黒女体化となります。
地雷にご注意ください。
自衛は各自でお願い致します。
朝起きたら女の子でした、なんて、笑えない。
どこの売れないラノベだよ。
でも実際に起きてしまったんだから仕方ない。
異様に膨らんだ胸と高い声、昨日よりも確実に低くなった目線に胸以外軽くなった身体。
あ?誰が元々背低いやねん。うるせぇ分かっとるわそれより低くなってんだよ察せや!
とまぁ、ここまであって女の子じゃないと信じるのは無理がある。
夢だったら…良かったな。何回も確認したわ。手首握って胸揉んであるもんあるか確認したわ。なかったわ。
幸い隣で寝ているまろこといれいすメンバーIfはまだ起きる気配は無い。
そっ、と冷えたフローリングに裸足を乗せる。
つめた、という声は飲み込んで足早に寝室を出る。
洗面所で顔を洗い改めて自分の姿を確認しようと、時間もスマホの通知も確認せず蛇口を捻る。
あぁ、なんか目も覚めたし夢じゃないことも確認できたし冷静になれてきた。
うん、女の子になってることも、確認しました。
身長、15センチくらい縮んでるし、髪も何故か伸びてる。胸もある。しかも結構巨乳。筋肉分全部胸に行ったのか、というレベルででかい。そして筋肉がない分体も幾分か軽い。
……なんでこんなことなったんやろうな?
原因?心当たりしかあらへんわ。
昨日はメンバーがこの家に集まって、ベロベロになるまで飲んだから正直記憶が無い。
どうやってベットに辿り着けたのかは分からないがまあ大方まろが寝室まで運んでくれたのだろう。
で、他メンは帰らないといけないから意識なくなるほど飲むのは控えてだろうことも鑑みると、
いい具合に酒が回ったヤツらなら何か仕出かしてもおかしくない。
てかないこシラフやったやろうから止めろよ。まだアイツらがやったとは限らんけど。
髪はどうしようか。
軽くポニテにでもしておくか。
服は…流石にあらへんよな…オーバーサイズっていう風に割り切るか?いや、下着とかズボンのこと考えるとどうにも出来んわ。
とりあえずずっとこのダボいパジャマというわけにもいかないし、かといって裸はもっとアウトだ。
適当に引っ張り出したパーカーに袖を通す。
うわ、でっか。これどう足掻いても萌え袖になってまう。そうなると自分のオタクを自称する恋人になんと言われるか、想像するだけで恥ずかしい。
下を履いてないのにサイズが大きい故に太腿ら辺まで服を延ばせばあら不思議。なんか危ないことしてそうな格好になってしまった。
もちろんパンツはそのままにした、が、ずり落ちてきそうで怖いところはある。ないよりはマシだが。
ん〜、どうしよ。この状態だと服を買いにとか行けんしじゃあ家にいたらいたでまろに見つかると面倒くさそうやし。
んぁー、とにっちもさっちもいかない状況に頭を悩ませていると
「どぉしたん?そんなところで固まって」
「ふぇっ!?」
背後からまろに話しかけられた。
うわ、いつもよりでかく見える…てかローアングルのまろかっこいいな。いつも見上げてるだろって?いつもより低いんだよ、こちとら。
「あれぇ、アニキいつもよりちっちゃい?かわいいなぁ」
まだ脳が覚醒していないのかふわふわとした話し方で俺な頭を撫でてくるまろ。
まさかこいつ俺が女になったことに気づいとらんな?
「と、とりあえず顔洗っといで。そんで朝飯にしよ。」
ぅん、とまだ眠そうな目を擦りながら洗面所へと向かうまろ。
誤魔化し、出来ひんよなぁ…
そもそも(おそらく)主犯の1人だから、まあそんなことなくとも俺がいなかったらいなかったで騒ぎ出しそうだし…
四面楚歌やんうせやろ
思わず大きなため息をついてしまったのも許してほしい。
____________
「ぅええええええ!?!?あにっ、あにきがっ、女の子に!?え、え!あ、あに、アニキの妹!?!?」
とまぁ、顔を洗ってきたまろはこの困惑よう。
最初は見ていて面白かったが流石にうるさい。
「うるさいわ。俺はお前の恋人の悠佑ですぅ。」
軽くまろの腕を叩きながら台所に立つ。冷蔵庫を確認。
あ、卵少ない。買ってこんと。
そのまま卵をふたつ、冷蔵庫から取り出し油を敷いたフライパンに落とす。蓋をして蒸し焼きにする。
そういやウインナー残っとったな。
頭の片隅にあった記憶からウインナーを取り出しもうひとつのフライパンに転がす。水をフライパンの面が少し溜まるくらい入れて火をつける。
こうすることで余分な脂が落とされるし、仕上がりがパリッとジューシーになる。
食パンをトースターに入れタイマーを五分程度に設定する。
あとは野菜が欲しいところやな。ブロッコリーとキャベツがあるはずやから、電子レンジでなんちゃって温野菜にするか。
なけなしの野菜たちを取り出して水に晒したあと1口大にし、電子レンジにかける。
皿に盛り付けてドレッシングかけたらはい、温野菜の完成〜。俺のおすすめは胡麻ドレです。
もちろん目玉焼きとウインナーのことも忘れない。
ウインナーは実が破裂する直前を見極めてフライパンから取り出す。
目玉焼きは片面に焼き目が着いたらひっくり返してもう一度軽く焼く。俺もまろも両面しっかり焼いた方が好きなのだ。
できた目玉焼きに片方は醤油を、もう片方は塩を振って、おかずも出来ました。
と、いいタイミングでトースターもなった。
今日は今までで1番上手なマルチタスクができたかもしれない。
自分で自分を褒めながらパンを取り出して、既に用意されたテーブルに持っていく。
俺はバターではなくてマーガリン派だ。出されたマーガリンといちごジャムに思わず頬を緩ましながら、席に着いて朝ごはんだ。
2人で手を合わせていただきますをして温野菜に手をつける。
ん、このキャベツええ感じに柔らかくなっとる。
「あ、アニキ!」
「んっ?」
そういえばまろに話すのをすっかり忘れてた。
「ああ、これ?俺も朝目が覚めたらこんなんなってたんやけど、まろ原因知らん?」
「ほ、本当に薬の効果あったんや…」
はい黒確。自白ありがとうございました。こいつらと酒飲むの控えよ。
「どういうことやねん。」
「いや、ちゃうんよ。」
「何が」
「やから、その、なんか『オンナノコニナール』っていう怪しい薬をゲットしたから、じゃあ使ってみようってなって、」
なんでじゃあ使ってみよっかな、になんねん。
しかも俺にやるなよ。
「いや、だって自分たちで試すの嫌やし、そう思っとったらあら不思議、近くにベロンベロンに酔って、何しても翌日忘れてそうなアニキが!!」
「あら不思議、じゃねーーよ!!!そもそもその薬で俺になんか害あったらどうすんねん!!」
「あ、いや、それは、その、大丈夫かなって…」
「どっから来とんねんその自信…」
こいつらも多分酔った勢いでやりおったな。
「てかないこなんで止めてくれへんかったん」
「ああ、飲ませよって言ったのないこやし」
シラフが主犯かよ!!何やってんねんリーダー!!!
思わず食べることも忘れて1人でツッコミを入れる。
塩のかかった目玉焼きに箸を入れれば固まりかけた黄身がほんの少しだけ、トロリと垂れる。
1口大に切って口に入れたら、会話の再開だ。
「で、効果はいつまでなん」
「ん〜、確か説明書も一緒にあったはずやけど…」
おい食事中に席立つなやお行儀悪いやろ。
「あったあった。えーと、『オンナノコニナール、飲むと女の子になってしまうという摩訶不思議な薬。効果は飲んでから24時間限定。女の子の一日をどうぞお楽しみください。』」
どうぞお楽しみください、ってなんやねん!!と、ツッコミを入れ無かった俺はめちゃくちゃ偉いと思う。
「ま、女の子の一日、楽しもや?」
「他人事だからって楽観的に言いやがって…」
こと、と薬の入っていたであろう小ぶりな瓶と説明書をテーブルに置き、再度席に着くまろ。
オンナノコニナールって…もっとええネーミングセンスなかったんか。
瓶の内側には少しだけ水滴が垂れており、その色が淡いピンクだったのだから頭を抱えたくなる。
え、こういう色ってヤベーやつやん。本当に害あったらどうしてたんや。
今自分に実害が出ていることは棚に上げつつようやく理解が追いつき始めた。
あぁ、まだマトモやなかったんや。さすがに非現実すぎて、どこか実感がなかった。
「で、俺服とかないねんけどどうすんねん。家出られへんのやけど」
「あぁ、安心して。これ手に入れた時ふざけて一緒に女の子用の服と下着も買ったから。ネットで。」
用意周到すぎてもはや笑うしかない。
もし女の子にならんかったらそれらどうするつもりやったんや。服飾業界に尽力しましたってか?はえー殊勝な心がけですねぇ。
ネットの検索履歴調べとこ。
「じゃ、食べ終わったらその服に着替えるわ。変なやつやないよな?」
「普通に可愛いやつです!あぁ、でもサイズ合うかな…」
「……チビやねーし」
「なんも言っとらんやん!」
言葉にしてなくても目と言動の端々からチビって言われてんだよ。
今日の朝食は上手に出来て気分がいいはずなのにドッと疲れたものとなった。
____________
「あ、あにき…可愛いぃ…」
「ふーん、まあ、まあまあ。センスはええやん?」
「絶対アニキ似合うと思ったんよ」
朝食とその他諸々を済ませた後、購入済みの女性物の服に袖を通した。
上はサイドスリットの入ったゆったりした黒のタートルネックで、下は膝下丈のキュロットパンツ。
全体的にオーバーに見える服は、サイズもちょうど良かった。
「可愛いには可愛いんやけど、なんでサイズがぴったし合うねん。」
「たまたまやって。」
どこか怪しい、が、こいつの観察眼及び予想の勘が良かったのだろう。
ちょっと気持ち悪いけどな。
まあなってしまったもんは仕方ない。少し癪だがまろの言う通り今日くらいはこの非日常を楽しむとするか。
「よっしゃ、まろ。今日デートしよ。」
「え、え?」
「せっかく俺女の子になったんやで?いつもはあんまり外であからさまなこと出来んかったけど今日は手繋いだりとか出来るんやで!」
「い、いいの?」
「じゃあなんや?他メン呼ぶ?」
「え、ぁ、いや、」
「なんやねん煮え切らんな。デートしたいのかしたくないのか」
「したいです!!」
「どこ行く?ショッピングとか、水族館みたいなんもええな。」
デートするなら…という場所をいくつかあげてみると、まろが何か言いたそうに口を開けたり閉じたりしていることに気づいた。
「ん?どうしたん?どっか行きたいとこでもあった?」
「いや、あの、その、で、デートスポットで人気の、あの公園…とかどうかな、って」
「あぁ、あそこ。ええやん。」
そこは最早カップルのための公園と言ってもいい場所で、昼はキッチンカーの出車や何かしらの見世物があったり、夜にはイルミネーションとかもやっているとかで一時期人気になった場所だ。
あと普通に池と言うには少し小さすぎるが鯉や亀もいるという水溜のようなのを中心とし、花畑とかもあって絶景らしいのだ。
一通りのブレイクは去ったものの人の足は絶えずその公園へと向かわれており、1度は2人でデートしたいとも言っていた。
そうと決まれば行動は早い方がいい。
早速出かける準備をする。
財布とスマホ、それらを入れる小さなカバン(これまた見繕われいてた)を手に取って、はたと気づいた。
「俺、すっぴんや…」
男の状態であったらあまり気にしないが、今は女の子。
さすがにちょっとは気になる。
ライブの際はメイクさんがいるが、家に化粧品なんて置いていない。
「ど、どうしよ、まろ!!」
「アニキはすっぴんでも全然気にならないくらい可愛ええよ。」
あ、ダメだ全然役に立たへん。
「ホントだって。ほら、鏡見てみ?」
「ん〜、まぁ…うー、今日だけなら、大丈夫か?」
手鏡を覗いて確認し、どうせこんなことになるのは今日くらいやし…と思えば何とかなる気がしてきた。
「ほーら、行こぉや?」
「いや、まだや。」
「えー?ほかに何があるん?」
「髪。もっと可愛くしたい」
「今のままでも充分可愛い!ポニテが最強なの!!」
もう少しアレンジをしたい俺と、ポニーテール至上主義のまろで数秒睨み合ったあと、
「はぁ、分かったわ。でももうちょっと上手に纏めさせてや?」
「お、俺がやったろうか?」
「ふーん?じゃぁお願いするわ。」
サラ、とまろが優しい手つきで俺の髪に触れ、丁寧に梳かした後、ヘアゴムで軽く纏めた。
触覚は残しつつ、かなり上の方で縛られた髪の毛も、釣るような痛さもなく、見事なものである。
個人的には編み込みとかツインテとかもしてみたかったが、時間が無いので諦める。
「やっぱりポニテはええな。項とか、めっちゃえろい。」
「きっも。やっぱ下ろそうか。」
「ああ!やめてやめて。冗談やから!な?」
冗談に思えないのがこいつの怖いところではあるが。
まあでも文句ないくらいには可愛くできているのでチャラにしておく。
さて、これで全ての準備は整った。
改めて玄関へと向かうと、そこには既に黒の革ブーツが。
さすがにここまで用意されていると感心も呆れも通り越してただの気持ち悪さしか残らない。
「これ…」
「予め買っておいた!」
「あぁ…はい。」
うっわ。靴のサイズまで合ってやがる。どういうことやねん。
「んふふ、デート、楽しみやな。」
「……まぁ、この際楽しんだるわ。」
にっこにこの笑顔のまろを見て、どうでも良くなった。
___________
「おぉぉ…人いっぱいおるな…」
件の公園は既に人がまばらにいた。
電車とバスと徒歩でトータル30分強。
しかもほとんどがカップルという。
むしろそうでない人たちの肩身が狭そうなくらいである。
「この時期はコスモスが綺麗なんやな!」
一面に拡がった花畑は見事なもので、赤、ピンク、白、色とりどりのコスモスが咲き誇っていた。
「赤は愛情、ピンクは乙女の純潔、白は美麗、って意味らしいで。」
「……花言葉?」
「そう。ここに書いてあった。」
まろが指した説明書きにはコスモスの種、特徴、更には豆知識のようなものさえ書かれていた。
「甘ったるいな」
「そんなもんやない?」
苦笑するまろはさりげなく俺の手に触れ、そのまま恋人繋ぎへと移行した。
「っおい、」
「ええやん。普段はこんなふうに人前で手なんて繋がれへんのやから。」
そうやけど…そうなんやけど!!
急にやられるのは恥ずかしいというかなんというか。
それでも確かに手を繋ぐなんて滅多に出来ないので俺も弱々しくだが握り返した。
まろの手、ゴツゴツしてて男らしい。
カッコイイなぁ、なんて。いつもより胸の高鳴りが止まらない。
あぁ、俺が本当に女の子だったなら、毎日こうしていられたのだろうか。
「ね、アニキ、あのクレープ美味しそうやない?」
「ん?」
まろが指した先には行列の出来たクレープのキッチンカー。
いや、まあ確かに最近クレープ食べたいなぁっていろいろ見てたりしてたけど。
チラリとまろの方を見るともう既に興味はそちらへと移っているようだった。
ほんま、
「ズルいわ…」
「?アニキ、なんか言った?」
「いや、食お。クレープとか久しぶりやな。何食べよ。」
「2人でシェアとかでもええんちゃう?」
「せやな。あーんとかもしちゃう?」
今しか堂々とできないこと、と思って冗談のつもりで言ったのだが、まろはなんだか顔を赤らめてしどろもどろに返事をする。
そんな反応されたらこちらまで恥ずかしくなってしまうではないか。
別にあーんくらいは今までに何度もやっている。
少し恥ずかしいところはあるが顔を赤らめる程でもない。
しかし今はこんな姿。
女になったことで乙女補正がかかっているのかドキドキが止まらないのだ。
「な、何味にする?」
話題を逸らさんとするまろに、思わずのっかる。
「チョコバナナ系は王道やけどええと思うねん。苺とカスタードクリームもええし、でもやっぱりブリュレも気になんねん。」
「うんうん。2つアニキの好きなん選んでええよ。」
「え、でもまろ、」
「俺はアニキの食べたいヤツが食べたいよ。」
あぁ、もう、ほら。こういうところ。
こういうサラッとかっこいいところ。
「…じゃあチョコバナナとクリームブリュレにしよ。俺が、食いたい。」
「うん。行こか。」
俺が、と強調したら満足そうに頷いて手を離さないままキッチンカーの方へと歩を進めた。
「それにしても、やっぱり外やからアニキって呼ぶのは不自然やな。なんか名前考える?」
「あぁ、忘れとったわ。俺っていう一人称も変えんとあかんかな。」
「流石にね。何やこいつらって思われてまう。」
「何がええかな。一人称は私でいいとして、名前かぁ…」
「無難に悠、とでも呼ぶ?」
「慣れへんなぁ。」
まろに悠、と呼ばれるだけで、俺以外のことを呼んでいるみたいでなんだか落ち着かない。
「お…私も彼女らしくいふくん、って呼んでみよか?」
別にまろ、って呼んでもいいのだがいつもと違うなら、呼び方だっていつもと違ってみてもいいと思うのだが。
「いや、まろでええよ。てかまろにしてや。俺が耐えられん。」
結構本気で恥ずかしがっていたので勘弁してやった。
なんてしているうちに、行列の前の方へと進んでいた。
近くなったことでキッチン内が見やすくなった。
よく慣れた手つきで生地を焼いては作り、巻き、また焼いて。
甘く香ばしい香りがその場にいる人の顔を自然と綻ばせる。
「んふふ、いい匂いやね。楽しみやなぁ。」
「まろはクレープ好き?」
「まぁ人並みには。あに…悠は生クリームやなかったら甘いもんは結構好きやもんね。」
「太ってまうけど甘いんは正義やねん。」
プリンにチーズケーキ、モンブラン、アイスや饅頭だって好きだし生クリームさえ使われていなければ甘いものは好きだ。
もちろん、太るから食べ過ぎには注意やけどな。
前の方へ行けば回転率が高く感じる。
いつの間にか列の先頭になり、注文まで済ませた俺たちは、頼んだ2つのクレープが出来上がっていくのを見ていた。
ちなみに会計は俺が財布を取りだした瞬間に終わっていた。
解せぬと軽く睨めば上目遣い可愛ええな、なんてあしらわれる始末。
なんか悔しい。男として負けた気分。今女の子やけど。
その際クレープ屋のおっちゃんにかっこいい彼氏さんだねぇと苦笑まじりに暖かい言葉を頂き、まろが得意げにドヤ顔をしてきたので肘で小突いてやった。
チョコクリームをたっぷりと塗って、その上に輪切りにされたバナナを手際よく置いてくるりと巻いてチョコバナナクレープが出来た。
次いで、カスタードを塗りたくり巻かれたクレープの上にさらにカスタードを乗せ砂糖をまぶし炙ればクリームブリュレの方も出来た。
渡されたクレープを慎重に持ちながら運良く空いていたベンチに腰掛けた。
「いい匂いやなぁ…これはクレープの気分やなくてもつられそう」
「悠、」
「ん?」
漂う香りに思わず顔を綻ばせているとまろがどこか恥ずかしそうな、それでいていたずらっ子のような表情で俺を呼び、
「かわええな」
それだけ言って手に持っているチョコバナナクレープに集中し始めた。
照れさせるだけ照れさせて後は放置プレイやっとんちゃうぞ。
ちゃんと最後まで責任持てや。
どこかで感じる敗北感と気恥しさをブリュレのカラメル部分と一緒に割って飲み込んだ。
悔しい。いつもは俺がまろの反応で楽しんでるはずやのに、今日は立場が逆になっている気がする。
ブリュレの一番の醍醐味と言ってもいい部分、カラメルのとこ全部食ってやろうかな。
そう思ったけどやっぱりやめた。
代わりと言ってはなんだが、まろがとても恥ずかしがっていたのであーんしてやろうと思う。
いいこと思いついた、さすが俺。
「まろ、こっち見て?」
「ん〜?なぁに?」
機嫌高めに無防備にこっちを向けたその顔は幸せいっぱい間抜け面だった。
やっぱり俺が女の子だったら良かったのかな、なんて少しだけモヤモヤしたけどそんな感情は心の隅に追いやって無垢な笑顔(計算済み)でクレープを差し出した。
「……え?」
「はい、あーん」
何が起こっているか分からないというようにフリーズしてしまったまろにもういっちょと上目遣いであざとく首を傾げると、ぐっ、と顔をひきつらせたあと観念したのか俺の手と重ね合わせ自分の方へと引き寄せると1口分だけ、かじりついた。
「ん、美味しい。」
「そうやんな!…あ」
「あに…悠?」
まろの口元にクリームが少し付いていることに気づいた。
教えてあげるべきか。
いや、ここは、
そっと手を伸ばしてクリームを拭い、そのまま指を舐めた。
「んふ、付いとったよ。」
まろはどういうことか気づいた瞬間、かぁっと耳まで赤くなった。
「まろ顔真っ赤!リンゴみたいでかわええな」
「なん、あぁ、もう、アニキほんとにっ…!」
「ちょっと〜?私は今アニキやなくて?」
「っっ〜〜…ゆ、う…」
「よろしい。」
顔を真っ赤にさせながらジト目でこちらを見てくるまろはなんだか新鮮で意地悪のしがいがあった。
ま、でもこの辺でやめといてやろう。
後で何されるかわからんし。
「まろのもあーんさせてくれへん?」
「…はい」
「いただきます。…ん〜!チョコバナナうま〜!」
口の中でとろけたチョコとバナナの甘みが絶妙だ。
チョコも甘すぎるだけじゃなくて味を邪魔しない程度のカカオの苦味もあって飽きない味だ。
はぁ、幸せ。こんなふうにずっとこの幸せが続けばええのにな。
「な、悠、楽しいなぁ」
「…ん、」
全く、外であるというのにまるで2人だけのように振る舞いやがって。
こんなにも純粋な愛を向けてくれて、今だけはその愛を独り占めできて、まろはよくあにきっずに向けてマウント取りをしているが、今は俺がいふ民にマウントを取ってやりたい。
俺はこんなにもまろの愛されてるんやでってな。
____________
「じゃあ、ゴミちょっと捨ててくるな。あとついでに飲みもんも買ってくるわ。」
「ぁ、すまん。よろしく。」
「なんか飲みたいもんとかある?」
「んー、別にお茶でええけど。」
「分かった。ちょっと待っとってな。」
クレープはペロリと食べ終え、出たゴミを捨てようとまろが立ち上がった。
俺も行こうとしたのに無言の圧で止められた。
ここまでスパダリだとちょっとこそばゆいくらいなのだが。
笑顔で送り出したあと、憎たらしいほど晴れ渡っている空に目をやる。
まろは、今日1日ずっと優しい目をしていた。
俺が女の子になったからだろうか。いつもより優しい手つきで、触れる時も壊れ物に触れるかのようだった。
やっぱり、まろは男の俺なんかより、女の子と付き合いたかったのではないだろうか。まろの言う愛情というのは恋慕からくる愛ではなく、ただの憧れからくる友愛ではないか。
愛していたのは、俺だけなんじゃないのか。
まろは優しいから。
嫌な考えだ。でも頭を離れない。廻って回ってまわる思考回路。
ああ、泣きそうだ。
「おねーさん、今暇〜?」
今は1人にして欲しいのに、気づいたら目の前に柄の悪そうな男が数人。
男だけでこのデートスポットいるなんて珍しいというか、勇気があるというか。
そんな逃避思考もしていられる時間はそうなくて。
「無視決め込むとか強がり?ああ、なんかしょげた顔してたしもしかして彼氏に振られちゃった?まだ未成年でしょ?大丈夫大丈夫俺たち優しいからさ。」
何も言わなかったらここぞとばかりに勝手に判断して何やら決めつけてきた。
誰が彼氏に振られたって?
誰が未成年やって?
誰がお前らなんかについて行くんやって?
「悪いけど、振られたわけやなくて彼氏待ち。あと成人済みやから。」
うん、大人の対応できた。偉い。プッチンしなかった俺偉い。
「まあまあ、ちょっとくらいいいじゃん。」
「っ!は、なせ!」
「うわ、胸でっか。ちょっと触るくらいいよね?」
「ひぁっ!?」
あとはとりつく島もないとばかりに会話をぶった切ろうとしたのに諦めの悪い男たちは俺の腕を掴んで無理やり立たせた。
その上無遠慮に胸を触ってくる男どもに嫌悪感が増す。
気持ち悪い。
公衆の面前でよくこんなことできるな。
周り結構こっちみてんの気づかねぇのこいつら…
てか、力つよ、いてぇ、アザ残るかも…
そもそも俺別に男の慰め者になれるほど惹かれるルックスしてねぇだろ。
「抵抗すんなよ。いいから来いって!」
「やめっ、」
「なぁ、何しとんの?」
「あ?」
「俺の、彼女に、悠に、何しとんのって聞いとるんやけど」
「ッッ…」
「ま、まろ…」
必死に抵抗していると聞き覚えのある声が上からした。
男たちも気づいて強めに出たがまろの雰囲気に声が出なくなったようだ。
まろは固まった男たちを退かしながら俺の腕を優しく手に取った。
「怪我、しとるやん。胸触られとったし。ごめんな、もっと早く来れたら良かった。」
「あ、いや、大丈夫やけど…。まろ、怒っとる?」
恐る恐る、聞いてみるとまろはにっこり笑った。
あ、これ、目笑っとらんやん…
「うん、怒っとる、怒っとるよ。ちゃんとあに…悠のこと見とらんかった俺にも、人の彼女が嫌がっとるのにも関わらず無理やり連れ出そうとして挙句セクハラしたり怪我させたアイツらにも。」
「ひっ!す、すみま、」
「ん?声が小さくてよう聞こえんな?」
「「す、すみませんでした──!!」」
「…手を出す相手は、選ぼうな?」
怖気付いた男たちはそそくさと逃げていき、なんとか事は収まった。
「あ、あに、あにきぃ…だ、大丈夫?いや、大丈夫やないよね!?あぁ、俺がもっと早く戻っとれば、いや、やっぱりアニキも一緒に着いてくるの拒まんければ…!」
「まろー?落ち着けー?」
さっきまで怖い顔で男たちを睨みつけていたのに俺の方へ体を戻すと情けないまろになっていた。
俺の事アニキって言ってるし。
これはちょっと落ち着かせなあかんな。
「俺は大丈夫やから。人おらんとこ行こ。」
「う、うん。」
____________
「さて、少しは落ち着いた?」
「う、まあ…。怒りは治らへんけど。」
「そんな気にせんでええて。」
「いや、でもアイツらアニキの胸触って腕に痕つけて…」
確かに気持ち悪かったし、実際まだちょっとだけ腕は痛むし、なんで俺が女の子になったタイミングで絡まれんねんとは思ってるけど。
「まろ来てくれて、嬉しかったで。」
「…当たり前やん。俺彼氏なんやし。」
「あ、あと、まろ、カッコよかったで。」
「アニキ、は、かわええけど、やっぱいつものが、いい。」
ま、さか、まろが俺の悩みをこのタイミングで払拭するとは思わなかった。
「そ、か。うん、そうやんな。これやと俺も調子狂うしな。」
「う、ごめ、こんな、遊びで危ない目合わせてまって。」
「ええよ。なんだかんだ楽しかったし新鮮やったしな。ま、二度目はやらんけど。」
これは本音。まろの本音も聞けたし、女の子の1日も悪くなかった。
あとは他メンバーに文句を言えばそれで十分。
「帰ろ、まろ。」
「うん。」
____________
「では弁明をどうぞ?リーダー?」
「…返す言葉もございません。」
「お前シラフやったんやから止めろよ!」
「だって面白そうだったんだもん!!本当になるとは思わなかったんだもん!!」
「なんっでお前が一番ノリノリになっとんねん!」
「ね、ね、アニキ可愛いね、初兎ちゃん。」
「せやな、いむくん。おっぱいもデカなっとるし。」
「しょにだ見てるところ気持ち悪いんだけど。いつもに増して小さいアニキかわいい。」
「おいそこ何話しとんねん!真面目に反省せぇや!!」
家に帰った俺が真っ先にしたことは他メンバーを呼びつけること。
そしてすっ飛んできたこいつらに思う存分構われたところで今は正座をさせて反省させている。
ちなみにまろは先程のことで十分に反省していたと見たので何もさせてない。
正座四兄弟にケラケラと笑っている。
「そういやアニキ、もうひとつの服は着てないの?」
「?もうひとつの服?」
「あれ、いふまろもしかして出さなかったの?」
「うるせーよ!お前らおるところであんな服アニキに着せられるか!」
「ははーん?いふまろはアニキのこと本当に大好きで大事なんだねぇ。」
「くっそムカつく…」
「まろ?どういうこと?」
「こいつら帰ったあとに説明する…」
なんだかとても申し訳なさそうにしていたのでそれ以上追求するのはやめた。
「ふむ、じゃ、お前ら帰ってええよ」
「「「「え!?」」」」
「え、え、なんで!?りうらたちまだ来たばっかだよ!!」
「正座だけさせて返すの酷だと思わないの!?」
「はんたーい!もっとアニキに構いたい〜!!」
「悠くん悠くん、どうかその寛大な御心で我らが過ちを許してはくださいませんか?」
「喧しいわ!事ここに至っては俺の命令を優先させろや!」
「はーあ、ロリが怒っても怖くないで。」
「あ?」
「すんませんでした。」
ギャーギャーと異議申し立てをするこいつらを一喝し、ついでにロリとか言ってきた初兎には睨みをきかせ、集まってわずか数十分で解散となった。
まあ理由としてはまろの隠した事が気になるからなんだけど。
文句は言いつつ自分たちに非があると認めているのか大人しく従い帰る準備をするないこ達。
「じゃ、お邪魔しました〜。アニキごめんね。」
「悪かったとは思ってる。」
「まぁ、2度目は無いと思えよ。」
「それ喧嘩した後の台詞やん。」
「ごめんね〜。」
各々別れの挨拶をして、少し静かになった家の中。
くるりとまろの方を向くと既に怒られる準備は万端とばかりに小さくなっている。
「まろ」
「すみませんでした。」
「まだ何も言ってないんやけど。」
「いや、多分この後めちゃくちゃ怒られるやろうから先に謝っとことうと思って。」
「なんでそうなるであろうことが分かっているのに敢えてその道をゆこうとするのか…」
「やっぱり欲には勝てないと言いますか…」
「で?どんな服なん?」
そう問えば少し躊躇ったあと
「これです」
そっと出されたその服は、畳まれただけなら普通のニットとそう変わらない。
だが全体をぴらりと開いてみれば、あらまあなんということでしょう。
「これ、こんな胸元空いた服俺に着せようと思っとったん?」
「やからすみませんって。」
「行動を先回りすな。」
「ええよ。元々着てもらうつもりはなかったし。記念として保管しとくか、メ〇カリとかで売るから。」
その声音からは本当に着なくていいという思いが伝わってきた。
「……貸せ。」
「え、アニキ?」
「ちょっとだけ部屋から出てろ。」
「え、」
「いいから早く!」
「はい!」
だが俺はまろからその服をぶんどって部屋から追い出した。
まあ、着てやろうと思ったのだ。
せっかくあるのもそうだし、何より俺の気分だ。
確かにちょっと恥ずかしいけど、こんなこと二度とないだろうし。
「ん、何や、ご丁寧にパンツまで用意されとんの。」
いいだろう。今日くらいは玩具になってやる。
俺は今来ている服を脱いで、着替えを急いだ。
「入ってええよ。」
「し、失礼します、?」
「ん、どうかな?」
「う、わぁ、あにきえろい…」
「まろ変態。」
「いや、だって、ねぇ?」
「んふふ、今日だけの特別やで?堪能しろよ?」
軽くウインクをしてみれば、真っ赤に熟れた顔を横に逸らして絞り出すような声を出すまろ。
「……あにき、絶対その格好で外歩かんでや。」
「いやいや、多分これ着るの二度とないで?そんな事言われるまでもないっつーか…」
「それでも!!」
「はいはい。」
ギュッと珍しく優しいハグをされたので、俺も顔を埋めて手を回す。
「今日、楽しかったで。まろは?」
「…とても、楽しかったです…。」
今日まろから聞きたい言葉を聞き出せたので、俺はまろにバレないように静かに顔を綻ばせた。
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桃「ねぇ、こっちの小瓶のやつ、いつ使う?」
水「多分今回のより怒られるよねぇ。」
赤「でも買っちゃったものは消費しないとだし…」
白「悠くんならワンチャン許してくれるで。」
桃「てかあまりにもこの非日常に順応しすぎてて怖かったんだけど〜」
赤「それな?アニキのあの頼めば押しに弱い性格何とかしないとりうらたちいない時とか壷買わされてそう。」
水「流石にそんな事ないでしょ…と言いたいとこだけどアニキだしなぁ…」
桃「まさか酔っていたとは言え躊躇いなく飲むとは思わないじゃん…俺たちだってこれの効能とか半信半疑だったのに。」
水「でも流石に次のこれはある程度混乱してくれるでしょ。『ロリ・ロリ・大パニック!』とかいう子供になれる薬なんて…」
白「いやいや、別にこれ悠くんの混乱したとこ見るためやないんよ。そう、これはまろちゃんのため…」
赤「とか言ってただ楽しんでるだけだけどね。にしてもほんと、飲むの躊躇うくらいには青いね。」
桃「ほとけっちの色みたい。まあ飲みたくはないけど。」
水「なんか僕をディスってない?矛先僕に向いてない?」
赤「キノセイデショー」
水「わぁ、棒読み」
白「悠くん、今でもある意味子供やし子供姿になってもあんま変わらんやろ。」
桃「ま、それは次のお楽しみだね。あー、でも当分は一緒に飲むことできないかも。」
白「1ヶ月くらいはお預けやろうな。当たり前っちゃ当たり前やけど。」
赤「あ、りうらこっちだから、またね。」
桃「あ、そか。じゃあ、解散!またね〜」
「「「またね〜」」」
コメント
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ロリ・ロリ大パニック((((名前違うかも 楽しみすぎる...、そしてそして、にょたな黒くんを描きてぇ、((((ちょっくら描いて来ます✋