テラーノベル
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29
夜風が抜ける山の上、酒吞童子・いふはひとり、瓢箪を傾けていた。
いつも通りのひとり酒。
でも、今日は酔いが回るのが早かった。
いや――ちがう。
酔ってるのは、あいつの声にだ。
「“冗談やめろ”か……」
ふっと笑う。
でも、胸の奥が妙にざらついて、笑いきれなかった。
「怒らせた、かな……?」
いや、そうじゃない。
あれは――本気で動揺してた顔だった。
“お前が俺のこと好きになったらどうすんの?”
あの一言。いつものノリのはずだった。
でも、言った瞬間。
あいつの目の奥が、ぐらっと揺れた。
怖がるような、でも逃げたくないような。
そんな表情を、いふは見逃さなかった。
「……なんだよ、りうら。」
ただの冗談のつもりだったのに。
ただのじゃれ合いの延長だったのに。
あんな顔、見せられたら――
「本気になっちまうだろ……バカ。」
瓢箪をぐっと握る手に、力が入る。
火照った頬が、冷たい夜気にさらされても冷えない。
冗談だ。
そう思ってた。
でも、あの反応が――
嬉しかった。
ほんの一瞬でも、
「自分を意識してくれた」ことが。
そんな自分が、いふは嫌だった。
「本気になるなんて、俺らしくねぇ」って、ずっと思ってたのに。
でも。
「あいつが俺以外の誰かに、あんな顔見せたら……」
胸がぎゅっと、締めつけられた。
「……はー……マジか。」
空を見上げる。
星がちらつくその先に、飛んで行った黒い翼が浮かぶ気がした。
「俺さ……もう“冗談”で済ませらんねぇかも。」
気づいてしまった。
恋という名の、火のような感情に。
それは、酒の熱よりずっと真っ赤で、
ずっと冷静さを奪ってくる。
「……どうすっかな。」
ポツリと呟いたその声は、
今までで一番、“素直な俺の声”だっ
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