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「はぁ…はぁ…はぁ…」
森の中、木々をかき分け土を蹴り全力で逃げる少年。その少年の後ろ、少し曖昧な形をしたものが追いかけてきている。魔法守護者だ。
「あれ罠だったんだ…!触ったらあんなのが出てくるなんて!」
森の奥の屋敷の門が少し開いていた。少年はお腹が空いていた。だから屋敷に忍び込んで食料をもらおうと庭に足を踏み入れた。すると足元に禍々しい魔法陣が現れ魔法守護者が少年を襲ってきた。少年はなんとか攻撃を避け逃げていた。
少年の足は空回り寸前。吸い込んだ酸素は喉を焼き肺に満ちる前に消費される。
「見えてきた!もう少しで街に出る!流石に街までは追いかけてこないはず!」
もつれそうな足を必死に動かし、光の中へと飛び込む。木漏れ日が森を出てたことで太陽光が直接少年に落ちてくる。目が眩む。眩しくて目が開けられない。足元が絡まり真っ白な目の前が暗転した。
(今日は患者さんが少ない日ですね)
白衣を着た男性は診察室の窓から差し込む朝日に照らされながらカルテを整理している。
左腕があるところには義手が光っている。
[ドサッ]と外から大きな音が響いた。
「何でしょう。行ってみましょう。」
「んん…」
少年が目を覚ますと見たことのない天井。起き上がり周りを見ると狭い部屋。棚にはびっしりと分厚い本が並んでいる。ベット横の小さな棚に目をやるとメモと時計が置かれている。メモには[目を覚ましましたら、この部屋で待っていてください。
12時頃に様子を見に行きます。]と書いてあった。時計を見ると針が12の文字を指していた。足音が近づき扉が開く。
「失礼します。おや、目を覚ましたのですね。よかったです。」
そう言うと白髪で白衣を着た優しい表情の男性は部屋に入り、ベットのそばにあった椅子に腰掛ける。
「えっえっと、ここは一体」
少年は状況がわからないという顔だ。
男は答える。
「ここは私の診療所です。貴方は森を抜けた所、診療所の前で倒れていたんです。」
「森…そうだ!俺、森を抜けたと思ったら力が抜けちゃって、俺、倒れたんだ!」
少年は叫ぶような勢いで話すがすぐに自分の声の大きさに気が付き口を押さえる。
「ふふ、元気そうでよかったです。全身生傷だらけで、相当疲労が溜まっているようでしたし、栄養失調も少し見られたので」
「はは、最近ちゃんとしたもの食べれてなかったから。」少年は少し困った表情で言った。
男は理由を聞こうかと思ったが、少年の様子を見て聞くのをやめた。
「薬を塗ったので傷はもう治ってると思います。」
少年は言われて思い出したように傷だらけになっていたはずの身体を見て驚く。
「ほんとだ!」
不思議そうに体を見回していると男は話を続ける。
「ですがまだ体力は回復しきっていません。とりあえず数日はここに泊まっていきなさい。つまりは入院です。」
「入院?俺、元気だし、入院なんて…」
「駄目です。」
少年が言い切る前に被せて言う。
「貴方は疲労と栄養失調で倒れていたのですよ?医者としてこのまま返すわけにはいきません。」男はさっきまでの優しそうな表情とは一変、真剣な眼差しで少年を見つめていた。でも少年はバツが悪そうに「でも」と口を開いた。
「でも俺、お金がないんだ。もしかしたらこの治療代も払えないかもしれない。」
すると、男の表情はさっきまでの優しい表情に戻り言う。
「お金のことは大丈夫ですよ。」
少年は「えっ?」とこぼす。
「私はお金が欲しくて診療所をしているわけではありません。それに患者様の健康が一番大切です。だからお金はいりませんよ。」
だが、少年はまだ何か言いたげだ。申し訳ないそんな表情をしている。それを見て男は言った。
「それでは貴方が回復しましたら私の診療所を手伝うというのはどうでしょうか。」
それを聞いた少年の表情が一気に明るくなっていく。
「いいのか?!」
「はい、貴方が回復してからですよ?」
男が念を押すように言う。
「わかってる!ありがとう!!よろしくな!えーっと…」
「私はセレス・クロイツと申します。」
少年は満開の笑顔で言う。
「俺はリヒト!よろしくな!セレス!」