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ひより
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高校一年の春。
入学してすぐ。4月から6月生まれの生徒が数人呼ばれた。
恋人がいたり、親が決めた相手が居たり、スポーツ特待生の人は保護者の申請があれば免除されている。
既にクラスの八人に一人は結婚しているか婚約中。
私のクラスから呼ばれたのは、私と一河と水咲の三人だった。
長い廊下を歩きながら、職員室の隣の会議室へと向かう。
「やばい。緊張してきた。一河、車椅子、押してもいい?」
「あー、助かるかも。俺も緊張しててうまく運転できない」
「……二人は別に緊張しなくてもいいじゃない」
親友の水咲は、大きな眼鏡を人差し指で上げながら、空を見上げる。
「二人は、相手から指名されてるんだから。その点、私は本当に国が相性だけで判断した相手なの。今、決めておかないと大学受験までに落ち着きたい私にはこれが最初で最後のチャンスだし」
「でも私の親も一回目のお見合いで決めたって言ってた」
「俺の親も一回目だったな。まだ恋愛結婚憧憬症候群はポピュラーじゃなかったらしいし」
と言いながら一河は少し申し訳なさそうに笑う。
「でも俺が指名されたのはこの足のせいだから」
一河は中学三年の時に子どもをかばって車の前に飛び出し、足を怪我した。
左足は完全に麻痺してしまい、右足ももう三回ぐらい手術をしているけど上手く動かないらしい。
一河を指名してきたお見合い相手は、その子どものお姉さんだと言っていた。
「でも私が一番、恋愛結婚に夢を見てるから。昨日だって昭和、平成に流行った恋愛漫画読んでて寝不足だし」
「もー。俺のメール返信しないと思ったら」
振り返った一河は、垂れている糸目を釣り上げて怒った。
ごめんねーって片手を顔の中心に立てると、『まあいつものことか』とすぐに許してくれた。
「ちょっと強引な王子様と、意地悪なライバル、支えてくれる親友、理解のある親と教師、読んでてタイムスリップしたいって思ったなあ」
「……まあ時間が戻れるなら、俺ももうちょっと上手く助けたかったし」
苦笑する一河と緊張して顔をこわばらせている水咲と、不満で文句を言っている私。
恋愛漫画が遠い日の作り話に見えてしまう現状で、結婚に夢を強く抱いてしまうのは仕方がないと専門家は言う。
人間は理性がある。繁殖しやすい相手、繁殖しやすい体が丈夫な相手なんていちいち考えて好きになるわけじゃない。
相手がどんな人で好きなものは一緒かとか、どんな顔がタイプとか、知りたいことは沢山ある。
「そういえば、昭和のSF小説でも政府がお見合いさせて人間はそれに従う話があった気がするのよね。タイトル忘れちゃったけど」
「えー。じゃあ人間はこうなると予言してたの?」
「いや、小さい頃に読んだから忘れちゃった。その話、色も忘れちゃってたのよね、主人公。なんてタイトルだっけなあ」
「へえ。歩く辞書と謳われる水咲でさえ忘れてしまうことがあるのかー」
「まあ、漫画しか読まないあんたらに聞いた私が馬鹿だったわ」
水咲の言葉の端々から緊張しているのが伺えた。
お見合い。
平成、昭和の少女漫画でもお見合いから始まる結婚とか、政略結婚とか、好きでも無い相手と疑似結婚とか山ほどあったけど私たちは違う。
生まれた時に与えられた番号に、年々成長記録を上書きしていく。
遺伝子の研究が進み、繁殖しやすい遺伝子同士が分かったとか、相性がどうとか色々専門家は持論を唱えるが、政府のお見合い相手の選別は非公開。どんな方法で選ぶかもわからない。
授業で習ったことと言えば、お見合い制度のせいで5000万を切った日本人の人口の減少が緩やかになっただの、数パーセント増加しただの、増加した矢先に恋愛結婚憧憬症候群が流行り出しただの。
お見合い自体は成功率70パーセントで、一回目のお見合いで結婚する人が3人に1人、2回目からは減少するが離婚率は低下。
それもこれも国が決めた相手と結婚すると莫大な補助金がもらえるからとか。
全部、授業で習った言葉を脳内で再生しただけ。
本当のことは、今日、この扉を開けたら判明する。
私を指名した人との初対面だ。
コメント
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第2話、読み終えました。お見合い会議室に向かう3人の緊張感がすごく伝わってきました。特に、水咲の「二人は指名されてるからいいじゃない」というセリフに、彼女の不安や焦りが凝縮されていて胸が痛みました。一河が足を怪我した経緯も含めて、この世界の制度と個人の想いの間に漂う温度差が巧みに描かれているなと。主人公が「色も忘れちゃったSF小説」に執着するのも、過去の恋愛文化への憧れの現れで、すごく響きました。扉の先に待つ相手、気になります。続きが楽しみです!