「某銀行って、頭取を降ろしたときか。ということはおまえは、銀行の傍にあるコンビニから、偶然俺を見たのか?」
頭の中に地図を思い浮かべながら指摘すると、雅輝は黙ったまま頷く。ここまでの会話からエンプティランプに繋げることは、俺の頭脳ではやっぱり無理だった。
「現場を見ていたならわかることだけど、強引に土産を渡されちまってな」
手にしていたそれを、雅輝の目の前で見せつけるように掲げた。
「甘いものが得意じゃないのと、そんなに日持ちがしないものだったから、ここに持ってきたんだ」
「へー……。そうなんですか」
ジト目をした雅輝は、いつもより低いトーンで返事をする。迷惑までいかないけれど不機嫌に似た様子に、頭を抱えたくなった。
「えっと雅輝……」
「陽さんのためを思って、買ってきてくれたお土産なのに、わざわざそれを持ってくるなんて」
「ここに持ってきた理由を、さっき言っただろ!」
高々と土産を片手に掲げた状態で怒鳴る俺の姿は、傍から見たらバカみたいだろうな。
「陽さんの行動は、俺の機嫌を良くするために持ってきてるみたい」
「違うって! おまえが甘いものを食べて、すげぇしあわせそうな顔をしてるのが好きなんだっ」
反射的に出た言葉だった。言い終えた瞬間に、顔全部が熱くなるのがわかった。慌てて持っていた土産で顔を隠す。土産の箱はそこまで大きくないため、顔の一部が出ている状態だった。
「エンプティランプ、点灯終わったみたい」
「……なんだよそれ。意味が全然わからねぇんだけど」
目の前にある土産の箱に向かって呟いたら、音もなくそれが奪取された。
「陽さん、大好き♡」
どこか、してやったりな感じに見えるのは、気のせいだと思いたい。だって雅輝は策士じゃなく、天然でいろんなことをやってのけてしまうから。
「それ、俺が求める答えになってないぞ」
未だに顔が熱いため、そっぽを向いて雅輝に見えないように施す。それなのにそっぽを向いた先に回り込み、嬉しげに細めた瞳でまじまじと俺の顔を見つめる。そのせいで、平常心をなかなか取り戻せない。
「雅輝、顔が近い!」
「全部ひとりじめしたかったんです」
盛大に照れているせいで喚いてしまった俺に、雅輝は至極落ち着いた声で告げた。
「ひとりじめ?」
エンプティランプといい、雅輝の言葉は相変わらずわかりにくい。遠回しってわけじゃなく、単純すぎるせいでいろんな意味に受け取れてしまう。
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