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最終話:狼と白熊
涼架side
夏休み明けの喧騒が落ち着き、学校はいつもの日常を取り戻していた。
今日は美術部の夏休みの課題の作品が、美術室前の廊下に張り出される日だ。
私の渾身のあの『たこ焼き若井くん』が、ついに公の場に出る。
私は、緊張と期待で胸がいっぱいだった。自分の作品がどんな風に見えるのか、若井くんがどんな反応をするのか、想像がつかなかった。
放課後、美術室で静かに片付けをしていると廊下がざわついるのに気づいた。
ドアを少しだけ開けて覗いてみると、そこに立っていたのは、若井くん、元貴くん、そして綾華の三人だった。
「涼架、いたじゃん!ほら、若井くんが、涼架の作品見に来たよ!」
綾華が私を見つけると、満面の笑みでそう言った。若井くんは、少しだけ戸惑ったような表情で、元貴くんに背中を押されるようにして、作品が並ぶ壁の方へ向かう。
「…あの、見に来てくれて、ありがとう」
私が小さく声をかけると、若井くんは軽く頷いた。その目線は、すでに壁に張り出された絵の方に向かっている。
「涼架、どこにあるの?涼架の作品!」
綾華がそう言いながら、展示された絵を一つずつ見ていく。元貴くんもそれに続いて、楽しそうに作品を眺めていた。
そして、元貴くんが「お、これだ!」と声を上げた。
「これ!これじゃないか!?涼架ちゃんの作品!若井、横見てみろ!」
元貴くんが指差す先には、私が描いた絵が飾られていた。あの夏祭りの夜、元貴くんにたこ焼きを「あーん」され、頬を膨らせて食べる、無防備で愛おしい若井くんの姿が鮮やかに描かれている。
「うわ、めっちゃいいじゃん、この絵!若井くん、すごい幸せそうな顔してるよ!ねぇ、元貴くん、これ、あの時のだよね?」
綾華が楽しそうに元貴くんに話しかける。元貴くんは、手を叩いて笑っていた。
「間違いない!これ、俺がたこ焼き食わせてやった時の顔だ!若井、マジで最高じゃん、この絵!そっくりだよ!」
「……」
「あの…その…」
私が言葉を探していると、若井くんが、その絵の前で立ち止まり、じっと見つめている。
その表情は、恥ずかしさよりも、どこか真剣なものに変わっていた。
その時、元貴くんが、作品が展示されている一番上を指差した。
「おい、若井!これ見ろよ!全体のテーマだってさ!」
元貴くんに言われ、若井くんは渋々、一番上に目を向けた。
そこには、大きく、手書きの文字でこう書かれていた。
「夏に見つけた、すきなもの」
その文字を見つけた瞬間、若井くんの顔が、みるみるうちに赤くなる。耳まで真っ赤になっていて、動揺は隠しようがなかった。
「…あ、あれ?」
若井くんが、慌てたように自分の耳を触る。
「若井くん、耳、真っ赤だよ?どうしたの?涼架の好きなもの知れて照れちゃった?」
綾華がからかうように言う。若井くんは、顔を覆い隠すようにして、元貴くんの方を向いた。
「…おい、元貴…聞いてないぞ、これ…!テーマがこれって…」
若井くんが小声で言うと、元貴くんはクスクス笑った。
「知るかよ!でも、涼架ちゃんの言ってたこと本当だったんだな。『お楽しみ』ってこういうことか!」
若井くんは、赤面したまま、もう一度私の描いた絵と、テーマを見比べた。
その視線が一瞬だけ私と交差した。彼の瞳には恥ずかしさと、そして私の気持ちを理解したことによる、温かい光が宿っていた。
「涼架…」
若井くんがポツリと私の名前を呼ぶ。
「…これ、俺の好きなものだよ」
若井くんは、顔を真っ赤にしたまま、そう言って私の絵の下に書いてある藤澤涼架の名前を指差した。
彼の言葉は、私の心を屋上の風のように優しく撫でて行った。
私は、嬉しさと安堵で胸がいっぱいになった。私の夏休みの「告白」は、遅れて、彼の元に届いたのだ。
次回予告
[エピローグ:二人の境界線、重なる音]
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明けましておめでとうございます🌅🎍
フェーズ3が始まりましたね♪
コメント
5件
ギャッ……青春すぎる💕💘
きゃあああっなんかもうっ、青春ッ😭💞若井くんも涼架ちゃんもカッコイイ❤️🔥あけましておめでとうございます!続きが楽しみですぅ
きゃぁぁぁぁ!!若井くんかっこよすぎるでしょ!!!!