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後日。
アキトはヒカルの勤務する署へ勇気を振り絞って訪れた。
「あら?アキトさん 今日は職質されに来たわけじゃないでしょう」
「人生相談に来ました」
ヒカルは苦笑しながら応接室へ通す。
アキトは語った。
・就活しても全部落ちる
・受かっても人間関係がうまくいかず辞める
・実家も「いい加減にしろ」と追い出そうとする
・二つ下の弟はエリートで、いつも比較される
・自分が何者にもなれない不安
ヒカルは真剣に聞き続けた。
「…僕、もう生き方が分からないんです」
ヒカルは少し黙り、ゆっくりと言葉を選んだ。
「アキトさんは、自分が“ダメな人間”だと思ってるかもしれません。
でもね、人は“得意な場所”じゃないと輝けないんです」
「得意な場所」
「はい。あなたはミリタリーや装備品に詳しいんですよね?」
アキトはうなずく。
「だったらその知識は、誰かの役に立つかもしれない」
ヒカルはかつてのSATでの仲間—装備のスペシャリストたちを思い出す。
彼らは皆、突出したオタク気質で、それが職務で最大限の力を発揮していた。
「警察じゃダメですけど、防災会社や、サバゲー施設や、装備店…
あなたの知識が必要とされる場所はいくらでもあります」
アキトは目を丸くした。
「そんな、僕みたいな人間に?」
「はい。
“唯一無二の好き”を持ってる人は強い。
それは武器です。
あとは、それを活かす場所さえ見つけられれば」
アキトの表情に、初めて光が宿った。
変化の兆し
それから数週間。
アキトはヒカルの助言を元に、趣味で集めていた装備のレビューをブログに書き始めた。
ヒカルは非番の日に時々ブログをチェックし、感想を送った。
「この視点いいね」
初心者に分かりやすい説明」
「写真の撮り方も上手い」
アキトは嬉しそうに返信してくる。
そしてある日、アキトはヒカルへ報告に来た。
「あの、ブログを見た サバゲーショップの店長さんが、働かないかって!」
ヒカルは本気で驚き、そして満面の笑みを浮かべた。
「よかったじゃない!すごい、アキトさん!」
「ヒカルさんが…話を聞いてくれたから…
僕、初めて“自分が役に立てるかもしれない”って思えました」
アキトの目には涙が浮かんでいた。
「本当に…ありがとうございます!」
ヒカルはそっと肩を叩く。
「これからですよ。
アキトさんの人生は、まだスタートラインに立ったばかりです」
そして、新たな道へ
数日後。
アキトは正式に働き始めた。
ミリタリーオタクぶりが嘘のように、接客も丁寧で真面目で、
店長からの評価は上々。
弟はぽつりと言ったという。
『兄ちゃん、すげーじゃん。
好きなこと極めたら、仕事にできるんだな』
アキトは照れくさそうにヒカルへ報告した。
ヒカルは答えた。
「あなたの努力の結果です。
私は背中を少し押しただけ」
アキトは深く頭を下げた。
「僕の人生を救ってくれたのは、あなたです」
ヒカルは少しだけ照れながらも、まっすぐに言う。
「救ったんじゃありません。
あなたが自分で“生きる”ことを選んだから、今があるんですよ」
アキトは涙をこぼしながら笑った。
「これから先も…僕、頑張ります」
「ええ。
あなたの人生は、これからもっと良くなりますよ」
夕暮れの交番前。
アキトはまっすぐ前を向いて歩き出した。
その背中は数ヶ月前の“絶望”を纏う男ではない。
ヒカルは空を見上げ、心の中でそっと呟いた。
—生きようとする人の力って、本当に強い。
—そして、誰だって人生をやり直せる。
彼女の胸にも、温かい風が流れた。
東京都内。春の終わりの湿った風が吹き抜ける夜。
SAT狙撃班の班長を務める日向ヒカル(32)。
この日の任務は早朝からの張り込みと、突発的な暴力事件への応援。
体力には自信があるヒカルでも、数ヵ月続く激務で疲労は極限に近づいていた。
帰り道、地下鉄の駅へ向かう途中だった。
ー視界が、フッと揺れた。
夜の街灯が滲み、足取りが乱れる。
呼吸は浅く、耳鳴りがして、膝が熱くなるように震えた。
「…まずい」
信号待ちで立ち尽くした瞬間、身体がふっと軽くなる。
そしてー
ヒカルは、歩道に崩れ落ちた。
倒れ込む直前に掴んだのは、誰かの腕。
「お、おいっ…!? ヒカルさん!?」
声を聞いた瞬間、ヒカルの意識はようやく人物を認識する。
黒部アキト。
数週間前、職務質問で出会い、長い会話を重ねるうちに
少しずつ
ヒカルの生活に入り込んでいた”
ミリタリーメガネの青年(28)。
「ヒカルさん!? なんかめっちゃ顔色…うわ、やば。救急車!!」
アキトが慌ててスマホを取り出すと、
ヒカルは弱々しくそれを制した。
「だいじょうぶ…救急車は……いい」
「よくないだろ!? 完全に倒れたじゃん!」
「平気……ただの……貧血…」
SAT班長としてのプライド。
人に弱ったところを見せたくない意地。
だが、身体は正直で、指先すら冷たい。
アキトは迷わなかった。
「分かった。…じゃあ、俺が支えるから。ほら、肩貸す」
優しく、でも強引に腕を引き上げる。
ヒカルは彼の肩に体重を預けるしかなかった。
夜道を、アキトは半ば抱えるようにして歩いた。
■ アキトの部屋にて
アキトは結局ヒカルを自分のワンルームへ連れて行った。
「狭いし散らかってるけど…ここが一番近かったから」
ヒカルはベッドに横たえられ、アキトが差し出した水をゆっくり飲む。
「…ごめん。迷惑、かけたね」
「迷惑とかじゃないよ! むしろ…俺、助けられてばっかだったから。」
アキトは少し視線をそらしながら言った。
「今日…やっと、ヒカルさんの役に立てた気がした」
ヒカルの胸が少し熱くなる。
いつも自分が守る側、救う側。
そんな立場で生きてきた彼女にとって、
誰かが自分を助けてくれるという経験はあまりにも珍しかった。
「アキトさん…ありがとう。本気で、助かった」
「よかった…ほんとに」
アキトは言葉を途中で止め、目頭を押さえた。
「俺、最近ずっと…就活うまくいかなくて、親にも呆れられて…
自分なんて
誰の役にも立てないって思ってた」
「でも…今日の俺は、ヒカルさんを助けられた。
だから…ちょっとだけ…自分を許せる気がしたんだ」
ヒカルは黙ってアキトを見つめた。
この青年は、自分が思っている以上に、傷ついている。
そう気づいた瞬間、ヒカルはそっとアキトの手に触れた。
「アキトさん。あなたは……ちゃんと、人を救える人だよ」
アキトは驚き、そして目に涙を浮かべた。
「ヒカルさん…」
疲労で弱っていたヒカルの表情にも、わずかな微笑みが戻る。
「これからは…頼っても、いい?」
「もちろん! 何回でも! 俺でよければ。」
アキトは照れくさそうに笑った。
ヒカルはその笑顔を見て、心の奥がじんわりと温かくなる。
倒れた夜。
差し伸べられた手。
それは、ヒカルの長い人生の中で
思いがけず深い意味を持つ出会いの瞬間になっていった。
東京の夕暮れ。
ある日の夕方。
勤務を終えたヒカルは、まだどこか身体の奥に疲れが残っているのを感じながら、アキトとの約束の場所へ向かった。
SATの班長として磨かれた勘は、人間関係にも慎重さを求めてしまう。
だが―アキトだけは違った。
無職、オタク気質で、危ないヤツで、また
エアガンのことで職質
した相手。
なのに、倒れた自分を迷わず助け、何度も、家まで様子を見に来てくれた。
気づけばヒカルの心は、彼に“安らぎ”を求めていた。
■アキトのアパートにて
アキトの住むアパートは古いが、整理整頓されていて彼の几帳面さが伝わった。
ヒカルが部屋に入ると、アキトは照れながら笑った。
「散らかしてないよほんとに。
今日は、ヒカルさんが来るから、5回掃除し直したけど」
「五回!? そんなに気を遣わなくていいのに」
「いや…なんか、緊張して。だってヒカルさん、すごい人なのに」
「すごいとかじゃないよ。私は、普通の人間」
ヒカルはブーツを脱ぎながら、ふわりと笑った。
その笑顔に、アキトは胸が詰まるほどドキッとしてしまう。
■手料理のテーブル
アキトは不器用な手つきで料理を並べた。
ハンバーグ、サラダ、インスタントのスープ。
「料理、上手だね。美味しそう」
「いや…ネットで“初デート 作りやすい料理”って検索して…
けど、なんとか形になったから」
ヒカルは一口食べて、目を丸くした。
「アキト。これ、本当に美味しいよ」
「よかった…」
アキトの目に安堵の色が広がり、ヒカルはその反応さえ愛おしく思えた。
■2人の距離が縮まるリビング
夕食のあと、2人はこたつ机を挟んで座った。
アキトが淹れた麦茶から、ふんわりと温かい湯気が立ちのぼる。
「ヒカルさんって…強いのに、なんか危ういとこもあるよね」
「危うい?」
「うん。頑張りすぎて、壊れそうな感じがするときがある。
だから…放っておけない」
ヒカルは胸がぎゅっと締めつけられた。
何人もの部下たちを導いてきた。
幾度となく最前線に立ち、命のやり取りをしてきた。
でも、“自分を気づかってくれる言葉”をこんな近さでくれる人は初めてだった。
「アキト…優しいね」
「優しくなんかないよ。ただ…ヒカルさんが好きなんだと思う」
その言葉に、ヒカルの心臓が跳ねた。
■ヒカルの本音
「ねぇ、アキト」
「うん?」
ヒカルはゆっくりアキトの手を取った。
武器を握り、引き金を引くために鍛えられた手とは思えないほど、優しい手つきで。
「私も…あなたに惹かれてる。
部下にも家族にも見せない顔を、あなたには見せられる。
そんな相手、初めてなんだ」
アキトの目が見開かれ、そして頬が赤くなる。
「ほ、本当に…?」
「本当だよ」
静かな部屋に、2人の呼吸だけが響く。
ヒカルはそっと体を寄せ、アキトの肩に頭を預けた。
「今夜は…少しだけ、このままでいさせて」
「もちろん。
ヒカルさんが安心できるなら、ずっとでも」
アキトはぎこちないのに優しく腕を回し、
ヒカルはその温かさに、誰にも見せないほど穏やかな笑みを浮かべた。
■こうして始まった、2人の恋。
強さと傷を持つ女性警官・ヒカル
不器用だけれど心の優しい青年・アキト
互いの欠けた部分にそっと触れながら、
新たな愛が静かに、確かに動き始めていた。
◆ ヒカルの職場での新事件とアキトの支え
警視庁本部庁舎の朝。
SAT狙撃班・班長、日向ヒカルは深い呼吸をしてから会議室へ入った。
前回の大事件から数週間。
班員たちは通常業務に戻りつつあったが、ヒカルにはまだ微かな疲労の影が残っていた。
最近、彼女を静かに支えていたのは
ミリタリーメガネをかけた無職の青年、黒部アキト。
あの日、道で倒れたヒカルを助け、夜通し看病までしてくれた青年は、不器用だが誰よりも優しかった。
◆ 新事件発生
午前11時。
会議室の扉が乱暴に開いた。
「緊急事案発生! 都内オフィスビルで武装立てこもりだ!」
同時に無線から、銃声らしき音と、叫び声が入る。
ヒカルは瞬時に表情を切り替えた。
狙撃班班長として、判断は迅速でなければならない。
「全員、装備を整えて車に集合!
現場到着後、突入班との連携は私が取る!」
隊員たちが走り出す中、ヒカルは一瞬だけスマホを見た。
そこには、昨夜アキトから届いたメッセージ。
『今日も気をつけて。帰ってきたら、一緒にご飯作ろう』
胸がわずかに熱くなる。
だが、次の瞬間には戦う者の顔に戻った。
◆ ビル前の緊迫
現場は、都内中心部。
10階建てオフィスビルの7階に、グループ武装犯が立てこもっているという。
狙撃位置を選定しながら、ヒカルは情報を整理した。
「人質は12名…犯人は脱走した元軍事傭兵?
…厄介ね」
犯人の一人が窓辺に現れた瞬間、ヒカルの眼が鋭く光る。
「動きが不規則…何か焦ってる?」
部下が緊張した声で言った。
「班長、射撃判断は……?」
ヒカルはわずかに目を細めた。
「まだ。—狙撃は、最終手段よ」
その言葉に、部下の緊張が少し和らいだ。
◆ 人質の一人がビルから落ちそうになる
突然、窓から悲鳴が上がった。
犯人が人質の一人を窓際に引きずり、突き落とそうとしている。
現場に絶叫が走る。
「班長!! あれは危険です!」
「…射撃位置、0.5ミリずらします」
ヒカルは深く息を吸い、引き金にそっと指をかけた。
「絶対に助ける」
次の瞬間—
乾いた一発の銃声。
犯人の腕を正確に撃ち抜き、人質を手放させた。
「確保っ!!」
建物内の突入班が叫び、混乱が一気に変わった。
ヒカルの指示のもと、人質は突入班によって次々救出されていく。
このあと凶悪犯は全員制圧され、事件は無事解決した。
◆ 事件後、ヒカルの動揺
事件後、警視庁の高層から夕暮れを眺めていたヒカル。
射撃成功にもかかわらず、心は落ち着かなかった。
「南條さんを失った時の感覚が、また」
肩の震えを自覚した瞬間、ポケットのスマホが震えた。
アキト:
『今日も無事?』
ヒカルは、堪えきれず小さく笑う。
ヒカル:
『大丈夫。…会いたい』
◆ アキトの支え
「ヒ、ヒカルさん! 本当に大丈夫なの……?」
彼はヒカルの腕をそっと掴み、震える手で確かめるように触れた。
ヒカルはその手を握り返した。
「大丈夫……あなたがメッセージくれたから、踏ん張れた」
アキトは耳まで赤くして俯く。
「お、俺なんか…仕事長続き
しない
ただのニートなのに…そんなこと言われたら…。」
「そんなことない」
ヒカルは一歩近づき、アキトの胸に額を預けた。
「あなたが、今の私の支え…。
死にそうな現場に行く前に、思い出す顔は…アキトの顔になったの」
アキトは驚きで固まったが、優しく両腕でヒカルを抱きしめた。
「…俺、ずっとヒカルさんを支えたい。
俺ができるまでのことで、いいなら…」
「十分よ」
夕焼けの中で、二人だけの小さな世界が生まれた。
◆ 二人の未来への予感
その後、ヒカルはアキトを連れて自宅へ向かった。
手を繋ぎながら、アキトがぽつりと言う。
「俺…もう一回、就職活動してみようかな。
ヒカルさんに恥ずかしくない人になりたい」
ヒカルは微笑んだ。
「無理しなくていい。でも応援する」
「いや…やる。
ヒカルさんと一緒にいたいから」
その言葉は、ヒカルの心の奥深くにまっすぐ届いた。
二人の未来が、確かに動き始めていた。
■アキトの新しい仕事
黒部アキトは、ようやく見つけたパート仕事
放課後デイサービスの補助指導員に採用された。
子どもは苦手でも得意でもない。
しかし、どこか自分と似た影を持つ子どもと接していると、不思議と落ち着く瞬間があった。
暴れる子を必死に宥めたり、悩みを聞いたり。
アキトは、他の職場では感じなかった「必要とされている感覚」に胸が熱くなることがあった。
「アキトさん、今日も助かりました」
「黒部くんが来てくれて、みんな安心してるよ」
そんな言葉を言われたのは、生まれて初めてだった。
■ヒカルの無理
一方
SAT狙撃班の班長
として、また警部として
働く
ヒカルは、激務が続いていた。
深夜の事件対応、書類業務、後輩の育成。
そのすべてを抱え込み、睡眠は平均4時間。
ロジンにも白石にも「休め」と言われていたが、ヒカルは笑って誤魔化していた。
「私は平気。だって―守るために、この仕事をしてるから」
しかし、その強さは少しずつ限界へ近づいていた。
■再び倒れる夕暮れ
ある夜。
勤務を終え、帰宅途中のヒカルは、ふらつく足に違和感を覚えた。
視界が白く揺れ、電柱に手をつこうとして―そのまま崩れ落ちた。
「ヒカルさん!?」
偶然その場を通りかかったのは、
放課後デイの仕事を終えて帰宅途中だったアキト。
アキトは慌てて駆け寄り、ヒカルの体を抱き上げた。
肌は驚くほど冷たく、息も浅い。
「うそだろ…なんでこんなになるまで」
■アキトの部屋で
アキトはすぐタクシーを止めて、自分のアパートへ運んだ。
布団に寝かせ、水分を含ませたタオルで額を冷やす。
まだ春先の夜は冷える。
アキトは自分のパーカーをヒカルの肩に掛けた。
数時間後、ヒカルがゆっくりと目を覚ます。
「アキト…?」
「無理しすぎ。マジで…
死ぬぞ、こんなの」
アキトの声は震えていた。
怒っているようで、それ以上に心配が滲んでいた。
ヒカルは力なく笑う。
「ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑とかじゃないだろ俺は、ヒカルさんには」
言いかけて、アキトは口を閉じた。
しかし顔は真剣で、逃げようとしなかった。
「ヒカルさんが倒れるの、もう見たくない。
だから…頼むから、少しは自分を大事にしてくれよ」
ヒカルの胸が、切なく締めつけられる。
■距離が縮まる時間
体力が戻るまでのあいだ、アキトはヒカルのそばに付き添った。
水を飲ませ、必要なものを買いに走り、
時には黙って隣に座っていただけ。
夜、熱がようやく下がりはじめたころ。
ヒカルはアキトの肩に寄りかかるようにして言った。
「アキト…ありがとう。あなたがいてくれて、助かった」
「ヒカルさんが、俺を助けてくれたんだよ。
俺の人生、あの日から変わった」
アキトは照れくさそうに笑う。
「だから今度は俺の番。
ヒカルさんのそばに
いたいんだ」
ヒカルの心臓が高鳴る。
ずっと、強さの裏で誰にも見せなかった弱さを、
アキトだけは受け止めてくれた。
「そばにいてくれる?」
「当たり前だろ」
その夜―
ヒカルはようやく深く眠れた。
アキトはその寝顔を見守りながら、
心の中で静かに決意を固めていた。
「この人を、守りたい」
悪夢の招集
東京都内。
国際テロ組織のが、市街地で大規模立てこもり事件を起こした。
SAT 隊が全力で出動する中、狙撃班班長 日向ヒカルは
現場指揮所に走り込む。
「ヒカル班長、屋上に敵狙撃手の可能性あり!」
「了解。私が上に上がる。機を逃すな!!」
気迫と責任を背負う彼女の背中は、誰よりも重い。
静寂の一発
ヒカルはビル屋上へと単身で上り、双眼鏡をのぞいた。
—いた!!。
遠方ビルの屋上、全身黒ずくめの敵狙撃手。
その銃口が、市民に向けられる。
ヒカルは息を整えた。
「(必ず止める…!!)」
だがその刹那—
シュパンッ!!
「——っ!?」
ヒカルの胸に、灼ける衝撃。
敵狙撃手のほうが一瞬だけ速かった。
通信が悲鳴に変わる。
『ヒカル班長被弾!! 班長ダウン!』
ヒカルは視界が白くなりながら、最後に
アキトの笑顔だけを思い浮かべた。
「あぁ…まだ…伝えて、いない…」
そして意識は闇に落ちた。
家族へ届く“真実”
夜。
ニュースは全国に速報を流した。
『SAT 狙撃班班長 警視庁
日向ヒカル 警部、胸部被弾。意識不明の重体』
ロジンはテレビの前で崩れ落ちた。
「ヒ、ヒカル…!!どうして…SAT!?」
白石も動揺を隠せなかった。
「まさか…ヒカル、お前…そんな仕事を!?」
ヒカルがずっと言わなかった“もう一つの顔”。
それが、一瞬で
家族に明かされた。
アキトの知らなかった世界
同じニュースを、黒部アキトも見ていた。
画面に大写しになるヒカルの名前と写真。
テロ事件の現場映像。
「狙撃班班長」の肩書き。
アキトは信じられず、震える声でつぶやいた。
「ヒカルさん…君…SATだったの…?」
膝が崩れ、床に手をつく。
ヒカルが危険な任務に就いていたことを、一度も気づけなかった。
「どうして…こんな事に!!」
涙がこぼれた。
病室で眠り続ける狙撃手
深夜の集中治療室。
ヒカルは管に繋がれ、微動だにしない。
ロジンは震える手で娘の手を握る。
「ヒカル…目を開けて
お願い…まだ何も…言えてないのよ。」
白石は唇を噛みしめた。
「俺達に隠して…こんな重荷を一人で何も言わずに背負って。」
アキトは部屋の端に立ち尽くし、涙で顔を歪める。
「ヒカル…君、本当に…死ぬ気だったの…?」
彼は初めて知る。
ヒカルがどれほど“命を削る”仕事をしてきたのかを。
そして、震える声で呟いた。
「君が帰ってくる場所…俺、作れてたのかな…。」
戻らない意識
医師が説明する。
「弾は胸部を貫通しました。奇跡的に心臓は外れましたが…
失血によるショックで、意識は……いつ戻るか。」
ロジンは泣き崩れる。
白石は机を殴った。
アキトは、ヒカルの手を両手で包み、声を震わせた。
「ヒカルさん俺、君に…言いたいことが
いっぱいあるんだ…。」
しかし、ヒカルは眠り続け、まつげひとつ動かさない。
静かな誓い
ロジン達が帰り、
アキトは一人、ヒカルのベッド横に残った。
「君は……俺を助けてくれた。
どん底だった俺に…居場所をくれた……。
次は俺が…君を、助ける番だ。」
アキトはヒカルの沈んだ手をそっと握る。
「だから…帰ってきてよ。
ヒカルさん…お願いだから。」
だが返事はない。
それでもアキトは、
ヒカルの手を、離そうとはしなかった。