「ごめん、柚葉。樹のジョークだから気にしないで。樹、気をつけろよ」
「本当のことを言っただけだ」
思わず私の目が据わる。
「いい加減にしてくれ。柚葉のことを悪く言うなら許さない」
「……」
樹さんは、横を向いたまま黙ってしまった。
「だ、大丈夫です、全然大丈夫。まあ、美人じゃないのは本当のことだから……。あはは」
私のせいで場の雰囲気が悪くなるのはものすごく嫌だった。何とか愛想笑いでごまかしたけど……
「ごめん、本当に樹の言うことは気にしないで。さあ、行こうか」
柊君が、申し訳なさそうな顔をした。
それにしても、樹さんはほぼ荷物を持っていない。
服装も、ジーンズにTシャツ、ジャンパー姿でかなりラフな格好だ。
これで海外支社長とはとても思えない。
洋服の感じもだけど、他の見た目の違いでいえば、髪の色が少し違ってる。つまりはそこで2人を見分けられる。
柊君はナチュラルなブラウン、樹さんはクール系のアッシュグレー。緩いパーマスタイルは似ているけど、確かに、樹さんの方がオシャレ感はかなり強い。
もちろん、私には圧倒的に柊君の方が爽やかで好感が持てるけど。
はぁ……。
すねていても仕方ない。
私は気を取り直して樹さんに話しかけた。
「樹さん、英語ペラペラなんですよね。すごいですね」
将来、義理の弟になる人なんだから、大事にしないといけない……私は自分に言い聞かせた。
「アメリカに住んでるんだから、英語くらい話せて当然だ。つまらないお世辞はやめてくれ」
前言撤回!!
やっぱりこんな人、大事になんて思えない。
何なの、本当に柊君の弟?
いやいや、柊君の弟だと思うからダメなんだ。ただの「人」だと思おう。だけど、見た目が似すぎてるから変に頭が混乱する。
「樹はアメリカに行く前から英語が話せてたんだよ。僕らは、2人とも子どもの頃から英会話にずっと通ってたんだけど、樹の方が断然上手くて。ビジネス英語ができるから、それが樹の武器だよな」
柊君は、誇らしげに樹さんを褒めた。
「柊も英会話は得意じゃないか。ビジネス英語も、柊ならすぐにマスターできる」
「そうだな、英会話も頑張らないとな。樹は、昔から本当に何でもできる秀才なのに、なんせこの通り愛想が悪いから、周りに誤解されやすいんだ」
柊君は、そう言って笑った。
「何でもできるのは柊だろ。柊のおかげで、今は俺もやりがいのある仕事に就けたって思ってるし」
そっか……
性格は違っても、この2人はお互いに認め合い、尊敬し合ってるんだ。
素敵だな、そういうの。
兄弟っていいな。
でも、やっぱり……樹さんは苦手だ。
「じゃあ、日本に戻っても樹にはバリバリ頑張ってもらわないとな」
「こき使うのだけは勘弁してくれ」
兄弟2人の自然な会話を聞きながら、私達は地下にある駐車場に到着した。
止めてあった車に樹さんの少ない荷物を乗せ、私達はそれぞれ前と後ろに乗り込んだ。
後部座席からの眺めは、まるで同じ人が運転席と助手席に乗ってるようで、かなり不思議な空間になっていた。おまけに、キラキラオーラも充満して、何ともいえずドキドキしてしまう。
「今日は、夜、3人で食事しよう。いいだろ? 樹」
「ああ、別に予定は無いよ」
「柚葉もいいよね?」
「あ、うん、大丈夫だよ」
「良かった。じゃあ、仕事が終わったら、柚葉と一緒に樹を迎えに行くから」
「わかった、待ってる」
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