テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#世界観
QuartoMew
4,567
モノクロナツキ
1,508
#衝撃のラスト
ゆいな
103
こはる
364
コメント
1件
うわあああああもうこの話エモすぎる😭💕💕 セトくんが「おいしい…」「温かい…」って言ったとこ、マジで胸がきゅーってなったよ…!今まで一人で魚捕って生きてきた子が、初めて誰かと向かい合って食べる温かいご飯…それだけで涙腺崩壊しかけたよ🥺 ルルくんの「名前付けてもいい?」も優しすぎるし、なんでこの子こんなにいい人なん…って推したくなる!! 「セト」って名前、海の穏やかさを表しててぴったりすぎる〜✨ 二人の日常、これからどうなるのかめっちゃ気になる!!続きが待ちきれないよ〜〜😭💕
海辺の町は、朝が早い。漁船のエンジン音。
市場へ向かう人々の笑い声。
青年は岩場に腰を下ろし、それを遠くから眺めていた。
(……人…たくさんいる。)
近づきたい。
でも、怖い。
研究所を出てから一年。
人と話したことは、一度もなかった。
空腹になれば魚を捕る。
眠くなれば森で休む。
それだけで生きてきた。
「……今日は、港まで行ってみるか。」
狼の姿へと変わる。
尾びれは脚へ。
耳と尻尾だけが獣の名残として残った。
服は研究所から逃げる時に持ち出した白衣だけ。
ぼろぼろで、裾は何度も縫い直している。
人混みを避けながら港へ向かう。
その時だった。
「──危ない!」
ドンッ。
何かが勢いよくぶつかった。
「あっ!」
箱いっぱいの魚が地面へ散らばる。
青年は反射的にしゃがみ込み、一匹ずつ拾い始めた。
「ご、ごめんなさい……。」
声が震える。
怒られる。
殴られる。
そう思って身を縮める。
しかし返ってきたのは、思いもよらない笑い声だった。
「いやいや! 俺の前見てなかったのも悪いし!」
青年が顔を上げる。
そこにいたのは、自分より少し高い背丈の青年だった。
陽に焼けた肌。
海風で乱れた明るい茶髪。
優しい茶色の瞳。
「怪我ない?」
「……え?」
「怪我。」
そんな言葉をかけられたことがない。
「……ない、です。」
「よかった。」
彼は笑う。
その笑顔は博士とは違った。
何かを企んでいる笑みではない。
ただ、安心したような笑顔だった。
「魚拾ってくれてありがとな。」
青年は小さく頷く。
「……ごめんなさい。」
「だから謝らなくていいって。」
また笑う。
「俺、ルル。港の食堂で働いてる。」
そう言って胸を叩く。
「君は?」
青年は黙った。
名前。
そんなものはない。
「……ない。」
「ない?」
「名前……ない。」
湊は驚いた顔をした。
しかし詮索はしなかった。
「そっか。」
少し考えると、にこりと笑う。
「じゃあさ。」
「俺が名前付けてもいい?」
青年は目を丸くする。
名前。
誰かがくれるもの。
そんな日が来るなんて思ってもいなかった。
「……いい、の?」
「もちろん。」
湊は少しだけ空を見上げる。
「海で会ったし、黒い髪だから……」
「**セト**ってどう?」
「風も波も穏やかな海のこと。」
「君に似合う気がする。」
青年は何度もその名前を口の中で転がした。
「……セト。」
初めて、自分を呼ぶためだけの言葉。
胸の奥が少しだけ温かくなる。
「ありがとう……。」
その小さな笑顔を見たルルは、思わず見惚れてしまった。
(……この子、笑うとこんなに可愛いんだ。)
「そうだ!」
湊は手を叩いた。
「朝ごはん食べた?」
セトは首を横に振る。
「魚なら食べた。」
「生?」
「……うん。」
「毎日?」
「うん。」
「……よし。」
ルルは笑顔でセトの手を引いた。
「今日は人間の飯、食わせてやる!」
「にんげん……の?」
「世界一うまい朝飯!」
食堂の扉を開けると、焼き魚の香ばしい匂いと、炊きたてのご飯の甘い香りが広がった。
「いただきます。」
ルルに教えられるまま、セトもぎこちなく手を合わせる。
箸を持つ手は震えていた。
恐る恐る焼き魚を口へ運ぶ。
「……!」
思わず目を見開く。
「おいしい……。」
「だろ?」
「温かい……。」
その一言に、ルルの胸は締めつけられた。
誰かにとって当たり前の温かい食事が、セトにとっては初めての幸せだった。
ルルは何も聞かなかった。
どんな過去があったのか。
どうしてそんな顔をするのか。
それでも、一つだけ心に決める。
(この子には、もう一人でご飯を食べてほしくない。)
その日から、セトは毎朝、ルルの食堂へ通うようになった。
そして、二人の日常はゆっくりと動き始めるのだった。