「つっても4対1かー……いいハンデにはなってるかもだけど、ちょっと難易度調整ミスってるよなー」
「確実にあなたを殺せる。素晴らしい状況」
「んな簡単に死なないでーす!!私は最強なのでー!!」
そういうとmessiahは、俺がどさくさに紛れて貰っといた包丁をtearの方向に向けた。
「まだチャンスを与えようと思いましたのに。確実に参加者側につくんですね、”妹さん”は諦めたんですか?」
「……るさい。何がどうなろうと私の勝手だろ。私はお前が、私の事産廃だって言ったのが許せない、それだけでいいだろ」
「あくまで事実では?そういえば、人間は事実を言われると激高する習性がありましたね、失念しておりました」
途端に人形二体がmessiahの正面に、人形一体がmessiahの背後に回る。
二体をおとりにして一体で背後を取り、確実にダメージを与えるらしい。
しかし。
「”力を貸せ”」
messiahがそう言い放つと、背後の人形と正面の人形一体が動きを停止する。
「tearは私の事大っ嫌いだから第一能力すらも知らないんだろ?wwなーんでまたチュートリアルしてくれるかなー?ww」
残りの人形を軽々と包丁で真っ二つにしたmessiahは、人形たちの方に手を向け、その後tearを思い切り指さす。
「”英雄の凱旋”ーー!!!」
すると、人形がtearの方向に一目散に駆けだすが、それをtearは軽くあしらう。
messiahはtearを追いかけ、追いついたと思うと両者の包丁バトルが勃発した。
本数有利のtearに戦況は傾いているが、その包丁を丁寧に一本一本折るmessiah。
しかし能力で出している包丁は無限に近いと思うほど多く、流石のmessiahも押されているようだ。
「ぃ、今のあっぶねー……。これなんで代償受けてないんだ…」
「blossomさんが肩代わりして下さっておりますので。仲間に恵まれているとこんなことも出来ちゃうんですね」
「それ私の事煽ってるのかー?言っとくけどぜんっぜん効いてないからな!!決して裏切らなきゃよかったなーとか思ってるわけじゃないからな!!勘違いするなよー!」
「流石”たかが妹”でここに身を投げ打った人。幼さだけはメンバー随一ですね」
「……今なんつった?」
「たかが妹で。私たちは家族が皆殺しになったりしているというのに。たかが妹で」
「たかが?」
「ええ。私だってそうですが、貧乏でろくなご飯にありつけなかったり、誰がお父さんなのかわからない子供を出産したり、誰かを殺さないと生きていけなかったり。それに比べてどうなんでしょう?」
「……あー!!お前は凄いよなー不幸自慢がさー!!じゃあ私も不幸自慢していいかー?今私の目の前の奴が超ウザい奴になり果ててることだよー!!」
「私はいいんだけどー妹が侮辱されるのは許せないので殺しまぁす!!”destroy”!!」
すると、messiahの頭上には巨大な手のような物体が出現した。
その物体は変に骨ばっていて、骸骨から取り出してきたと言われても不思議じゃないほどだった。
代償のせいだろうか、彼の頬には赤い涙が流れている。
その姿はさながら「復讐に燃える敵」のようだった。
tearも若干引いているのか攻撃をやめて呆然と眺めている。
「この手に潰されたらお陀仏だろうなー?それに私は最強だし」
「その血涙は代償ですか?」
「んなことより遺言でも考えといてー?死にますよあなた」
「ああ、代償なんですね。非常に美しいのでいつでも見ていたいと思っていましたが」
「もう”花芽”なの隠さないでいくんすかー?!死ぬ前に情報だけ残して消えるなんて偉いでちゅねー!」
「正確には花芽ではないのですが。それより攻撃しないんですか?折角の能力が台無しでは」
「もう殴ってるけど?」
その発言に合わせ、ふとmessiahの方を向けば、先ほどまで異様な存在感を放っていたあの手は消えてなくなっていた。
その手の行方を探そうと360度あたりを見回してみるが、どこにも見当たらない。
それもそのはず、あの手は結論から言うと、
「tearの中」にあったのだ。
「……そのようなハッタリをかますような方でしたっけ?」
「あれ、効いてるはずだろ?天然ってやつですかぁ?」
「効いてるはず、といいますのは?確かに貴方の頭上の手は消えておりますが」
「ロボットみたいな話し方しといてポンコツなの草。自分の胸にお手手を当ててみればわかるよきっと」
「……?」
tearが手を自身の体に近づけると、
tearの手の何倍もあるような、あの能力の手が生えてきた。
その手はメキメキという音を立て、小刻みに動きながらtearの体を突き破る。
辺りに赤い液体が飛び散り、所々固体が混ざっている。
それすらもまだ序の口といった所か。手は更に餌を求め、渇望するかのように、何かに向かい伸びている。
悲鳴。叫喚。声量はなくとも悲惨さが伝わる。
手が動きを止めると、tearは静かにほほ笑み、その表情を崩さない。
messiahの方はというと、手が動きを止めると膝から崩れ落ち、3秒ほど自分の手を見つめていた。
先程の威厳はどこへやら。まるで戦いの敗者のようだ。
どうやら動揺しているらしく、手が小刻みに震え、それを見つめる表情もどこか恐怖におびえている。
数秒後、彼はtearの方へよろよろと駆け出す。
「……ついに……”禁忌”を……」
「tear、教えてくれないか。いつから……いつから私は……」
「流石に……教えられませんが……”最下層”に……かれに……あってくれば……」
「最下層って……まさか……」
「”ambition”……彼は全て……知って……」
「あいつに?無理に決まってる!どう考えても恨まれてるし、それに、あいつが”あの人格なまま”なのありえないだろ!」
「簡単ですよ……あなたの……素晴らしい能力が……あれば……」
「ちが、この能力は元からこうだったわけじゃ」
「知ってる……でも……」
「この”船”を……救えるのは……」
「あなたしか……。」
「tear?……tear!!”花芽”!!」
tearは静かに目を閉じる。
messiahはtearが死んでいることを認知したらしく、また数秒間フリーズし、その後俯いて廊下の方へ向かった。
*
「自分で殺しといて悲しそうな顔すんなよって話ですねー。情緒バグってんのかな?」
俺、木更津はまたもや気絶していた。
そして前回死んだときの影響で霊体になっており、blossomと会話できる状況だ。
blossom曰く、俺は死んではないものの、一回messiahが気絶しないと元の体に戻れないらしい。ふざけんな。
「マジで意味わからんことになってないか?」
「それなです」
「お前が解説してくれる流れじゃないのかよ」
「はー。まあいいですよ。教えてあげますけど。俺も意味わからんところはあるのでご理解して」
「んー、じゃあ……tearが花芽って呼ばれてるのなんなんだ?」
「それ聞いちゃいます?やだもう純愛じゃないですか。NLもいいですね」
「教えろよそこは純愛なんだし」
「まあ純愛カップルは守るに限ります。tearは花芽の双子の姉なんですけど、」
「え、ちょっと待てよ。時系列どうなってるんだそれ。というか、姉とかも来るのか?しかも敵で」
「やばいです。機密情報話しちゃうところでした。まあでも、時系列はヘンテコですけどおかしくはないですよ。姉とかで血縁関係ある人は普通にいます」
「性格悪いな連れてきたやつ」「同意です」
「じゃあ話の続きしちゃいます。実はですね、花芽は斬人だと強い方の人なんです。だから、tearも強くなりたいから花芽って名乗ってたんですよ。まさか妹もデスファイアに来ると思ってなかったのでね」
「意味不明すぎないか……」「同意です」
「いちいち同意です同意ですうるさいな」「同意です」「ふざけんな」「同意です」
「死ねよマジで」「……」
「そこは同意ですじゃないのかよ!?」
「あ、さーせん。二推しが来てくれてたのでそっちみてました」
「二推し?」「二番目に推してる人のことです。最推しはもちろんhappy様」
「まあ様って呼んでるしな……んで、その二推しとやらは?」
「あそこです」
blossomは顎で廊下のあたりを指しているが、その周辺にはmessiahしかいない。
「あ?え?どこ?」
「今messiahの真ん前に居る人です、というかもやみたいに見えるところです」
言われてみれば、messiahの前に何か霧がかった物体があるが、とても人とは思えない。
「もやっぽいのは見えるけど……あれ本当に人間か?無機物にしか見えないんだけど」
「あ、それは彼の能力が影響してるんです。彼はネームドの中の一人、名を”meutrue”と言います。彼の能力は『隠す』能力で、自分の正体・発言や、他人の記憶などにも干渉できる強力なネームドです」
「じゃあもやがかかってるのも」
「能力で隠してるんですよ、自分の体を」
「厄介な能力だな」「俺もこいつどうやって倒すのか知りません」「終わった……」
「あ、ちなみに今もmessiahと会話してますよ。能力で聞こえてないだけで」
「え、マジ?全然聞こえねー」
「あなたの記憶消してるのも彼ですから」
「え?」
「能力で消えてるんですよ。だから、記憶取り戻したかったらmeutrueを殺すかお友達になればいいんです」
「マジかよ……許せねー絶対」
「まあ……そうなっちゃいますよね……あー美しいぜこの関係性はよぉー!!」
「急に怖いなお前」「オタクが叫んでるだけですのであしからず」「あしかるわそんなん」
「まあでも……そうですね。俺優しいのでアドバイスしてあげますけど……ネームドって変なやつが多いってだけで大体味方になれますよ」
「んなわけ案件だけど……現にmessiahはなんか協力してくれてる風だもんな。ありえなくはないのか」
「俺神視点なのでね。丁重に扱えばいいことあるかもですよ」「自分で言うなよそれ」
*
「なんか静かになった」「そうっすね」
「……猫手はどうなんだ?桐原」
「体調は回復傾向にあります。そろそろ目を覚まされるかと」
「よかったー」
そんな会話をしていると、猫手がゆっくりと動き出した。
どうやら復活したらしい。
が、どこか様子がおかしく、いつもの猫手とは違う。
気絶してたから当然ではあるが、それよりももっと別人感がある。
「あー、あー、あー。聞こえてマスか?参加者の皆様」
「「……誰?」」
「あ、そうデシた。今ちょっと大変ナノで、特に質問なしでお願いしマス。僕は”ambition”、俗に言うネームドの一人デス」
「木更津みたいなことになってるな……」
「木更津サンとはちょっと違いマスよ。猫手サンはちゃんと生きてマスし、彼女の代償で一時的に体を使わせていただいてマシて」「代償そんなんだったんだ」「ハイ」
「では僕の話をしマスね。僕は皆さんに協力してほしくて来たんデス。でも、この体にも時間制限がありマスから、端的に話しますと、」
「happy、blood、jealousy。この三人はマストで殺してくだサイ。これは僕にとっても、皆さんにとっても利益のあることデス」
「……やっぱり説明がほしいっすね」
「そうデスね、では簡単に。happyは僕たちネームドを参加者と敵対させたんデス。bloodとjealousyは、それをhappyに吹き込んだ張本人デス。つまり、この三人がいなければ、ネームドは参加者と仲間だったんデス」
「中々信じられない話ではありますが……この現状で100%信じられるものなどない、というのもまた事実」
「こんなん信じるなんておかしいだろ!暗黒ダークマターもそう囁いている!」
「まあそうなりマスよね。知ってマスよ。でも、絶対的に事実だって言うためには、皆さんに”最下層”に来てほしいのデス」
「最下層?」「どこそれ」「僕が居るところデス」
「……そろそろタイムリミットデスね。じゃあ皆さん、最下層で会い……ぁ……誰か……た……」
そう言い残し、ambitionと名乗る男は喋らなくなった。
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