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ごきげんよう、勇者っぽい力が使えるシャーリィ=アーキハクトです。えっ?正義に目覚めた?
まさか、使えるものは使います。それが便利であるならば尚更です。当たり前ですよね。
もちろん世界のために戦うなんて事もしません。私が力を振るうのは、いつだって大切なものを守るためなんですから。
さて、前置きが長くなりました。今私はマーサさんの前に立ち、視界一杯に群がる敵を観察しています。塔の中だけでも五十人くらい居そう。
「おい!ガキが居るぞ!」
「なんだあの光る剣は!?魔法か!?」
敵は明らかに動揺していますね。無理もありません。今まさにマーサさんを捕らえようとしていた所に援軍が割り込んできたんですから。
……じっとしてくれているのはありがたいです。
ゆっくりと塔内部を走る螺旋階段に水が浸透していきます。もちろんこれも魔法ですが、今の私では濁流を放ったりたくさんの水を撃ち込むなんて芸当はできません。
こっそりと床を水浸しにするくらいしか出来ないんです。まあ、それが出来れば問題ないのですが。
「シャーリィ、貴女なにをするつもり?いくら貴女でもこの数は」
マーサさんが心配してくれます。
「ご安心を、妹から飛び切りの使い方を学んでいるので」
水は電気を通す。これをレイミから聞いたときは、衝撃を受けました。
『ライデン社』によって少しずつ電気が普及していますが、それらの基礎研究や電気の特性など帝国の誰も知らなかったんです。なんでレイミが知ってるのか気になりますが、まあそれはあの娘がいつか話してくれるでしょう。
重要なのは、その特性を応用すれば広範囲に対する攻撃手段となる。その事実だけですから。
「皆さんに問います。今すぐマーサさん達に謝罪して心を改めて全うに生きていくと誓うのならば、見逃してあげます。誰にでもやり直しが出来る権利がありますから」
答えは分かりきっていますがね。
「あぁ!?ふざけんな!」
「ちょっと強い武器を持ってるからって、調子に乗らない方がいいぜ?お嬢ちゃんよぉ!」
私は小柄ですし鍛えているようには見えないので、見た目で侮られるのはいつものことです。相手が勝手に油断してくれるので助かりますが、交渉の際は苦労するんですよね。
ともあれ、ここで謝罪されても困るので助かりました。
「分かりました。最初で最後の慈悲だったんですが、それをはね除けたのは皆さんです。つまり、結果も自己責任でお願いします」
私はゆっくりと魔法剣の柄を床に向けます。
「シャーリィ、貴女まさか!」
「ビリビリしますよ?……スパーク」
バチバチッッッ!!!
柄から放たれた電流が濡れた階段を伝播して敵に襲いかかります。
「ぎゃあああああ!!??」
おー、螺旋階段に居た全員が一斉に感電する様は中々見応えがありますね。
何故かは分かりませんが、稲妻系列の魔法は簡単に覚えられるんですよね。マスター曰く勇者の特性なんだとか。便利なので助かりますが。
しばらくすると、塔の中は焼け焦げた臭いが充満することになりました。これは酷い。
「貴女、どこで魔法を覚えたの?」
「色々ありまして。ただ、マーサさん達とは違って魔石が無ければ魔法は使えません。不便ですよ?」
「だからって、水と雷を同時に操るなんて聞いたことが……いや、あるわね。貴女まさか勇者?」
「シャーリィです。さっ、これを傷口に塗ってください。止血できますから」
私はロメオ君が作った薬草の塗り薬を取り出して……うん、塗ってあげた方が良さそう。
「ちょっと痛みますよ?」
「お願い」
私はそっと傷薬をマーサさんの肩に塗ります。幸い銃弾は貫通していたので、これで大丈夫なはず。
「あんまり痛くないわね。薬草の扱いを良く知ってる人を仲間にしたの?」
「エレノアさんの弟さんです。私より年下なのに、凄いですよね」
「そうね……薬草の効果に目を付けるなんて見所がある人間じゃない」
「本人はまだ見習いなのにって文句ばかりですが」
他に適した人が居ないんです、諦めて欲しいですね。
「ん……ありがとう、大分楽になったわ」
「良かった。これをユグルドさんにも塗ってあげてください。手は動きますか?」
「ちょっとキツいけど、持つくらいなら何とかなるわ。任せておきなさい」
私は塗り薬をマーサさんに手渡すと立ち上がって周りを見ます。
「では、ユグルドさんと待っていてください。直ぐに終わらせますから」
「会う度に規格外になっていく貴女が怖いわ」
マーサさんは苦笑い。
「護るために頑張っていたらこうなりました。今後もご期待ください」
うん、螺旋階段に居た五十人くらいの敵は全員焼け焦げた臭いがしますね。レイミ曰く感電死。雷が直撃したのと同じようなものと。なるほどなるほど。
「外も騒がしいわね」
外からは銃声が絶え間無く聞こえてきます。
「小銃隊を五十人率いてきました。ベルが指揮を執っているので、ゴロツキに何か負けませんよ」
「あらそうだったの?敵に同情しちゃうわ」
「マーサさん達を傷付けた時点で逃がすつもりはありませんが。それでは、いってきます」
「気をつけてね。貴女に怪我をさせたらカテリナに何を言われるか分からないわ」
「大丈夫、直ぐに終わらせてきますよ。その心配は無用です」
苦笑いをするマーサさんに笑顔で答えて、私は塔を出ました。
「どらぁあっ!!!」
「ぎゃあああああ!?」
外に出ると、敵は大混乱していました。
フリントロック銃や弓の射程外から一方的に銃撃され、近付いても馬に乗ったベルが大剣を軽々と振り回して……わっ、凄い。纏めて四人を真っ二つにしましたよ。ワンダホー。
「どうなってんだよ!?楽な仕事じゃなかったのかよぉ!?」
「こんな話聞いてねぇぞ!?」
「このままじゃ皆殺しだ!逃げるぞ!」
「逃がすつもりはありませんよ?」
そんな恐慌状態の彼等に後ろから声をかけます。
「はっ!?」
「塔から出てきたのか!?中の奴等は……!」
「極大」
私が呟くと柄から大きな光の刃が出現します。原理は簡単です。要は魔力をたくさん注ぎ込むだけ。
それで刃をおっきくするだけです。五メートルくらいかな?
サリアさん曰く、勇者は天まで届くほどの刃を出現させて魔王の軍勢を纏めて薙ぎ払ったとか。うん、今の私には無理ですね。
「なんだこりゃあっ!?」
皆ビックリしてますね。
「えいやっ」
当然魔法の刃なので重さはありません。これをこう……片足をあげてフルスイング。ライデン会長曰く一本足打法?とやらです。
振り抜くと私の目の前に居た十人くらいが、切られた場所から光の粒になって消えていきます。
「!?」
「ばっ、化け物ぉ!!」
「失礼な、人間ですよ」
こんな可憐な……ごめんなさい見栄張りました。チンチクリンでも私は女の子。化け物は頂けない。
「お嬢!!」
遠目に私を見つけたベルが大声で私を呼びます。あちらも順調みたいですね。
「ひぃいいっ!?俺たちが悪かった!助けてくれぇ!」
一部が降伏を申し出てきましたが、それを聞くつもりはありません。
「お断りします。あなた方は私の大切なものに手を出したのです。やられたら殲滅、当たり前ですよね?」
後に『旧市街の虐殺』と呼ばれる戦いが終局を向かえようとしていた。