「………っ…ぅ……!!」
薄暗く汚い裏路地を一つの影が駆け抜ける
(L社が…倒産?それなら中の職員は…ハンスは?
………もう…)
幾度もその姿を近くで見てきた彼女にとって、その情景は想像に難くなかった
…そんな事があって良い訳が無い
ようやく何かが変化したのに
ようやく気持ちを伝えられたのに
ようやく………
「………絶対に諦めるもんか……」
声に出す事で自らへ発破を掛ける
L社が倒産?職員は行方不明?
…だから何だ
それは彼との約束を破る理由にはならない……
”『一緒に』逃げよう?”
そんな約束を
勝手に止まっていた足に拳を叩きつける
この足はまた動き出した
…そうだ
まだ動くのだ
なら動かさなくてはならない
まず最初にL社があった12区へ赴いた
「…通して、時間が無い」
そう声を漏らしながらフィクサーの間を抜けようとする
…現在ハナ協会南部支部3課と4課がL社の巣を隔離措置している……らしい
その為今私はハナ協会によって雇われたフィクサーに足止めを食らっている
「……嬢ちゃん、お前中に大切な人でも居るのか?
残念だが、こっから先は立ち入り禁止だ
…悪いことは言わない… 辞めといた方がいい。
儂も職業柄……」
「なら、中で何が起こっているのか教えて。
……それと、L社で何があったのかも。」
「………中で起こってることは話せない。そう言う契約だからな
……ただ、L社で何があったか位は教えてやる」
そのフィクサー…サルヴァドールという名の夜明事務所の代表 は、L社について良く教えてくれた
…Lobotomy社が翼の席に座り十年
突如としてL社から謎の『光』が通日に及んで発生した
その『光』によって都市の人々の中で『ねじれ』という現象が起きる様になった………
「………儂が知っている事はこれ位だ
後は知らん。儂らはただ、命令された通り動くだけだからな
……何故お前がこんな事も知らないのかは聞かないで置いてやる
……さっさと去れ」
「………」
既にツヴァイ協会で聞いた情報を自慢気に話すだけだった
…クソジジイめ
「聞こえているぞ。…ったく、最近のガキは…どいつもこいつも敬語が使えないのか…」
…結局何も得られなかった
私は他のアテがある場所へ駆けた
次にハナ協会へと赴いた
L社を封鎖している協会ならL社についての情報を持っていると思ったからだ
…だけれど、
「………所属事務所と名前を。」
「……私はただL社の情報が──」
「所属事務所と名前を。」
「…元■■■…」
「現在は?」
「………」
「…お引き取り下さい。 」
…どうした物か
このままズルズルと時間を稼いだ所で、ハナ協会へ立ち入らせては貰えないだろう
…今の私はフィクサーでも何でも無い、ただのネズミでしかない
(…L社から逃げ出したあの時の力さえあれば…)
あのT-03-46《白夜》やO-05-47《触れてはならない》を生成したあの力はあれ以降使えなくなっていた
…その為今の私はスーツに警棒一本の限界状態であった
(………仕方無い)
このまま捜し続けて餓死なんて洒落にならない
…金を稼げる職業といえば…
「…いや、私はフィクサーになりに来たんだ」
「……………では、付いてきて下さい。 」
………そうして私は難無くフィクサー試験に合格した
ハナ協会からの免許を取得し、晴れて私は9級フィクサーとなった
…適当な事務所へ入り、入ってきた依頼をこなす
依頼によって入ってきたカネは税金によって殆どが中抜きされ、残り僅かのカネを食事へつぎ込む
同じ事務所のフィクサーとも殆ど会話を交わすことなく、飽く迄も仕事仲間、ということなのだろう
……その為、依頼以外何所で何をしようが何も言われない
「………通して」
「………所属事務所と名前を…」
私は何も言わずにフィクサー免許を見せる
ハナ協会フィクサーも何も言わないまま付いて来いと言うように手を振り、ハナ協会の奥へ入っていく
私も後へ続く
「………ハナ協会南部支部3課のフィクサー、ハロルドです。……9級フィクサーの方が何の用で?」
「Lobotomy社についてハナ協会が把握している情報を教えて。
…いや、教えて下さい。」
「はぁ…何故そのような情報が欲しいのかは知りませんが…たかが一端の底辺フィクサーに教える情報なんぞありません。
お引き取り下さい。」
「…っ……大切な人がL社で働いていたんです…
…お願いします……」
「…都市ではありふれたことです
……それに、ハナ協会も『ねじれ』への対応で忙しいのです。」
「なら!!その『ねじれ』についてだけでも───」
「これ以上時間を取らせないで下さい 」
ハロルドはスミレの首元を摑み、自分の頭ほどの高さまで持ち上げる
その右手にはいつの間にか巨大な義手が装着されており、私が藻掻こうとビクともしない
…そのまま私はハナ協会の外へ投げ飛ばされてしまった
「…クソ……くそ………
……………ハンス………」
その後もL社と協力関係にあったR社、T社、W社、K社へ赴いた
…が、何所も門前払い
何なら各区の裏路地でネズミに殺されかける始末だった
…今の私は無力だ
あの力も、ましてやE.G.O.すら無いただの底辺フィクサーだった
(それでも……
…ハンス………)
そして私は裏路地中に張り紙をばら撒いた
私が初めて目を覚ました時にその場所が裏路地だったように、ハンスも全く別の区で目を覚ました…と考えた為だ
裏路地で聞き込みも行い、僅かな食費を更に削って絞り出したカネで便利屋に情報収集もさせた
……そんな日々を繰り返していた
そして、
……そして。
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