テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
エピローグ:二人の境界線、重なる音
涼架side
美術室前の展示が終わってから数日経った。
少しだけ涼しくなった秋の風が、私のスケッチブックのページをパラパラと捲る。
「…なぁ、涼架」
ギターの弦を張り替えていた若井くんが、ポツリと口を開いた。
「ん、どうしたの?」
「あの絵、結局返却されたんだろ?…どうしたんだよ、あれ」
若井くんは、一度もこちらを見ずに作業を続けているけど、耳の先がほんのり赤い。
「ふふ、自分の部屋の、一番目立つところに飾ってありますよ。毎日見てます」
「…まじかよ。勘弁してくれよ、あんな顔。元貴にも散々いじられたんだからな」
若井くんは大きなため息をついて、ようやくギターを膝に置いた。
「でも、あの絵のおかげで、若井くんの新しい一面を描けた気がします。強気な狼だけじゃなくい、誰よりも優しくて、ちょっとだけ甘えん坊な若井くんを」
私がそう言うと、若井くんは「甘えん坊って言うな」と小さく反論しながらも、ふっと表情を和らげた。
「…まあ、涼架があの絵を『好きなもの』として描いてくれたのは、その、……嬉しかったけどさ」
その言葉を聞いて、私の胸の奥がキュンと音を立てる。
私はスケッチブックを閉じ、彼の方を真っ直ぐに見つめた。
「若井くん。あのテーマ、本当はもう一つの意味があったんです」
「もう一つの意味?」
「『夏に見つけた、好きなもの』それはあの瞬間の若井くんだけじゃなくて、若井くんが弾くギターの音も、不器用な優しさも、…全部含めて、私の大好きなものになったってことです」
屋上に沈黙が流れる。風の音だけが私たちの間を通り抜けていく。
若井くんは一瞬目を見開いたけれど、やがて視線を落とし、ギターの弦を一つ、優しく弾いた。
「……お前、たまに狼より攻撃的なこと言うよな」
「えっ、そうですか?」
「自覚ねーのかよ」
若井くんは苦笑いしながら、ギターを抱え直した。
「なあ、一曲聴いていくか?夏祭りの後、新しく作ったんだ。まだ歌詞もついてねーけど」
「聴きたいです!ぜひ!」
私が身を乗り出すと、若井くんは少し照れくさそうにポジションを確認し、静かに音を奏で始めた。
それは、以前のような「誰にも届かなくていい」という独り言のような音ではなかった。
温かくて、どこか切なくて、でもしっかり前を向いているような、光に満ちたメロディー。
(ああ、やっぱりこの人が好きだ)
私は再びスケッチブックを広げ、鉛筆を動かし始めた。今度は、ギターを弾く彼の、穏やかで決意に満ちた横顔。
「若井くん」
曲の合間に、私は呼びかけた。
「ん?」
「これからも、ここで若井くんのこと、描き続けてもいい?」
若井くんは、演奏を止めずに、私の方を向いて小さく、でもはっきりと微笑んだ。
「当たり前だろ。俺だって、お前が隣にいないと、たぶん、いい曲書かなーし」
その言葉は、どんな愛の言葉よりも深く私の心に染み渡った。
狼と白熊。音楽と絵。
違う世界にいたはずの二人の境界線は、あの夏を経て、今、一本の鮮やかな線となって重なった。
秋の空に、私たちの新しい音が、そして色がゆっくりと溶けていく。
ここまで読んでいただきありがとうございました😭
次回予告
サイドストーリー:お節介なキューピッドたち
next→❤︎500
コメント
3件
いやもうほんとに!!!こっちまで微笑ましいというか、ニヤニヤしちゃう!!
ぴぇぇ大好きです😭甘い恋最高👍😖💞サイドストーリーも楽しみ🥰
はい、好き(๑♡∀♡๑)