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千景さんの「分からなくていい」「全部、僕たちが一緒に考えるから」という台詞に胸が熱くなりました。千弥くんが「へんなの…やなのに…」と自分でも説明できない苦しさを言葉にしようとする姿が切なくて、一緒に息を整えたくなるような緊迫感がありました。先生の「よく来てくれた」で少しだけ救われた気持ちになりました。続きが気になります!
特別編
第五章 先生のところへ
激しく降り続く雨の中。
車は幼い頃から千弥がお世話になっている病院へ向かって走っていた。
ワイパーが一定のリズムで雨を払う。
けれど車内には、その音さえ遠く感じるほど張りつめた空気が流れていた。
「はぁ……っ……。」
千弥は千景の腕の中で、小さな体を精一杯動かしていた。
「やだ……。」
呼吸が浅い。
胸が苦しい。
何が苦しいのか、自分でも分からない。
ただ、このままではいけないという不安だけが心をいっぱいにしていた。
「ちーちゃん。」
千景は背中をゆっくりとさする。
「大丈夫。」
「……っ。」
「もう少しだからね。」
千弥は首を横に振る。
「にぃに……。」
震える声だった。
「くるしい……。」
「うん。」
「わかってる。」
千景はその小さな体をさらに抱き寄せた。
「ごめんね。」
「もっと早く気付いてあげられたらよかった。」
千弥は苦しそうに眉を寄せながら、小さく息を吐く。
「ちぃ……。」
「うん。」
「へんなの……。」
「うん。」
「やなのに……。」
「うん。」
「なんでか、わかんない……。」
その言葉に、千景の胸は締め付けられる。
「分からなくていい。」
「今は何も考えなくていい。」
「全部、僕たちが一緒に考えるから。」
千弥は小さく頷こうとした。
けれど次の瞬間。
「……っ!」
また苦しそうに体を震わせる。
「息が……。」
「ゆっくり。」
「にぃにを見て。」
千景は優しく目を合わせる。
「吸って。」
「……すぅ。」
「吐いて。」
「……はぁ。」
「そう。」
「上手。」
ほんの少しだけ呼吸が整う。
その様子をバックミラー越しに見ていた遥は、静かにハンドルを握り直した。
(もう少し。)
(もう少しで着く。)
信号待ちがいつもより長く感じる。
一秒でも早く病院へ連れて行きたい。
その思いだけで車を走らせていた。
#完全オリジナルストーリー
𝐀𝐘𝐀_

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𝐀𝐘𝐀_

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十分ほどして。
「あった。」
遥が小さく呟く。
見慣れた病院の建物が見えてきた。
「ちか。」
「うん。」
「着いたよ。」
車が救急外来の入口前へ静かに止まる。
「ありがとう。」
千景はシートベルトを外し、千弥をしっかりと抱き上げた。
「先生のところへ行こう。」
「……うん。」
返事はかすれていた。
それでも千景の服をぎゅっと握る手だけは離さない。
遥は傘を開き、二人を雨から守るように寄り添う。
「急ごう。」
三人は足早に病院の自動ドアをくぐった。
受付。
「すみません!」
千景の声に、受付スタッフが顔を上げる。
「あっ、結城さん。」
幼い頃から何度も通っていた病院。
受付のスタッフも千弥のことを覚えていた。
「千弥くん……!」
ぐったりと千景へしがみつく姿を見て、スタッフの表情が変わる。
「どうされました?」
千景は息を整えながら説明する。
「昨日から様子がおかしくて……。」
「体の熱はありません。」
「食欲も落ちています。」
「本人も理由は分からないと言っていて……。」
「今日は午後から急に苦しそうになって、呼吸も乱れて……。」
「自分でも止められないくらい不安になってしまっています。」
遥も横から付け加える。
「幼い頃に診ていただいていた心の症状ではないかと思いまして……。」
受付スタッフはすぐに頷いた。
「分かりました。」
「先生へお伝えします。」
すぐに内線を取り、状況を説明する。
数十秒後。
診察室の奥から、一人の医師が足早に出てきた。
白衣姿のその男性を見るなり、千弥はぼんやりと顔を上げる。
「……せんせい。」
医師は優しく目を細めた。
「千弥くん。」
「久しぶりだね。」
幼い頃からずっと千弥を診てきた、担当医だった。
「よく来てくれた。」
「大丈夫。」
「まずは診察室へ入ろう。」
医師の穏やかな声に、千弥は震えながらも小さく頷いた。
千景はそのまま千弥を抱いたまま診察室へ向かう。
遥もすぐ後ろに続く。
二人の願いは一つだった。
どうか、今度こそ千弥の苦しさの原因が分かりますように。
特別編 第五章おわり。
特別編 第六章へ続く。