…何処かの裏路地
私は何かの建物に背を預け、座り込んでいた
絶え絶えな呼吸
体中には大きな青痣
目を開ける事すら億劫なほど疲労…だが、その右手には力強く何十枚もの張り紙が握られている
「はぁっ…はぁっ……」
いつものように裏路地中に張り紙をばら撒き、聞き込みをし、その上で裏路地中を駆け回りハンスを捜していた
…が、それを良く思わないネズミ共にサンドバッグにされ、底辺フィクサーに襲われそうになりながらも命からがら逃げ出してきたのだ
思考だけがゆっくりと巡る
…私は貴方のために何が出来ただろうか
これだけの時間を掛け貴方の髪の毛一本も見つけることが出来ず、あの約束も守れないまま私一人で逃げ出してしまった
「……ね…………死ね………
………お前は…………」
…一瞬、『もう何所にも居ないんじゃないか。』と考えてしまった
…自分に吐き気がする
彼を救えない無能が何を考えた?
約束も彼も守れなかった癖に
「………はん……す………」
やめろ
お前がその名を呼ぶな
何も出来ない半端物が何も求めるな
今すぐ立ち上がれ
走り出せ
「……ハンス…」
お前は見つけるまで捜し続けるんだ
お前が逃げようとするな
お前が楽になろうとするな
お前なんかが……
「…………………『助けて』」
…直後、静けさが辺りを包む真夜中の裏路地に足音が響き、一歩、また一歩と近づいてくる
やがてその足音は私の前で止まり、閉じていた瞼越しの月明かりが遮られる
私が瞳を開けば…私に向かって手が差し伸べられていた
私はその手をほぼ無意識で摑む
私はゆっくりと顔を上げ、その人物の顔を…
「………………」
別に期待していた訳では無かった
ただ、これが彼ならばどれだけ幸せだろうと考えてしまっていた
…その顔にはガスマスク
全身の特徴的なスーツは昆虫の外骨格のように造られており、血生臭い匂いがツンと鼻を刺す
…そして、私が摑んでいるその手には小鎌が握られており、刃先が私の額に触れ、少量の血が流れる
「…654987321」
「……掃除屋…」
時刻は真夜中
裏路地で夜屋外に居るというのはあまりにも自殺行為である
…完全に忘れていた
まともに睡眠も食事も取らず捜索を行っていた為か、上手く頭が回っていなかった
「123564539」
…相変わらず意味不明な言語を放ち、掃除屋は私の掴んでいる腕とは逆の腕で小鎌を私に振るう
私は掴んでいた腕を引き、その勢いのままガスマスクのゴーグル部分へ警棒を突き刺す
「989765869」
掃除屋が暴れ出す前にすぐさま掴んでいた腕、その先にある小鎌を掃除屋の喉元へ突き刺す
多少動きが鈍った所で馬乗りになり、その流れで両腕から奪った小鎌でその身体をズタズタに引き裂いていく
「……253…………6……」
…動かなくなった掃除屋の首も切り落とした所で、私も仰向けとなり倒れる
「…はぁっはぁっはぁっ………」
呼吸は乱れに乱れ、冷たい空気が喉を通るたびに私の鼓動を感じる
(………あ)
…裏路地の夜は裏路地を掃除する掃除屋の”集団”であり、裏路地の住人が夜に行動を起こさないのはこの為だ
…仰向けになった私のぼやけた視界に、また新たな掃除屋が映る
酸欠の脳が即座に身体へ命令を出す
私はすぐさま起き上がり、逃げようとする……が……
「っ!………はぁっ…はぁっ…」
私の左足に鎌が突き刺さる
掃除屋達は仲間の死体を見ながら何かを話している
「64597978978」
「10687548648」
「6463」
(……嫌だ……まだ…ハンスに会えてないのに………)
「…っあ……」
右足に鎌が振るわれ、その瞬間右足の膝から下の感覚が無くなる
…もう話は終わったようだ
そうして、奥から何十、何百もの掃除屋が現れる
…私の上にその内三体の掃除屋が乗り、ゆっくりと私を切り刻んでいく
(……………)
体中の熱がまるで気体のように流れていく
左足、両腕、腹と様々な場所が切り取られてゆく
…私にはもう既に痛覚はあって無い様なモノで、そこにあるのはゆっくりと切り刻まれる感覚のみだった
(………………死にたくない…)
その意識すらも、ゆっくりと薄れていく
…私は今何をやっているんだ?
私はハンスを捜していたんじゃないのか?
この程度、今までと比べたら何だというのか?
両足が無い?
両腕が無い?
疲労で体が動かない?
(………だからなんだ?)
…それがハンスを諦める理由になるのか?
怒りからか、責務感から来る物なのかはわからないが、私の心臓は冷たくなる体と反比例する様に熱く、強く高鳴る
(………ふざけるな)
ハンスとの『これから』の為なら…
この程度───
「T…01………75《笑う死体の山》!!!」
無意識ではなく、自らの意思でその言葉を放つ
目の前の掃除屋の首が噛み千切られる
「687」
呆けている掃除屋に、残った右足の膝上部分を使う事で何とか飛びつき、首元へ向かって歯を立てる
…が、すぐに投げ飛ばされてしまう
もう一体の掃除屋が咄嗟に私へ向かって鎌を振りかぶろうとする…が、T-01-75《笑う死体の山》がすぐさま上半身を食い千切る
(意識が………あと何秒持つ……?)
私が意識を失う十数秒までの間、やれることをやる
「…………『抽』………『出』……」
T-01-75《笑う死体の山》から装備E.G.O.を抽出し、死体の元まで這いずる
全身からとんでもない量の血液が流れ続ける
周りの掃除屋が此方まで走ってくる
(………まに………あ…………)
あと少し
意識が無くなる前に
掃除屋達が来る前に…早く…前へ…
(……………も…………ぅ…………)
───スミレ。
「!!!!!」
目の前の死体へ辿り着き、『笑顔』が死体を貪る
それと同時、私の傷は塞がり、流血は止まり、私のもう一つの足は補填された
…残り3つの死体を貪り、私は両の足で立ち上がる
「648648675857」
「67491168407678668」
「…6481600468」
何かを話してはいるが、焦るような、化け物を見るかのような仕草であった
「…O-06-20《何も無い》」
抽出
「T-01-31《静かなオーケストラ》」
抽出
「T-03-46《白夜》」
抽出
「O-02-63《終末鳥》」
抽出
「O-03-89《規制済み》」
抽出
「O-03-93《蒼星》」
抽出
「D-01-106《黒の兵隊》」
抽出
「D-03-109《溶ける愛》」
抽出
「T-01-68《死んだ蝶の葬儀》」
抽出
T-01-68《死んだ蝶の葬儀》のE.G.O.ギフトの『崇高な誓い』へ全ての武器E.G.O.を入れ、いつでも取り出せるようにする
最後に…T-01-75《笑う死体の山》のE.G.O.ギフトの仮面を顔に取り付け、武器E.G.O.の『笑顔』を肩に担ぎ…ようやく掃除屋の群れに向き直る
「……………死ね」
コメント
3件
コメント失礼します、本当に世界観が大好きです…! 今回のお話も素晴らしかったです、スミレさんとハンスさん、本当に幸せになってほしいです…