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そういえば、この義弟は社会科の担当で、大学のときは西洋史を専攻していたんだっけ。
「あと、ベルサイユ宮殿にはトイレないけど。星歌、住める? バケツやおまるに用を足して、庭に捨てるんだよ」
「うぬぅ……史実で反論するんじゃない。この世界史オタクめ。私の清らかな夢を、おまるでぶちこわすなんて……」
うんちくを一つ披露して、行人は満足そうだ。
「そ、そういうお前こそどうなんだ? お前だってキッスもまただと、姉は知っているぞ?」
「キッスって……」
行人の視線が一瞬、泳ぐ。
「キスって言うのが恥ずかしくて、わざわざキッスって促音入れてるんだろ」
「そくおん?」
「キッスのツみたいな、詰まる音のこと」
「うっ……」
この男、ほんとうに私と同じ年月を生きてきたのかと言いかけた星歌の前で、義弟はしれっとした表情をつくってこう告げた。
「俺は、したことあるよ」
「えっ……ええっ!」
星歌のあげた悲鳴に、行人は大袈裟に手の平で両耳を塞いでみせた。
「さ、先をこされたなんて……悔しい。一体、どこのどいつと?」
そして、おもむろに「ハッ」と息を呑む。
「まさか、びーえる?」
「違うよ」
「じゃあ、オンナか?」
生々しい言い方に、行人は横目で彼女をにらむ。
「星歌、もういいよ……」
さっさと寝なよと立ち上がってクローゼットから予備の毛布を取り出す義弟の背に、星歌は尚も質問を浴びせ続ける。
完全に無視されていると悟ると、大仰に顔をしかめてみせた。
「じゃあ……じゃあ、これだけ!」
「何?」
「ドウテイ? せめて童貞だよね? 私だってまだなのに、行人がDTじゃないなんて、もうやりきれないよ!」
「………………」
「ええ? どうなんだ、義弟よ!」
「……それ以上セクハラ発言すると、今すぐお母さんに電話して星歌が学校クビになった経緯を説明するからね」
「ちょっ、クビじゃないってば。自分から辞めて……」