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全く、何なんだあいつは。男が去って行った方角を見つめ肩を竦める。
「もう! なんで威嚇しちゃったんだよ」
不満げな声が聞こえ、視線を落とすと、そこには頬を膨らませて拗ねたような顔をしているナギの姿が見えた。
「何のこと?」
「とぼけないでよ。さっきの人、僕の知り合いなんだよ?」
「へぇ、そうなんだ。知り合いねぇ……。ただの知り合いにしては随分距離が近かったような気もするけど」
「それは、向こうが勝手にくっついて来ただけだし」
「ふ~ん、そう」
彼が言葉を紡げば紡ぐ程、腹の奥底からどろりとした嫌な感情が頭をもたげてくる。
理性を総動員して必死に押さえ込まないと、言わなくていい事まで言ってしまいそうになり、グッと唇を噛んで耐えた。
ナギがあの男とどんな関係なのか考えただけでも吐き気がしてくる。
このモヤモヤの正体は一体……? 蓮は胸の辺りを押さえ、眉を寄せた。
「ねぇ、お兄さん。もしかして……ヤキモチ?」
「はぁ? 何で僕が……!」
「違うの?」
「……ッ」
上目遣いで尋ねられ、思わず言葉に詰まる。
確かに、あの光景を見た瞬間からずっと苛立っているのは事実だ。
だって、嫌だったのだ。ナギの身体に他の人間が触れているのが。
大した抵抗もせず、されるがままになっている姿にもムカついて仕方がない。
だが、嫉妬していると素直に認めるのも悔しくて、口を開こうとするが上手く言葉が出て来ない。
何も言えないでいると、ナギが面白い玩具でも見つけたかのようにニヤリと口元を歪めた。
「ふぅん? そうなんだぁ」
何が嬉しいのか、ニマニマと嬉しそうに笑うナギに蓮は益々面白くない気分になる。
なんで直ぐに違うと否定しなかったのか。いつものように、余裕たっぷりに受け流せばよかったのに、今日に限ってそれが出来なかった。
そんな蓮の心を見透かしているのか、ナギは意味ありげな笑みを浮かべた。
「なに?」
「別に?」
ナギは全然「別に」と思っていない顔で返事をする。
まるで猫に遊ばれているネズミのようにじわじわと追い詰められているような気がして仕方がない。
どうしたものかと困惑していると不意に後ろから声が掛かった。
「ナギ君と蓮さん! 二人ともこんなところでどうしたの?」
振り返れば、不思議そうに首を傾げる美月が立っていた。そのすぐ横には東海と弓弦が控えている。
良かった、助かった。ホッと安堵の息を漏らし、先ほどまでの気持ちを切り替えるように小さく息を吐き出す。
「おはよう3人とも。何もないよ、僕もついさっき彼と会って、挨拶してただけだから」
我ながら見事な演技力だと感心してしまう。
普段通りの声色。表情。
だが、そんな完璧な仮面を被りながらも、心の奥底ではどす黒い何かが渦を巻いているのを感じていた。
「よく言うよ。お兄さん、俳優としてもやっていけるんじゃない?」
揶揄い交じりに呟きながらわき腹を小突かれ、余計な事を言うなとばかりに睨むが、当の本人は何処吹く風だ。
「どうでもいいけど、さっさと行こうぜ。例の話、詰めるんだろ」
「あ、そ、そうだった! じゃぁアタシ達先に行くね!」
「失礼します」
慌ただしく追い抜いていく三人を眺めながら、隣でクスクスと笑うナギを横目で見やる。
「……なに?」
「いや? 別に? あの三人って、仲いいなぁって思って。それより俺らも早く行かないと遅刻しちゃうかも」
「そうだね。急ごうか」
先ほどの件を深く追及されなかったことにホッとしつつ、
蓮はナギと並んでスタジオへと足を向けた。