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「おはようございます。エリナーミア様」
「ごきげんよう。エリナーミア様」
クラスが決まり一般科教室。貴族と平民が集まる教室に来た。そこには見知った顔が数人。そして1番始めに声を掛けて来たのはこの二人である。
ルイ・ハルアは王都の商店街から少し離れた住宅地に住んでいる。父親は王都の警備兵で、主に平民街を警備している。非常事態が起きると、城から召集がかかり戦争へ行く兵士になる。
「嬉しいです。エリナーミア様と同じクラスだなんて」
「ルイも元気そうでなによりね」
「はい」
ファリシア・シルファーはシルファー伯爵家次女で、先日めでたく決まったロイド兄様の婚約者。彼女はのんびりして見えるけれど、実は強かな一面があり、兄はそんな彼女を気に入り縁談を持ちかけた。
「まさかファリと義姉妹になるとは思わなかったわ」
「エレナーミア様、私は嬉しいのですよ。もしかして、エリナーミア様は‥‥」
ウルウルと瞳を揺らすファリに慌てて
「待て待て、私も嬉しいよ」
「よかった」
毎回ファリのペースである。
「二人ともいつも有り難う」
私は二人の顔を交互に見つめて心から感謝を伝えた。
彼女達は私の為に小さい事でも情報をくれる影の存在。ルイは平民街で今何が行われているかを教えてくれる。またファリは社交の場での話題を。今回は、聖女候補と第2王子の婚約者について二人から情報をもらったのだ。
「二人には感謝をしているわ。これからもお願いするかもだけど宜しくね」
私は二人に笑みを見せる。
「エリナーミア様、そんな事今更ですよ」
ルイは笑い、ファリは頷く。
「そうですよ。あの時私達を救って下さったのはエリナーミア様です。恩返しにもなりません」
この二人は本当にいい子達だ。あの時当たり前の事をしただけなのに恩返しなんて。有難くて涙が薄らと湧き上がる。
彼女達から貰った情報はここに来る前にボンハーデンの屋敷で報告を受けていた。
第1王子が現国王を征圧し、新国王として立つという。領地にいた時や王都に来てからも、国の危機を知る事はなかった。平民の人達が困っている様子は見える範囲で無かったのだ。
しかし彼女達の報告だと、王都の外にある地方の領主達は国王寄りなので、年貢が毎年上がる。払いきれない農民は土地を離れるか、娘を奉公に出すか、身売りに出すか、死ぬか。これが見えない国王の考えだ。民草は私有物という
考えだ。
第1王子、アルアドネ・サバイ・コンタノールは数年前まで知らなかったようだ。そして、今後私の置かれている立場が危うくなっている。アルアドネ殿下が私を妃にと考えているのだ。ボンハーデン家の勢力が彼には必要らしい。私は二人に苦い顔を見せまいと、何事も無く微笑むのであった。
ホームルームの時間。自己紹介で教壇に立つ担任の先生は大丈夫か?と思うほどブリブリしていた。名前は
「私はリリアン・ソラテーラでぇす。父は教会で神父をしています。みなさぁん宜しくねぇ」
地味に地味にを心掛け、突っ込みたい衝動を抑えつつ、膝の辺りで握り拳を握った。基本私の中の人(前世)、ぶりっ子が嫌いである。そう言えば、ぶりっ子って言葉の象徴だったのは、まだ10代だった聖子ちゃんかな?あの頃聖子ちゃんより、ツッパリ系の明菜ちゃんが好きだったけど、あの年齢であの可愛さならぶりっ子でもいいと最近は思うのだけど、この担任は年齢不詳の上、可愛さは普通‥‥。
「ではぁ、新任の先生を紹介しまぁす。急遽決まった先生なのでぇ、専門教科はぁ決まってません。しかし、頭脳明晰、とても優秀な方なので、どんな事でもぉ聞いてみて下さいねぇ」
と廊下の方へ歩き扉を開く。
入って来たのは、うちのロイド兄様に似た感じで、分厚いメガネを掛けている。髪はボサボサだけど、
「?」
新任の先生と目が合って、ある確信を得た。
「?!」
ぶりっ子先生が、
「こちらロイド・ハーン先生です」
まったく何してるのよ。過保護にも程があるわ。「なにその、ロイド・ハーン先生って」確かに入学式の時そのメガネ先生方の席に居たわよ。全くもって気にも留めなかったから、分からなかったわ。それに「見にくる」って言ってたから、うちだけ恥ずかしくも保護者同伴とか一瞬頭を過ったけど、うちは粘着質だからと、これも気にしなかった。
まさか先生になるとかありえない。
私はガクッと肩を落とし、全てを諦めて考えるのをやめた。
ホームルームが終わって、歴史の授業が始まる前である。ロイド兄様のところに行こうと思ったけど、目立つ事は自分からしないようにしたので、とりあえず、何も聞かない事にした。
あぁ〜めんどくさい、めんどくさい。
でも、久しぶりのロマンス。
これを思い出すと、心が温かくなり顔がニヤけてしまう。
歴史のテキストを見ているふりをして、頭の中は絶頂お花畑である。いや、決して頭がおバカちゃんの意味ではなく、春ですなぁ〜的な意味のお花畑である。
なんか難しい事考えてたけど、私中の人(前世)を飼ってる(記憶ある)けど、別人なのよね。だったら旦那の事引きずっててもしょうがないし、変な罪悪感とか考えなくてもいいんだよね。
うん、あれよ。きっとそう。「夫婦は死んで来世でも夫婦になるの」的な事はロマンティストであり、これこそぶりっ子であり、今生きている人が私を愛してくれているのに「前の人が忘れられない一途です」なんてアピールはクソの役にも立たない。
送ってくれた後、帰ったはずのラルが戻ってきた。
私の部屋のベランダに登って、突然窓をコンコンッて。
正直ビックリして一旦廊下に逃げ出ちゃったわよ。深呼吸して落ち着いてから、部屋に戻ってカーテンを開けた。最初誰か分からず「ををを!」なんて低い声を上げたけど、その声でアイツ笑いやがって、その笑い声でラルだと気がついて、窓を開けて部屋に入れた途端、関節技決めてやった。
「イタタタ‥‥ごめん。悪かったよ」
「ビックリしたでしょ💢」
背の高いラルの腕を捻って、回して、床に倒して関節技を更に決める。前世では合気道の技、これ痛いのよね。
「戻って来たと思ったら、覗きの趣味ですか?」
体を抑えたまま、問いただしてみた。
「イタッ違うよ。急ぎ話ておきたい事があったんだ」
「何よ話って」
「とりあえず、離してくれないかな」
床に伏せっているラルを離してやると、ラルは姿勢を変えて床に腰を下ろした。
「で?」
と私も床に腰を下ろし、何を言い出すのか待ってみた。
ラルは深いため息をついて、私の顔をジッと見てから頭を抱え「あぁぁぁ〜」と声を上げた。
「ラル言っとくけど、声大きい。ここ女子寮だからね」
「分かってるよ。手短に話すから」
私は腕を組んで頷いた。
「是非そうしてちょうだい」
ラルは私のおさげの片方を摘む。
「あんたそれ好きよね」
その一言にガクッとするラル。
「エリナーミア、すまないが一つ一つ丁寧なツッコミは有り難いが今は止められないか」
「あらごめんなさい」
ニヤリ顔でラルの目をじっと見る。そろそろ意地悪はやめにして、彼が何かを決めたのなら聞いてあげなくちゃね。
ラルは呼吸を整えると、一気に言葉を発した。
「エリナーミア、俺の婚約者になってくれ」
「ええ、いいわよ」
私はいつか言われると思っていた。
「大切にする。政略結婚ではなく、俺がお前を守りたいんだ」
「それは頼もしい」
「え?」
ラルは信じられない顔をしていた。
「だから、さっきから言ってるでしょ」
「えぇ‥‥いいのか?」
私はため息をついて、
「いいも何も、ラルは自分の事となると自信が無くなるのだから」
「ああ、悪い‥‥」
私はふふふと笑うと、ラルの胸ぐらを掴んで、自分のところへ引き寄せた。そして、ラルの唇に自分の唇を重ねた。
ラルは驚いた顔をしていた。そりゃビックリするよね。ラルは口元を抑えて照れた顔を隠すようにそっぽを向いた。
可愛い‥‥。
こうして私達は婚約者として約束を交わしたのだが、男心を少し思ってあげれば良かったかなと反省してみたけど、女がリードする事をはしたないと言われても思いのまま動いた事は愛だの恋だのの前には男女は関係ないと思う。
「ラル、今まで見えないフリしてごめんね。私、ラルがずっと前から好きよ」
「お前な」
ラルは大きな手のひらを私のほほに当て、愛おしそうにあごまで滑らせると、大切そうに唇を重ねた。
あぁ〜久しぶりにキスしたわ。やっぱりキスはするより、される方が心が潤うものね。