テラーノベル
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「お兄さん着きましたよ〜」
呼びかけられ、ぱちんと膜が割れるように沢山の音が飛び込んでくる。適当なお金を手渡し転げるように車から出る。後ろからお釣り!なんてドラマチックな叫びが聞こえた。気にせずマンションに駆け込む。たまたま出てきた住人に訝しそうに見られてしまったが、ついでにエントランスを通らせてもらった。
インターフォンを押す。5秒、10秒、15秒。30秒たっても反応は無く、スマホを取り出してメッセージを送ろうとした時だった。がちゃり、と扉が開いて君が出てきた。
「…元貴、いらっしゃい…」
たまたまスケジュールが合わず、3日ぶりくらいの涼ちゃんは少し前よりやつれていて目元に隈が出来ていた。中に促され玄関に立ち入れば、さっと背中を隠す君。
「…?涼ちゃん、今何か」
「待ってっ…!」
覗き込もうとすると、涙目で制される。最初の頃より涼ちゃんの涙には慣れたはずなのに、初めて見る怯えのような色に戸惑ってしまう。ごめんと言って離れ、落ち着いて説明する。
「ごめんね、でも涼ちゃんさ、俺に勇気出して電話してくれたんだよね?俺もその気持ちを汲みたいし、大切な涼ちゃんを全力で助けたいから。それだけは忘れないでね」
引いたり、軽蔑したり絶対しないから。そう直接的な表現は避けて話したが、伝わった様で君はこくりと頷く。
「と、とりあえず…リビングで話そ」
分かった、と言い先に進ませてもらう。きっと背中を隠したということは後ろからついて行かない方がいいだろう。ほっとしたのか遅れて足音が聞こえてくる。ソファーに勝手に座るとその向かいに涼ちゃんが座った。
「じゃあ、一旦。背中、見せてもらっていい?」
「うん……パッと見て気持ち悪いかも、ごめん」
ぶんぶんと首を横に振る。涼ちゃんは何も謝る事ないのに、謙虚さというか優しさというかに泣きそうになってしまう。背中を向けてもらいゆっくりとシャツをたくし上げた。
「…!これは…」
そこには、天使の羽…と呼ばれるものがあった。小さいが作り物とは思えないリアルさで、光に当たるとキラキラと反射する。根元は肌から木が生えるようにがっちり繋がっているから引っこ抜こうとしたら痛いんじゃないか。疑問は溢れてくるが君が喋り出し意識を集中する。
「実はちょっと前から、体調とか悪くて。まあ疲れかなって放って置いたら背中が急に痒くなって、3日前くらいからこんな風に…。中々言い出せ無くてごめん。その、僕、多分」
こっちに向き直り、こう言った。揺れる瞳とまつ毛は白っぽいものが混ざっているように見えた。
「…天使病なんだ」
「てんし、びょう。そ、それって治る…よね?」
いまいち噛み砕けずに質問する。が、安直だったかなと後悔する。
「ううん、分かんない…。だから、一生のお願い。元貴に着いてきて欲しいんだ。奇病科専門病院に」
疲れた笑みを浮かべ、そう言いきった。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
小説を投稿する前からずっと載せたかったものなので、形になっていたら嬉しいです。ミセスはsoranjiやケセラセラなど神々しい曲は沢山あるけど、直接的羽が生えているものはないのでぜひ想像しながら読んで頂ければと思います。
次も読んで頂けると嬉しいです。
コメント
2件
やっぱり涼ちゃんは天使なんだ(笑)怖いお話し悲しいお話しになりません様に…🙏