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――私のことを、みんなは「いい子」だと言う。
笑顔を絶やさず、困っている人には声をかけ、先生や先輩の頼みごとは断らない。そういう私を、みんなは「優しい」と言う。
でも私は知っている。
それは私自身の心から出ているものじゃない。ただ「そうしなければ、誰からも嫌われるから」やっているだけの、作り物の優しさだということを。
私は小さい頃から、親に「可愛いね、良い子だね」と言われて育った。親戚に会えば「おとなしくて、気がきいて、親孝行な子だ」と褒められた。私は「そうしなければならない」と思い込んだ。
本当は甘えたかったし、ワガママだって言いたかった。けれど、もしそれを口にしたら「がっかりした」と言われる気がして、怖かった。
だから私はずっと「いい子」でいるしかなかった。
そのうちに、友達からも「頼れる子」「優しい子」と見られるようになり、周囲の期待を裏切れなくなった。嫌だと言えない。助けを求められれば応じる。笑顔を浮かべ続ける。
でも心の奥では、ずっとひとりだった。
夜、自分の部屋に戻ったとき。
笑顔も、言葉も、全部剥がれ落ちて、私はただ天井を見つめる。
「私って、誰なんだろう」
そう呟いても、返ってくるのは静寂だけ。
教室の中で笑っていても、みんなの輪にいるのに、私は透明な存在のように感じる。彼らが求めているのは「私」という人間ではなく、「優しい役割」なのだと気づいてしまったから。
――居場所なんて、どこにもない。
そう思うようになったのは、いつからだろう。
朝、制服に袖を通すとき。鏡に映る自分の顔に「可愛いね」と誰かが言ってくれる。でもそれは、私自身ではなく、ただの外側に向けられた言葉。
私は「可愛い顔のいい子」という仮面をかぶり、今日も学校へ行く。
バイト先でも同じだ。
「〇〇ちゃんってほんと優しいね」
「やっぱり頼りになるなあ」
私は笑顔で「そんなことないですよ」と返す。
だけど心の中で、冷たく笑っている。――どうせ誰も、本当の私なんか知らない。
スマホの画面に、SNSの通知がいくつも光る。
「ありがとう!」
「さすが〇〇!」
そんな言葉が並んでいても、胸の中は少しも温かくならない。
「ねえ、私のことを、本当に見てくれる人はいるの?」
問いかけても、誰も答えてくれない。
私はずっと、ひとりぼっちだった。
「優しい子」という檻の中に閉じ込められて。