テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
48
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あーぁ、ゆづが降りちゃったらサービスエリア大混乱になっちゃうんじゃ……」
「ま、いいんじゃね? いい宣伝になるっしょ 此処のサービスエリアもアイスも。ついでにウチの番宣も出来て万々歳ってね」
呆然としている蓮の横で、美月と東海は苦笑交じりにため息を吐くと、それぞれ財布を手に取り出口へと向かう。
「俺もアイス買いに行ってきまーす」
「あっ! 待って! アタシも行く!」
バタバタと慌てて降りる二人を見送ると車内は一気に静まり返る。
バスの中に残されたのは、蓮とナギの二人だけだった。
静まり返った車内に、遠くからかすかに聞こえてくるざわめきが逆に耳に残る。
「……なんか、嵐みたいな人だね。銀次って」
「確かに。でも、いいんじゃない? 面白いし結構見てて楽しいよ。でも、黙ってたらちょっと強面でクールな印象だけど、しゃべると残念だよな、あいつ」
「ふはっ、ちょっ、銀次が可哀そうだって」
ケラケラと楽しそうに笑うナギにつられて蓮も思わず笑ってしまいそうになる。
「確かにちょっと強引な部分はあるけど。でも、明るくて良い奴だと思うよ? さっきも俺たちのこと気にしないでくれたし」
「うん、確かに。 まだ少ししか話したことないけど、一生懸命どうやったらコラボ成功するかって考えてるのがわかるよね。それにしても……ちょっと安心しちゃった」
「ん?」
「お兄さんのドタイプだったらどうしようかと思ってたから」
「酷いな。僕はキミ一筋だって言わなかったか?」
「言ったけどさ。銀次の顔と体が好みなんでしょう?」
口を尖らせて拗ねたようにナギが尋ねてくる。そう言えばそんな事を話したなと思い出し、蓮は苦笑いを浮かべた。
「あぁ。まぁ否定はしないよ」
「えぇっ、そこは嘘でも否定してよ! ほらやっぱりぃって思っちゃうじゃん」
「ハハッ。ごめんごめん。でもね」
蓮は優しく微笑みながらナギの頭をくしゃりと撫でた。
「キミが不安に思うことは何もないよ? だって僕は今、ナギだけを見てるから」
「っ……!」
そう告げるとナギは真っ赤になりながら口元を押さえた。照れているのか頬が赤く染まっている。
そんな可愛らしい反応を見せる恋人の姿に愛しさが込み上げる。
「……ずるい。そんな言い方……っ」
「したくなった?」
「……っばか……っ」
揶揄うように笑うとナギが軽く小突いてくる。その仕草が可愛くて思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、今は我慢だ。
「……ついさっき、草薙君に怒られたばかりだし……ぐぬぬ……」
「なにブツブツ言ってんのさ?」
「なんでもない。……早くナギと思う存分とイチャイチャしたいって思っただけ」
「っば……か」
悪戯っぽく笑いながら答えるとナギがさらに顔を赤くした。そのまま視線を泳がせ、困ったように眉根を寄せた後、ナギは蓮の手をギュッと握り返す。
「俺もしたいって思ってるっていったら……どうする?」
上目遣いで照れたようにナギが囁く。
潤んだ大きな瞳が揺れている。その眼差しが自分だけを捉えていることに優越感を覚えずにはいられない。
「ナギ……」
彼の名前を呼んで顔を引き寄せると、ナギはそっと目蓋を閉じて待ちの姿勢を見せる。
その無防備な姿が愛おしくてたまらない。
蓮はゆっくりと彼の唇に自分のそれを重ねると舌を絡ませ深く口づけた。
「はぁ……」
唇が離れた瞬間漏れ出た吐息が互いの唇をくすぐる。
「ふふっ」
「なに?」
「ん? 幸せだなぁって思って」
「僕もだよ」
額を合わせてお互いの存在を確かめ合うように抱きしめ合う。
その時。
「もー、ゆづの知名度舐めてた~。わかってたはずなのに、行くんじゃなかったぁ」
「!?」
突然どかどかと大きな靴音と共に、車内にドッと人数が雪崩込んで来て二人はバッと頭を引いて距離を取った。
「でもまぁ、何人かファンの人にも会えたし、結果オーライじゃね? 美月も桃子の活躍応援してるってめっちゃ握手求められてたじゃん」
「そりゃ、そう……だけど……」
「ま、オレあってのピンクだからな! 感謝しろよ美月」
「はいはい。いっつもアタシは感謝してるわよぉ」
美月が少し疲れたように腰を下ろしながら水のペットボトルを口に運ぶ。その隣では東海がふふん、と鼻を鳴らしなぜか得意げに腕を組んでいた。
「あーぁ。折角のイチャイチャタイムだったのに」
「まぁ、でも仕方がないよ……続きは部屋で……だからね」
耳元でぼそりと囁かれ、ハッとして横にいる彼を振り返る。ナギは悪戯っぽく微笑むと意味深に口角を吊り上げた。
「続き……?」
「お部屋でね」
妖艶な笑みを浮かべてウインクする彼に思わずドキリとしてしまう。
(この子はどこでそんな誘い方を覚えて来たんだろうか)
改めて釘を刺したつもりかもしれないが、どうにも可愛いお誘いにしか聞こえず、蓮はクスっと笑った。
「オッサン、なにニヤニヤしてるのさ。キモいよ」
いつの間にかこちらを覗き込んでいた東海がジト目でこちらを見てくる。
「別に。なんでもないよ」
「ふーん。まぁいいや。それより、例の動画明日の早朝に撮影するからってさっき美月が言ってたから、一応伝えとく」
さらりと告げられた一言の意味がすぐには理解できず、蓮は一瞬呆けてしまった。
ようやくそれが、兄に対する寝起きドッキリだと気付いたのは数秒後で、蓮は慌てて顔をあげる。
だが、既にそこに東海の姿はなく、全員の乗車を確認した凛の合図でバスは再び目的地に向かって走り出す。
その車輪の音は、静かな夜明けを切り裂くように響き――やがて新たな波乱の始まりを告げていた。