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山奥の静けさが深まる頃。焚き火の灯りが揺れるそばで、雪女・初兎は静かに座っていた。
そこに、音もなく現れる影。
「……やっぱりここにいた。」
ぬらりひょん・ないこが、草を踏まずにすっと横に座る。
「りうらの風が、こっちに向かってたから、なんとなくな。」
「……僕、読みやすい?」
「いや、俺が読みたがってるだけ。」
初兎は少し笑ったけど、その表情はどこか沈んでいた。
「……りうら、泣きそうな顔してた。」
「……見たの?」
「うん。風の気配が揺れてて……まろちゃんの名前、呼んだ瞬間に、空気が止まった。」
ないこは何も言わず、少しだけ初兎の方へ体を寄せた。
「まろはさ、いつもふざけてるけど、たぶん自分の気持ちに気づいてないだけ。」
「……りうら、ずっと頑張ってるのにね。」
「でもさ。」
ないこの声が、火の音に重なる。
「“頑張ってる”って、誰かが気づいてくれるの、すごく救いだよ。」
初兎は、ゆっくりとないこを見た。
その瞳は、夜の影より深くて、でもやわらかかった。
「俺も、お前の“がんばり”に気づいてるよ。」
「……僕、がんばってない。」
「寒くても笑ってるだろ。さみしくても、平気なふりしてるだろ。」
「……それは。」
「だから、手ぇ握った。」
ないこが、そっと初兎の手に触れる。
「お前が“冷たい”って思ってる手、俺はちゃんとあったかいと思ってる。」
「……ないちゃん。」
「りうらのこと心配するお前も、強がってるお前も、かわいい。」
一瞬、初兎の肩がびくっと動く。
「……それ、今のは、冗談?」
「本気だよ。」
静かに、まっすぐに。
「でも、好きってまだ言わない。」
「……どうして?」
「だって言ったら、たぶん、止まんなくなる。」
「……止めないでよ。」
初兎の声は、とても小さかったけど、
その響きは、雪よりも確かに胸に届いた。
ないこは手をぎゅっと握って、微笑んだ。
「じゃあ、そろそろ言ってもいい?」
「……うん。」
その言葉が、火のはぜる音にかき消されたのか、
それともわざと聞こえなかったふりをしたのか――
どちらにせよ、もうふたりの間には「恋がある」と、お互いがわかっていた。