テラーノベル
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だが、恋だと気付いてしまったからこそ、リリアンナは怖くなった。
今まではランディリックへの気持ちを、庇護者だからとか、恩人だからとか、家族のようなものだからと言い訳して誤魔化せていた。
けれど今は違う。
自分はランディリックへ恋をしているし、ランディリックから向けられる気持ちも異性へのそれだった。
そういう諸々を自認してしまった結果、目を逸らせなくなった問題が浮上する。
(ウールウォード伯爵家は……どうなってしまうの?)
亡き父の顔が脳裏を過る。
母の笑顔も。
王都の屋敷も、そこで働いてくれている皆の顔も。
自分は今もなお、ウールウォード伯爵家の当主なのだ。
ランディリックの隣にいたい。
そう願うことと、伯爵家の責任を果たすことは、同時には叶えられない。
それが分かるから、胸の奥がずしりと重くなった。
(ランディ)
先ほど執事のセドリックがやって来て、ランディリックが明朝ヴァルム要塞から早馬で戻ってくると連絡を受けたばかりだ。
なんでも身分の高い方の来訪予定があるらしく、その対応のためだという。
ランディリックに会えるという喜びとともに、彼がウールウォード伯爵家のことをどう思っているのか問うてみたいという思いが交錯して、リリアンナはソワソワと落ち着かなかった。
「お嬢様、何かご心配ごとでも?」
いつもそばにいてくれるナディエルに眉根を寄せられて、「ランディにお話ししたいことがあるの」と言葉を濁したけれど、ナディエルは心配そうな表情を崩さなかった。
それがまた申し訳なくて――。
(どうしたらいいの?)
一人で抱え込むには限界があった。
(明日、ランディが戻ってきたらちゃんとお話しよう)
リリアンナはそう決意した。
***
翌朝。
まだ朝靄の残る時間帯に、ヴァン・エルダール城の前庭が少しだけ騒がしくなった。
「旦那様がお戻りになられました」
セドリックの言葉を聞いた瞬間、リリアンナは思わず顔を上げる。
窓の外へ目を向ければ、騎獣から下りたランディリックの姿が見えた。
ヴァルム要塞から戻ったばかりだというのに、その足取りに疲労の色は見えない。
けれど、リリアンナはすぐに違和感へ気付いた。
ランディリックの傍らには、見慣れない革筒がいくつも抱えられていたのだ。
それらを受け取っているのはセドリック。
さらに、その後ろには城勤めの者たちが慌ただしく行き交っている。
(何かあったのかしら……)
そういえば、セドリックが、ランディリックは高貴な客人を迎える準備のために急遽ヴァン・エルダール城へ戻ってくることになったと聞かされていた。
その絡みもしれない。
そう思ったと同時、空から大きな羽音が響いた。
見上げれば、一羽の白銀の鳥が城の塔へ舞い降りるところだった。
翼を広げれば一〇〇センチほどにもなる大型の猛禽。
北方にのみ生息する伝書獣――雪鷹だ。
「また……?」
思わず呟いたリリアンナへ、ナディエルが小さく頷く。
「ここ数日、頻繁に飛来しておりますね」
「うん……」
セドリックが言うには、これも来客に関係するやり取りらしい。
普段ならヴァルム要塞との連絡は馬便で十分なはずだ。
それなのに、こうして何度も雪鷹が飛来している。
よほど重要な話なのだろう。
だが、それ以上のことは教えてもらえなかった。
おそらくは、ランディリックから箝口令が敷かれているんだろう。
リリアンナは小さく首を傾げる。
けれどその疑問も、すぐに別の感情へ押し流された。
ランディリックが帰ってきた。
それだけで胸の奥が少し軽くなる。
そして同時に思い出す。
(今日こそ聞かなくちゃ)
ウールウォード伯爵家のこと。
自分のこと。
これからのこと。
昨夜決めたはずなのに、いざ本人を前にすると鼓動ばかりが落ち着かない。
でも聞かなければならない。
そう思っていたのに――。
「ランディ……」
昼食の席で切り出そうとした瞬間、セドリックが現れた。
「旦那様、例の件で使者が来ております」
「分かった」
ランディリックは短く返事をする。
「すまない、リリー。夜に話そう」
そう言って足早に席を立ってしまう。
「……あ」
呼び止める間もなかった。
結局その日、ランディリックは夜遅くまでセドリックたちと動き回っていて、夕食を共にすることすら叶わなかった。
明日でいい。
そう自分へ言い聞かせる。
だけど胸の奥には、小さな不安が居座ったままだった。
コメント
2件
そうか。リリアンナちゃんは伯爵家の跡取りだもんね。 どうするんだろう。
うわ、この回めっちゃもどかしい……! リリアンナが恋だと認めたからこそ、伯爵家の責任とランディの隣にいたい気持ちの板挟みになってて、胸がぎゅっとなるわ。せっかく話す決心したのに、ランディが忙しくてすれ違い続けるの、じれったいけど現実感あるな。雪鷹とか来客の伏線も気になるし、次どうなるんだろう🔥
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