、だいたいこんな感じで…」

カロライナはローラに差し出されたメモ帳に、ペンでさっさとその姿を描いてみる。それは大きなベレー帽に白い仮面と二つの優しげな黒い目、ふわふわの髪とセーター、そして可愛らしい星の髪飾りを付けた小さくて少しぽっちゃりした少女であった。

「へんな見た目!こんなのが夢に出てくんのかよー」

「こらクレイト、そんなこと言わないの…キャロル、その子とどんなことして遊んでるの?」

「えっとね…お絵描きしたり、お花摘んだり、あとね、この子すごいの!いろんなことができてね、ちょっとおもしろい動物出したり、お天気変えたり、それでお星様とか見せてくれたの!」

「そうなんだ…その子と仲良くやってるのね?」

「うん!今日も会いたいなぁー」

「……それってさぁ、ほんとに大丈夫なやつかよ」

訝しむようにそう言うクレイトに対して、ローラも少なからず同じような感想を抱いているであろう表情を浮かべるが、カロライナは反抗するように、また、心から信頼しているように言う。

「大丈夫よ、あの子は純粋で、とっても無垢で…優しいの………ひいお爺さまのような意地悪な人ではないわ」

最後にぼそりと呟くように、カロライナは言う。彼女らの曽祖父なる帝王はカロライナが幼い頃からでも彼女らを抑圧し、その幼き身体には見合わぬ程の鍛錬や勉学を強いてきて、更に既に何度か遺伝子組み換えのための実験や手術までされていた。けれどもまだこの頃は平穏であった。家族と笑い合い、夢の中でも楽しむことができていた。

「あのクソジジイなんかじゃないなら、まぁ大丈夫だな!」

「こら、2人ともそんな言い方駄目でしょう?……私も、そう思うけど………」

ローラもまた、咎めながらも同意するような素振りを見せると、クレイトとカロライナは吹き出すように笑った。まだ幼き子供達の、人知れないコソコソ話。そうやって笑い合った後、カロライナはまた2人のかけっこ遊びに混じり、ワンピースの裾を掴み持ち上げながら走り回って、夕方になれば迎えに来てくれた使用人に連れられてそのまま屋敷へと戻った。

屋敷で過ごす晩の間、カロライナは眠るまでに様々なことをする。塔のように高く積み上がる学習書や参考書をその日支給された分全てさせられ、その後は力を受け継ぐためのトレーニングを数時間に渡りさせられ、やっと入浴し就寝する頃には12時を回っていた。尊敬すべき姉と元気過ぎるが健気な弟、その二人を目の当たりにしているからこそ日々耐えているカロライナ。彼女がその日々を耐えられる理由、その楽しみを早く味わう為にも、カロライナは暖かな紅茶を飲み、優しいクラシックをいつしかの誕生日の時に貰ったレコードで掛けた後、ふかふかとしたベッドの中に潜り込みそのまま眠った。目を瞑れば、カロライナの意識とその体は真っ白な世界へと放り込まれる。

──目を開ければ、いつも通り、カロライナは真っ白な暖かな世界にいた。白い空、黄色い雲、赤い葉をつけて優しく見護る大きな白樺の樹。僅かに白い草の多い茂っている地面から立ち上がると、今日もカロライナは見つけた。白くて、きらきらとした可愛いあの子を。

「…ドリーマー!」

カロライナが声を張り上げると、少女はゆっくりと振り向き、そのぽっちゃりとした身体でぽてぽてと歩み寄ってきた。

「カロライナ!今日も来てくれたんだ!」

「もちろん、だって、私の大切なともだちなんだもの」

日中よりも明らかに幸せそうな、ニコニコとした笑顔を浮かべながら、カロライナはそう言いつつドリーマーと呼ばれたその存在にハグをした。カロライナの方が鍛えている影響もあってか少し背丈が高く、カロライナの腕の中にすっぽりとおさまると、そのまま抱き返した。

「今日もすごく頑張ってたみたいだね?カロライナ」

「うん…ひいお爺さまがまた…その、色々するから、それまでにちゃんとしなさいって言われて…」

「大変だね…でもえらいよカロライナ!ほら、よしよししてあげる」

もっちりとした子供の可愛い小さな手が、カロライナのサラサラの髪を優しく撫で、暗い顔をしていた彼女もまた笑顔を取り戻した。

「そうだ、今日は何して遊ぶ?かくれんぼ?おにごっこ?それともお絵描き?」

「うーん…一緒にお絵描きしようかな」

「分かった!何描く?紙もペンもモチーフもなんだって出してあげるわ!」

そう言いながらドリーマーは、その小さな両手を広げると、そこから淡く眩しい光が洩れ、やがて形取られた光は72色の色彩豊かな色鉛筆セットと優しいクリーム色の触り心地と描き心地の良いルーズリーフのスケッチブックとなりドリーマーの手に落とされた。

「ほら、カロライナ、今日もあなたの絵を見せて!」

そう言いながらニコニコと笑顔で手渡すドリーマー。カロライナはそれを受け取ると、すぐに表紙を捲り、まっさらな1ページ目にサラサラと描き出す。様々な黄色を幾つも使い、正確に陰影をつけながらも優しいタッチで描き出されたものは、柔らかな微笑いを浮かべながら、星々に囲まれ輝いていたドリーマーの姿だった。その1ページを千切るとカロライナは手渡しする。

「どう?ドリーマー…の、その星飾りとか、結構頑張ったけど」

「すごいわ!まるで画家みたい…とっても綺麗で…あはは、恥ずかしくなっちゃうなぁ…ありがとう、カロライナ」

そう言ってドリーマーはぎゅっと、もこもことしたセーターに包まれた腕で優しくカロライナを抱きしめた。カロライナもまた嬉しくなって、またどこか気恥ずかしくなって、パッと離れ、今度はこの楽園を見渡す大きなアスペンの木を描き始めた。白い幹に紅い葉を付けた優雅な姿を、また写実的に描いている様子を、ドリーマーもまた感嘆の息を時折吐き出しながら見つめていた。

アスペンの木も、また、ジッと2人を見つめていた。




その日もカロライナは長時間の勉学と鍛錬に耐え、ヘトヘトに疲れた状態でやっとベッドに入ろうとするところだった。最近は帝国の状況はより悪化し、曽祖父とその仲間らの帝王等の独裁政治も益々過激さを増している。紅い空はより兵隊共の血で紅く染まり、人々は貧困と制限の大きくかけられた生活に苦しんでいた。カロライナとローラ、クレイトもいくら曽祖父の、帝王の曾孫だからと優遇される訳でも無く、また立派な駒となる為にも最近は日々の生活すら大きく制限をかけられ、実験じみたことをされる回数も増えてきた。そんな人としての尊厳も無く、ただ駒としか見られぬ生活の中の唯一の幸せ、癒しこそがあの夢の中の白い楽園と、大切な友であるドリーマーだけだった。

「…今日は何で遊ぼうかな…うふふ…」

ほくそ笑みながら、ベッドの中へ潜ったカロライナ。目を閉じれば意識はすぐに沈み込み、今日も幸福な楽園へ行ける…筈だった。

「………………ん…」

カロライナは、ゆっくりと目を開ける。今日もまた、ドリーマーが優しく出迎えてくれる。筈なのに。それなのに。

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!いだいッ!や゛めでぇッ!!やめでぇぇッ!!」

劈く様な悲鳴、真っ赤に染まり切った空、美しかったアスペンの木は、不気味な目が幾つも浮かび上がっている。そして木の下にて、悍ましい異形の姿をした寄生虫が、仮面の破れた片方から血を流し倒れていたドリーマーの白き無垢なる身体を、魂を、赤と黒で穢し、壊していた。

「ど、ドリーマー…?」

「だずげでッ!!だれか…だれかッあ゛あ゛あ゛ああッ!!!」

寄生虫の長い爪が、ドリーマーの白い腹を引き裂き、そこから得体の知れない何かを注入している。すると忽ちドリーマーの身体は音を立てて長く、恐ろしい程に手足が伸び、背は無理矢理高くされ、白い肌は真っ黒に染まりゆく。身体が再構築されているのだろうか、皮膚が突っ張り、骨が折れては繋がれるような鈍い音がし続ける。

「いだいいだいいだいッッ!!!!だれがだずげでッねぇッ!!い゛や゛あ゛あ゛あああッッ!!!!」

鼓膜が破れそうな程の断末魔が聞こえるが、カロライナは、ただただ怖気付き、足がすくみ、そして、そっと自分の頬をつねった。その瞬間、目の前は白い光に包まれ、ドリーマーの悲痛な姿も消える───

「…はぁッ!はぁッ…はぁッ…はぁ…ッ………」

目が醒めれば朝で、シーツは寝汗でぐっしょりと濡れていた。ドリーマーの、あの、泣き叫び、歪みゆく姿、それをカロライナは、見捨てた。彼女は急いで着替え、忘れる為にも朝から鍛錬を始めた。今からやっても彼女は救えぬということを悟りながら。

晩になる頃、カロライナは恐れていた。もしも夢を見たら、ドリーマーはどうなっているのか、あの異形はなんなのか、震えながらも、睡魔には勝てず、そのままベッドの中で眠りに落ちる。また、ゆっくりと沈みゆく………

目を開くと、そこは最早楽園では無く、地獄であった。怪物等が周りを囲み、不気味な、傷ついたアスペンの木の目が自分を見ている。そして、目の前には黒く大きな影があった。その影は、カロライナの視線を感じるとゆっくりと振り向く。

ボサボサの黒髪、破れた仮面、真っ黒な肌、傷付き紅く染まった指先、不気味な紅い目の浮かんでいる黒いズボン、けれども、白いセーターとベレー帽、それだけは全く同じであった。

ドリーマーだ、この目の前に居る怪物は、ドリーマーであったものそのものだった。

「………ドリーマー…」

「夢を見れなくなった、失ったアタシを、まだその名で呼ぶの?」

カロライナよりも圧倒的に背の高くなったそれは、長い腕を伸ばし、カロライナの顎をぐいっと上げる。

「…あの、昨日……その……」

「アタシを、見捨てたわよね?」

カロライナの心臓が強く脈打つ。バレている。見捨てたことが、その歪み変化する光景を見ていたことが。

「本当に…ごめ」

「ごめんなさいで事が済むならアタシは…こんな姿になっていなかった」

「その…ドリーマー……」

パキッ

後退りしたカロライナが足元を見ると、そこには砕けた星があった。かつて付けていた、キラキラ輝く星の髪飾り。今では輝きを失い、ただの星屑となっていた。

「あ…あぁ……」

カロライナがへたり込むと、ドリーマーはその自分よりも小さくなったカロライナの、細い首に手を掛けながら、けれども締め付ける事なく、そっと耳元に囁いた。

「……此処にもう来ないで、アタシはもう夢想家dreamerなんかじゃない、ただ裏切られ壊された愚か者フォリーよ」

その言葉を聞いた直後、カロライナは夢から醒めた。朝焼けの光が部屋から差し込んでいる。そして、あの悪夢の世界と大差がない程に、空も赤く染まっている。

それ以降、カロライナは夢を見なくなった。一切、あの悪夢の世界に行くこともなければ、かつての友に会うことすらなくなった。

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