カニバリズム的な表現があるので苦手なら辞めてくださいね
私の相棒、中原中也は一般人だったら犯罪者予備軍と呼ばれているそしてフォークという人種だ。犯罪者予備軍と理由は彼はとあるモノにしか味を感じないから。
この世界には時々、フォークとケーキと云う人種が生まれる。
なぜ生まれたかはいろんな学者が調べているがほぼ何も判っていない。
判っているのはフォークは後天的に突然味覚を失い、ケーキという人種の体液や血液などにしか味を感じなくなることだ。
そしてその味はフォークの人達にとってケーキこの世で何よりも美味しい味だという。
だから時折フォークがケーキを捕食する事件が起きる。だがそんな事を防ぐ方法も判っていない。
フォークは基本的に味覚がないことを隠すため、誰がフォークか、ケーキか見分けるすべもなく野放しになっている状態。
一節によるとケーキだけは血液で判るとか判らないとか。とりあえずケーキはフォークにしかわからないということだ
私の相棒がフォークだと云ったが私はケーキ。
私はあまり恵まれた家庭に生まれることはできなかった。
父親がフォークで母親がケーキだった。とある晩に母親と父親が夫婦喧嘩していたことを今でも覚えている。
それは翌朝目が覚めると客間に骨が数本落ちていたから。私はその日を境に二人家族の父子家庭になり生きた心地のしない生活を送ることになる
森さんに保護されたときに父親のわたしに行った行為は自分の腹を満たすために私から搾取していたと知った。
それと同時に自分がケーキであることを子供ながらに自覚した。
中也がフォークだと知ったのは私が巫山戯て森に入ったときうっかり蛇に噛まれてしまい、応急処置のために中也に毒を吸い出してもらったとき。
少量の血液が中也の口内に入ったのだろうか、彼の瞳孔が微かに小さくなった事を覚えている。そして私の腕に歯を立てた。
誰かが中也を引き剥がしたあと蛇にか噛まれていたこともあり私は森さんの医務室に運ばれ中也には気をつけろ、彼の前では極力血を流すな、などと忠告を受けたのだ。
つぅー
金属の板が私の肌を滑る。
それがが皮膚から離れると次は私の腕を赤いジャムが滑る。滴が大きくなり、落ちる、、、前に中也が口で受け取った。
彼は喜色満面に溢れた表情を浮かべ、瞳がガラス細工のように輝く。そして深く青い瞳で「もっと」と訴える。
次は5回ほど肌の上を滑らした。すると傷口から溢れるようにジャムが私の腕を溢れた。
中也は再び口でそれを受け取り、足りないのか生暖かい舌で直接私の腕を愛撫する。
少しばかり婀娜っぽい声が私の口から漏れると口角にジャムを付けて私の口を塞いだ。
リップ音が狭い部屋に響くのと同時に私の口の中に鉄の味も広がった。
数回互いの舌を絡め合わせると中也はなぜかそっと物足りなさそうに銀の糸を引きながら口を離した。
「わりぃ、、、」
彼は心苦しそうな顔をして私から目をそらす。一瞬私の心臓が止まりかけた。
「どうして?」
「だって、、俺が手前を利用してるみたいだろ。手前が親父にされたことを俺がまた手前にしているみたいだ。」
それを聴くと私の心臓は正常に脈を打ち始めた。確かに父親にされたことは忘れられないし、私の人生の汚点だ。
父親の搾取は腹を満たすため。
でも、中也の搾取は意味がある、だから私は中也になら喰われて死んでも構わない。
だって彼は私が欲しいものを、ずっと憧れ続けてきたものを私に与えてくれたもの。
私は金属の板を皮膚に当て少し力を入れて素早く引いた。薄いピンク色の真皮が顔を出すとたちまち赤いジャムに呑まれる。
私はしょっぱくて鉄の味のする美味しくないジャムを舌で受け止めて中也の口を塞いだ。
中也は甘みで味蕾が刺激され、私のはちみつのように甘美な唾液に溺れ、私をベットに押し倒しそのまま二人で朝を迎えた。
「太宰くん、腕を出して」
私が山積みの書類を片付けていると森さんが突然私の腕を掴んでそう云った。
「厭だ」
「何故?」
「忙しいから」
森さんはパソコンのキーボードについて離れない私の腕を無理やり掴んで懐からメスを取り出し、包帯の上を撫でる。
すると長い一本の包帯は数本の短い包帯に姿を変えて、ぱらぱらと床に落ちた。
純白の包帯の下から顔を出したのは白い肌に何本もの線が入った見るに堪えない腕。完治してケロイドになっている傷もあるが幾つかの傷はできたばかりのよう。
少し血が滲む私の腕を森さんはぐいっと引っ張り私を力ずくで立ち上がらせた。
「太宰くん此の傷を説明してもらえるかな?」
森さんは優しく微笑んだ。だが私は口を噤ませて何も云わなかった。諦めたのか森さんは淡々とした口調で話し始める。
「太宰君。此の傷は君が自分でつけたことに間違いはないね。
なら、何故こんな事をしたのだろうか。自殺の一環で?それとも未遂?暇つぶし?自己嫌悪?トラウマ?ストレス発散だとでも云うのかな?
違う。
太宰君は痛いのが嫌いだ。ならなぜこんな事をする?」
「それは、中也君に血をあげているからだ。それも日常的に。違うかい?」
話し終えると森さんはすっと息を吸って淡々とした声ではなく、怒鳴り声に近い声で私にこう云った。
「太宰君。私はあれだけ君に血を見せるな、汗を見せるな、体液を見せるなと云って来たのになぜ、こんなことをするだ!!
太宰君はフォークの恐ろしさを判っていない。ケーキがどれだけ立場の弱い人間か理解していない!!」
合理主義者の森さんが珍しく感情的に怒鳴るものだから私は色んな意味で云い返せず、黙って彼に怒鳴り続けられた。
「フォークの人間は君が思っているよりもずっと凶暴で、ずっと残酷だ。
彼らは常に飢えた狼、もし彼らがケーキという美食を見つけ、味をしめて、飢えに飢えて、限界が来た時ケーキは一溜りも残らないだろう。
私は…太宰君の管理者で有る前に保護者でもあるつもりだ。どんなに非合理的でも叱るべきことは叱らなければならない。
喩え、君が中也君にどんな感情を抱いていたとしてもだ。」
「こんなやり方は間違っている。だが仕方ない。太宰君、君に2ヶ月の禁足を命じる。私が部屋を用意する、一歩でもでたらわかるね?」
森さんはそう云って再び優しく微笑んだ。
森さんが事務室から出ていくと私は机の引き出しから替えの包帯を取り出し、くるくると巻き始めた。
森さんはきっと心配をしてくれているのだろう。中也は暴れ出したら私が止めなければ自分が死ぬまで暴れる異能を持っていて、しかもフォークで危険極まりない『人間』。
だけど彼は私の父親のように私のことを扱わなかった。森さんに保護される迄に出会った人たちの対応とも違う。あの人達は私を後菓子のようにしか思っていなかった。
私の体を一撫ですれば舌の上で踊る甘い甘い食べ物だとしか思っていない。
だが、中也は、中也は私を人間として見てくれた。フォークなのに、私の血を飲む行為だって彼にとって食事ではなく愛情表現だと。
勿論、多少は彼の味覚を満たすためにあるだろう。でも私を大切だと伝えているという行為である割合のほうが明らかに多いに違いない。
中也は私に欲しい物を与えてくれた。だから私も彼に与える。ただそれだけの関係なんだ。
暫くするとまた森さんが事務室にやってきた。片手には黒い布、もう片手には手錠を持って。
「そうそう、君が禁足している間は休暇扱いだから仕事の心配はしなくていいよ。」
私の腕に拘束具をつけながら話す
「私の代わりがいるの?」
「あゝ、君が居ない間幹部の席は中也くんが埋めることになったよ」
「そう」
会話が終わると私の視界は黒に包まれる。次にうなじあたりに鋭い痛みが走ると、直ぐに目眩と吐き気に襲われて私はそのまま意識を飛ばした。
目が覚めるとギシギシと鳴る古いベットの上に横たわっていた。
内装はシンプルで、ベット、穴の空いたソファー、本棚、キッチンとカップ麺と飲料水のダンボールが幾つか。それと机と、椅子とやりかけの書類、、、
森さんは休暇扱いと云ったものの、やりかけは終わらせてから休暇という事らしい私は大きくため息をついて机に腰掛けた。
ガタつく引き出しをそっと開ける。
そこにはご丁寧に万年筆と、印鑑、朱肉が綺麗に並べられていた。
下の引き出しには封筒と切手、それと終わった書類をどうするのか書いてある紙切れ。私は諦めてペンを手に取ってた。70枚ほどの書類にすべて目を通し、修正箇所は修正し、最後に署名して印を押す。
この作業が一通り終わった頃には日が暮れていた。外からは鈴虫の声が聞こえる。
森さんに打たれた薬がまだ残っていたのか少しくらくらするものだから例のベットに横たわる。
ほっと一息つくと何故か激しい孤独感と、虚無感に襲われた。
虫の声しか聞こえなくて、文明の光はこの小屋の光だけで、人間は私だけ。誰も居なくて、誰も私を痛めつけなくて、誰も私を思ってくれない。
もしも今迄痛めつけられてきたことの見返りが中也に大事にされることなら私は、今なんのために生きているのだろう。
誰のために生きているのだろう。生きる必要はあるのだろうか。
気づくと外は深海のようにしんと静まっていた。私は中也との日々を子守唄に浅い浅い眠りについた。
軟禁されてから何日経ったのだろうか。飲料水や、カップ麺の入っていたダンボールの空箱がたくさん増えた。
私の中也を思う気持ちも同じぐらい増えた。時折苦しくなって一人部屋の端で肩を震わせることもあったが意外となんとかなっている。
と云いたいところだ私は今両手で麻縄を持って椅子の上に立っている。なんとかなるわけない。
こんなの私にとって生地獄。
彼に与えて貰えないのなら、満たされないのなら、もう死んでしまおう。
所詮は78億人の中の一人の命だ。たかが一人死んだって誰も困らない
輪になった縄を首にかけた。そして足元にあった椅子を倒す。足場は消えて私の両足は宙ぶらりん。
太めの麻縄が私の気道を圧迫して酸素が肺に入らず段々苦しくなる。眼に生ぬるい液体が溜まって視界が霞む。
もう中也に貰えないのなら与えることができないのなら、向こう側にいる織田作でもいい誰かに認めてもらい。
苦しいあまり私の両足が地面を求めて暴れる。然し幾らもがいても床は数十センチ先。
足場だってほら、向こう側に転がっている。
こんな事をしているうちに意識が次第に遠のいていく。ああ苦しい苦しい。
でもこの苦しみが私の最後の救い。
後少し耐えて、耐えた先には、、
ブツン
私の体は数十センチ先の上空から叩き落された。
気道が開いて呼吸が戻る。息を吸って吐くのと一緒に涙も止まらなく出てきた。
まだ状況が理解できず自分の感情にすら追いつけることの出来ない私は、ただその場に座り込んで荒くただ酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すだけ。
酸素が脳に回りきらなくて時々思考が途切れるがはっきりと分かるのは縄が何故か2つあるということ。
一つは天井に、もう一つは私の首にかかったままだ。
「私は死にきれなかった」
私の脳髄がはっきりとそれを認識したとき焦りと悲しみと、罪悪感と。次々と涙に姿を変えて私の体内から出ていく。
際限なく流れる負の感情。
たくさんの情報が頭の中でぐるぐると混ざって処理しきれなくて、吐き気を催す。うまく空気を体内に取り込めない。
外部と内部の情報が全て体の中に入ってきているような感覚がする。
耳鳴りでキーンと頭の中に甲高い声が響いているのに、色んな人の声が頭に流れ込む。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
『中也!!』
心の中でそう大きく叫んだ。勿論返事が返ってくることはない。神頼み的な感覚だ。でもそう叫んだあと私の口は自然と開いたそしてほぼ無意識に
「私を…救って。中也」
「私は、中也に愛されたい…死ぬその時迄…愛されたい」と
すると今迄の耳鳴りや、途轍もなく気持ち悪かった感覚は霧が晴れたように消えた。脳みそに体が追いついた…とでも云おうか。
すべてがの物事の輪郭がはっきりして、私がしたいことされたいこと、どうしたいか、全部が見える。
きっと死にかけて、体が生きようとアドレナリン的な物質を出したから。
そっと指を自分の首に沿わせた。紐がかかってたところが少し窪んでいる。
私はキシキシと痛む足でゆっくりと立ち上がり小屋の窓を大きく開けた。
そして椅子を元の場所に戻し、ロープをゴミ箱に投げ入れる。ここに入った初日に終わらした書類を封筒に入れ、しっかり封をした。
本は全部本棚に、ゴミもちゃんとまとめてダンボールもしっかり畳んで、私はボロい寝台に横たわる。
夜風が窓から入ってきて私の頬を優しく撫でた。ゆっくりと瞼を閉じると電源を抜かれた機械のように私は眠りについた。
ギシ…
古い木が軋む音が私の目を覚ました。
目を擦りながら体を起こすと窓枠に誰かが片膝を立てて座っていた。
「中也…遅かったじゃん」
「私、ずっと待ってたんだよ?」
そう云うと中也は窓枠から降りて、寝台によってきた。
「悪かった…」
「如何して謝るの?」
「何時でも来ることは出来たのに来なかった」
「いいよ別に。来てくれただけ私は嬉しい。」
私がそう云うと彼は帽子を深く被り直した。月明かりが差す。太陽と違って冷たくて、淑やかな光。
その光が彼の青い瞳に反射して更に深みを増す。
私は彼の首に両腕をかけた。そして、此方に引き寄せて、耳元でそっと
「私を目一杯、愛して」
其れを聞いた中也は自分のYシャツの第一牡丹を開けた。
次に私のネクタイを緩めて丁寧に一つ一つ牡丹を外していく。
シャツを中途半端に脱がされた私の肌は白い包帯で包まれている中也は次にそれを亦丁寧に外してゆく。
すると私の白く、無数の傷がある肌が浮かび上がった。彼は私の上を人差し指で丁重になぞる。腰までなぞると次は彼が私の腰に腕をかけて、自分の方に引き寄せた。
そして…大きく口を開けて私の肩と首の間に歯を立てた。
白い背中に鮮血が線を描く。何時もより深く、深く噛んだ中也。私は痛みに耐えながら食いしばる。その次に中也は私の横っ腹に歯を立てた。
ぐじゅっ…
彼の口角から赤黒い血が流れる。
その次はうなじ…その次は太腿、その次は…頬を。
何度も何度も鋭い痛みが私を刺す。
けれどもその痛みと同じぐらいに彼からの愛を感じた。彼に喰われて喰われたところから血が流れて、その血と共に私の黒い何かも流れ行く。
喰われるたびに体がかけるが心はパズルのピースがハマるように元の形に戻っている
もっと、もっと、もっと、もっと!!中也に愛されたい。もっともっと食べて、もっともっと私を満たして。私は中也に食われれば食われるほど、清廉潔白になれる。
今や痛みなんて感じない。唯々彼のその顔と、宵闇に浮かぶ青白い満月が美しいと感じるのみ。
「中也だぁいすき」
唇に暖かく、冷たい何かが優しく当たった。私はその感覚を最後に何も感じることはなくなった。
私の禁足が解けた当日。ポートマフィアの森鴎外が私を迎えに小屋に向かったらしい。
然し、そこで目にしたのは部屋の真ん中に一人分の血溜まりと、首から血を流す青い瞳の少年の遺体。それとと数本の骨。
森さんがそれを目にした時彼がどんな感情だったから私には到底計り知れないが此の世の誰よりも、複雑な気持ちであったことは確かだったと思う。
私はケーキに生まれたことを今、後悔はしていない。寧ろこんな体に産んでくれた神様に感謝している
誤字脱字あったらごめんね
コメント
18件
神すぎ。愛してる( i ꒳ i )
最高です…!!!本当に有難う御座います!!!!!教科書並みに分かりやすい文です!!本当に最高です!有難う御座います!!
はつコメ失礼します‼︎ 尊すぎて壁に頭叩きつけたい気分‼︎