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それからというもの、雨が降るたびに——彼に会える気がした。
……いや、会いたいと思ってしまった。
そんな自分に気づいて、葵は少しだけ頬を赤らめた。
(バカみたい……)
でも、止められなかった。
ある放課後。再び降り始めた雨。
傘を差して、葵は駅の裏道へ向かってみる。
前に遥が立っていた、あの電柱の下。
……いない。
(やっぱり、偶然だったのかな)
ふぅ、とため息をついて引き返そうとしたとき——
「……また、来たのか」
その声に、心臓が跳ねた。
振り返ると、近くの自販機の影に立っていた遥が、ポケットに手を突っ込んでいた。
「たまたま、です」
嘘だった。
ほんとは、会いたくて来たくせに。
でも遥は、それを見透かしてるみたいに、ちょっとだけ口元をゆるめた。
「へぇ。偶然、ね」
しばらく沈黙。
それでも、雨音が心地よくて、ふたりはその場から動かなかった。
「……平賀先輩って、雨の日にしか会えませんよね」
気づいたら、口にしていた。
遥は一瞬、表情を止める。
そして目を伏せて、小さく呟いた。
「……俺は、晴れが嫌いなんだよ」
「え?」
「晴れてると……思い出すんだ。全部」
その声は、かすかに震えていた。
(思い出す……?)
聞き返したいのに、聞けなかった。
そのとき、遠くで雷が鳴った。
「——行けよ。濡れるぞ」
遥はそれだけ言って、ふっと背を向けた。
「……また、雨の日に」
そう呟いた葵の声に、遥は振り返らなかった。
でもその背中が、少しだけ柔らかく見えた。