コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「座布団、半分かして。床つめたいんだもん」
「そ、そっか。悪いな、ひとり占めして」
少しだけゆずるつもりで身を引くと、その分行人がグイと寄ってくる。
ひとつの座布団にくっつき合って座るふたり。
義弟の硬い腕を感じ、星歌の視線が部屋のあちこちをさまよう。
「は、離れ……聞こえ……からっ!」
「なに?」
──離れて、心臓の音が聞こえるからっ!
本当に寒いだけだという義弟の様子に、星歌は心の叫びを喉の奥でぐっとこらえる。
代わりに、こう告げた。
「わ、私にはメンエキがナイ、から? その……キョリが? 距離が!」
「ん?」
小首をかしげる行人。
前髪がサラリと落ちて、黒毛がちな瞳に影を落とす。
その様に一瞬、ドキリと心音が高鳴る。
「わ、私は、キッスだってまだなんだ!」
「な、何、その宣言は……」
明らかに引いた口調の行人の前で、星歌の頬が赤く染まる。
「び、美人な義弟のせいで失恋つづきで、おつきあいをしたこともないんだ……コラ、そこ!お気の毒って顔をするんじゃない」
「俺は別に……」
うるっさい! 星歌は叫ぶ。
「姉ちゃん、ここ集合住宅だから声を……」
「私の……私の、はじめてのキッスは大事にとってあるんだ! 異世界へ行って、中世ヨーロッパでベルサイユ宮殿に住んでて、サラッサラの金髪で青い目をして白い馬に乗ってる貴族とイタすんだぁ。そして、城に住むんだぁ!」
「城に住むんだって……イタすんだって……姉ちゃん……」
イタい義姉を前に、行人が眉をひそめる。
「そもそも中世にベルサイユ宮殿はないよ? 今の宮殿の建築が始まったのが1661年だっけ。時代区分でいうと、中世じゃなくて近世だね。ルイ十四世の時代だよ。もちろん、異世界でもないしね」
「うぐぅ……」