テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
86
さらだサン@不定期投稿
ここと🌹🫶 @低浮気味
「あー! ダメだ、全然わかんねえ!」
放課後の図書室。オレンジ色の西日が差し込む静かな空間に、源光の頭を抱える声が小さく響いた。
目の前の机には、赤ペンでバツだらけの数学のプリント。同じ高等部1年なのに、光くんはとにかく座学が苦手らしい。
普段はクラスの男子とワイワイ騒いだり、グラウンドを全力で走り回ったりしているのに、シャーペンを持った途端に、捨てられた大型犬みたいな顔になる。
「声が大きいよ、光くん」
「あ、わりぃ。……なぁ、梨乃、ここ、もう一回教えてくんね?」
申し訳なさそうに、だけど人懐っこく笑う琥珀色の瞳。その無防備な笑顔に少しだけ胸がトクンと跳ねて、私は慌てて
「仕方ないなぁ」
とノートを覗き込もうと椅子を寄せた。
その瞬間、ふわりと光くんの体温と、ほんのりシトラスの香りが鼻をくすぐる。制服のワイシャツの隙間から覗く鎖骨や、机の上に置かれた、男子らしい少し大きな手。
急に「男の子」としての光くんが全開になって、私は頭が真っ白になってしまった。
「……ん? どうした? 梨乃、顔赤いぞ」
「な、なんでもない!」
慌てて誤魔化そうとしたけれど、光くんは心配そうに眉を下げると、あろうことか、自分の額を私の額にピタリと押し当ててきた。
「ひゃっ!?」
「うおっ、熱っ! お前マジで真っ赤じゃん! 」
近い。近すぎる。触れ合った額から、彼の少し高めの体温がダイレクトに伝わってくる。
動揺して目を泳がせる私が、彼の綺麗な瞳の中にこれでもかってくらいはっきりと映っていた。
「ち、違うの! ちょっと部屋が暑いだけで……!」
慌てて体を離すと、光くんは一瞬きょとんとした後、自分の額に手を当てて、それから私の顔を見つめた。
「……あ」
ようやく自分が何をしたか気づいたらしい。光くんの耳の先が、見る見るうちに彼の髪と同じ金色……いや、それ以上のトマト色に染まっていく。
「わ、わりぃ! 俺、つい姉貴やてぃあにするみたいに……って、お前は姉貴じゃねーし、その、女の子だし……っ!」
「う、うん……」
急にぎこちなくなって、お互いにプリントの端っこを見つめたままフリーズしてしまう。
バクバクと五月蝿い私の心臓の音が、静かな図書室に響いてしまっていないか、そればかりが気になって仕方がなかった。
コメント
1件
うわあ、青春のツンとした匂いがする……! 図書室の西日とか、プリントの上で繰り広げられる小さな距離感の変化がすごく丁寧で、読んでるこっちまでドキドキしちゃいました。 特に「ひゃっ!」からの額をくっつける流れ、光くんの無意識の距離の詰め方が野性的でいいですよね。お互いに気づいて真っ赤になるところも、キャラの表情が目に浮かぶようでした。 第1話でこの密度なら、これからどう距離が変わっていくのか楽しみで仕方ないです! 続きが気になる……!