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「…はあ」
少しなかの荷物が崩れたバックを何度も確認し、ため息が出る。この高校生活2年、初めて忘れ物をした。しかもこの授業は特に大事だと先生が言っていたし、何度も確認された。この授業の担当の先生は忘れ物はともかく、質問に答えられないと怒号が飛んでくるのを見た事があっただけに、しっかり気を付けていたはずなのに。なんでよりによって今日なんだ…。それにそんなところ、花園さんに見られたくない。
俺は恥を忍んで、末崎のクラスに向かった。
「…あー、教科書なら他の奴に貸したよ。わざわざ来てもらちゃったのに、ごめんな」
「そっか…いいよ。忘れた俺が悪いし。」
そりゃそうだよな…なんて思いながら末崎に「冨土原は持ち物だけはいつも完璧なのに、めずらしいなー!」とか言われた。
俺の方を向いて奇妙がる周りの声が聞こえたので、「じゃあ、また放課後」といって、自分のクラスに戻った。
「…冨土原君?」
そういわれてハッとした。またいつものようにぼーっとしていた。目の端には花園さんの教科書が差し出されていた。
「教科書。忘れちゃったの?」
「!え、あ、うん。そう」
「じゃあ、一緒に見る?いい?」
「え、いやあのその、えーと…アリガトウゴザイマス…」
いつの間にか机は近くなっていて、花園さんがすぐ隣にいた。せっかく教科書を見せてもらっているのに、頭は真っ白でしばらくはノートをただ凝視していた。
「冨土原、教科書の問2、答えろ」
「へ!?あ、エト…○○…?」
隣で花園さんと他の生徒が僕のあり得ないとでもいうように笑いをこらえているのが見えた。最悪だ・・・。いっそ盛大に笑ってくれ…!
まさかこの先生、俺が花園さんに教科書を見せてもらってる腹いせなのか!?そう思うしか、今ここに生まれた黒歴史に耐えることはできなかった。
さっきもそうだが、最近俺は花園さんに恋心を向けているのは自覚してきたが、まさかかっこいい所全く見せられてない…?というか俺のかっこいい所ってなんだ・・・?前髪?と焦りでしばらくは頭がグルグルしていた。そのせいか、先生の怒号は全く耳に入ってこなかった。
・・・あ、花園さん、ノートに何も書いてない。
「…今日、は教科書ありがとう。」
「うん。どういたしまして。困ったら頼ってね。」
「はい…」
俺は弁当を持って第二美術室の椅子に座る。ここは日も当たり安くて暖かいし、末崎も昼休みは基本友達と一緒に食べるし、今はもう使われていないので安心できる。たまにドア開いてないけど。まあ一番の理由はいくら何でも便所飯はゴメンだと。
弁当の箱を開けようとしたその時。
ガラッ
「へ!!?」
「…冨土原君?」
そこにいたのは花園さんだった。最近驚く頻度高すぎないか?心臓に悪い。
「…花園さん?どうしたの?」
「…第二音楽室開いてなかったから。冨土原君はいつもここで食べてるの?」
「はい。」
なるほど。第二音楽室はここの隣にある。閉まってたのか。ベートーヴェンのあのイカツイ顔した絵画がが置かれてあるので、居心地が悪いからあまり行ったことが無い。
「一緒に食べていい?」
「はい。」
そういいながら黙々と弁当を食べ始める。返事が淡白なのは緊張しているからではない。
花園さんは購買のパンを食べていた。と思ったらパンをいきなり半分に割った。
「半分食べる?」
「えっ、あっりがとう…?」
素直にそれを受け取る。クリームコロネだった。半分に割ったせいで少しクリームがはみ出ていた。
「あと、そんなに緊張しなくていいよ。敬語じゃなくていいし。じゃあ、また次の授業で」
「あ、うん。じゃあ、また。・・・って、早!」
早々にクリームコロネを食べ終わったはなぞのさんはぱたぱたと美術室から出て行った。嵐が過ぎ去った…とまでは言えないが、静まり返った美術室の中に俺だけが残る。
・・・クリームパン、食べるのもったいないなあ…。