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これは、ある声優にまつわる話だ。
彼は沖縄の離島出身で、幼い頃から“見える”体質だった。祖母にはこう言われて育ったという。
「声には魂が宿る。だから、感情を込めすぎると、向こう側に届いてしまうよ。」
東京で活動するようになった彼は、あるホラーゲームの収録に呼ばれた。
タイトルは『黄泉の子守唄』。怨霊に取り憑かれた少年の役だった。
収録は順調だった。彼の演技はあまりにリアルで、スタッフは「まるで本物の霊が憑いてるみたいだ」と冗談を言った。
だが、その日を境に、彼の周囲で奇妙なことが起こり始めた。
録音された音声に、彼が発していない呻き声やすすり泣きが混ざっていた。
編集スタッフは「再生するたびに音が変わる」と言った。
そして、彼の声が変わり始めた。日常の声が、亡くなった少年の声に似てきていた。
それから間もなく、ゲームをプレイした者たちの間で、不可解な死が相次いだ。
実況者が配信中に突然倒れ、部屋には焦げ臭い煙が漂っていた。
ゲーム機に異常はない。だが、死者の肺は焼け焦げたような状態だった。
音声は感染した。
彼の声が含まれるメディア——アニメ、ドラマCD、ラジオ、広告——すべてに“あの声”が混ざり始め、聞いた者の一部が煙の中で倒れた。
専門家はこう語った。
「これはウイルスではない。音に乗った“意志”だ。彼の声は、何かを媒介している。」
都市伝説が広まった。
「あの声を聞いた人は、次の“発信者”になる。自分の声に、あの周波数が混ざり始める。そして、知らず知らずのうちに、誰かを殺す。」
声優は沈黙した。最後に残された音声には、こう記されていた。
「僕の声は、もう誰かのものになった。僕が話すたび、誰かが死ぬ。だから、僕はもう、話さない。」
だがその音声は、ネットに流出した。
そして今も、誰かが再生している。