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鮮明に覚えている夢を見た。
その内容を簡単にまとめた話がこれだ。
お前の母親は後1週間後に死ぬことになる。
これは殺人でも自殺でもないただの病死、この運命は変えられない。
この話を言っていたのが自称神だった。
勿論そんな話を容易に聞く訳もなく、俺はその記憶を頭の片隅へと詰め込んでしまった。
それから間もなくして母親が突然として倒れ病院へ運ばれていった。呆然としていた矢先にさっきの記憶が蘇ってきた。
でもまだ1日も経っていないというのになぜ倒れ込んだのだろうか?
母親の診断の結果、それは不明だった。
医師からの言葉は「分かりません…」と素顔が見えないほどに下を向いて言った一言だけだった。
「ひとまず様子を見ましょう。」
その不確かな言葉もあった。
母親の目が覚めて俺はその場に駆け出した。
母親はもう既に60歳を越えている。俺は妻を持ち、子を授かっている身だ。
これまでの母親の思い出が残り1週間で止まってしまうことに後悔だけが残ってまう。
たまにウザイと思ってしまったり、喧嘩したり、そういう母親を憎む気持ちがあったけど、幸せを感じた時間の方がよっぽどだった。
「母さん!」
病室に着いてから大声で自分の母親を呼んだ。
その声に驚かされてこちらを向く人もいた。
母親はこちらを見ずにただ、窓の外にある逞しい緑で溢れている木を見つめていた。
俺が母親のベッドに近づくと母親がボソッとこちらを見ずに言う。
「分かってるから。」
その一言で俺は泣き崩れた。
もう現実は見えているのだと。
病院を彷徨っては原因を解明してくれと頼んだけれど、全て不明のまま1日が過ぎた。
寝室でただ一人、子供は妻と一緒に居させて、俺は天井を眺めながら手で目を抑えるように寝た。
するとまたあの夢を見た。
「どうだ?これで私のことを信じたであろう?」
あの自称神がまた俺の夢に現れたのだった。
「どうしてもっと…もっと前から言ってくれなかったんだ…?」
その返答は無し。ただ俺を見下ろしていた。
「お前…神なんだろ…?なら俺の母親の病気も治せよ…」
「それは出来ん。」
「なんで。」
「そんなことが出来るのであればこんな事にはなっておらん。」
「なら神を名乗るなよ…」
「私が出来るのはただ伝えるだけ…それもいつ伝えるかは気まぐれ…」
「ふざけんなよ…それなら俺は母親がいつ死ぬだなんて聞きたくなかった…」
「そうか。しかし聞いた事でお主は何か変わるのではないか?」
目が覚めたのは夜中だった。
横には妻と子供がすやすやと寝ていた。
リビングへよろよろと移動し、テーブルの上に1つの書き置き紙を置いておいた。
外を見ればもう日の出でその頃にはもう俺は病院にいた。
看護師の目を掻い潜って俺は母親と病院を抜け出した。母親はこんなことをしても何も抵抗もせず、俺のわがままに付き合ってくれるようであった。車椅子を押しながら景色を見ていた。俺は子供の頃、花が生い茂り、木が元気よく生きているこの公園が好きだった。母親とここへ訪れては何でもかんでもわがまま言って遊んでもらった記憶がしみじみと浮かんできた。
「母さん、これ食べたいって言ってたよね。」
「母さん、これ欲しいって言ってたよね。」
「母さん、これやりたいって言ってたよね。」
「母さん…」
「母さん…」
母親のやりたかった事を全部やらせてあげた。まるで最後の晩餐が待ち受けているかのようであった。
そして遂にその時がやってきた。
俺の耳には「ピー」という音しか聞こえてこなかった。
遠くから来た父親は隣で上を向いていた。
それから、看護師から手紙を貰った。母さんからだった。
その手紙に書いてある文字は歪んでいてとても読みにくかったが、一生懸命書いたんだろうという涙の跡が染み込んでいた。
「あなたを産んで本当に良かった。
私が居なくてもあなたは強く生きていける子であって私はあなたがいなければ強く生きていけなかったでしょう。
後悔はありません。ありがとう。」
染み込んでいた跡がまた増えた。