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西暦20XX年、地球軌道上に浮かぶ世界初にして唯一の、巨大な宇宙空間居住地、いわゆるスペースコロニーの内部で民衆の武力蜂起が勃発した。
工業地区でもあるそのスペースコロニーの住民たちは、劣悪な居住環境、低賃金の重労働、そして食料品の慢性的な不足状態によって疲弊の限界に来ていた。
土木作業用の全高15メートルの巨大人型ロボットに武器を装着した新兵器を使う反乱軍は、わずか三日でスペースコロニーの全土を掌握、新政府の樹立を一方的に宣言し、地球からの独立を承認するよう、国際連合に要求した。
地球上の各国政府は騒然となり、多国籍宇宙軍を派遣してそのスペースコロニーを攻撃し鎮圧すべきとの強硬論も浮上した。
そのスペースコロニーの十万人の住民は全員新政府を支持していた。しかし、そのスペースコロニーの人口、工業生産力その他、いわゆる「国力」は地球の数十万分の一に過ぎず、正面から戦えば勝ち目がないのは明白だった。
それでも住民たちは、いざとなれば全員自決して、そのスペースコロニーを地球の大都市に落下させて道連れにするという悲壮な決意で、独立戦争を支持した。
国連は地球上の全ての国家の代表を緊急招集し、スペースコロニー代表との話し合いの場を設けた。たった一人でやった来たスペースコロニー代表は、独立が否定されたら即時に席を蹴り、地球上の全ての国家に対して独立戦争の宣戦布告を行い、毅然とした態度で退席する覚悟を以って国連総会に臨んだ。
まずアメリカ大統領が演説のため登壇した。スペースコロニー代表は、毅然として席を立ち退出する用意を整えた。だが、アメリカ大統領の第一声は、スペースコロニー代表を驚愕させた。
「我が国はスペースコロニーの国家としての独立を全面的に支持する」
代表が呆気に取られている間にも、他の国連安保理事会の常任理事国全てが、独立に賛成し、そのための莫大な資金援助を表明した。
他の国連加盟国も、先進国、途上国、果てはバチカン市国のようなミニ国家に至るまで、満場一致でスペースコロニーの独立を承認した。
スペースコロニー代表は当惑した表情で言葉を発する事もできなくなり、各国代表は次々と祝福の握手を求めて彼の所へ殺到した。
帰還した代表からの報告を聞いて、スペースコロニーの暫定新政府のメンバーも、一般の住民たちも、キツネに化かされたような様子になり、数日茫然としていた。
それから三年、スペースコロニーには地球から、独立主権国家の体裁を整えるのに必要な、建設資材、量子コンピューター、食糧支援物資その他諸々が大量に輸送された。
薄汚れた工業地帯であったスペースコロニーの内部は、真新しく清潔で、最先端テクノロジーを惜しげもなく駆使したオフィス街に変わっていった。とくに英国の援助は飛びぬけて多額だった。
地球の諸国家との合弁会社がスペースコロニーの内部に次々と設立された。そのほとんどは投資銀行と呼ばれる金融機関だった。
スペースコロニーの元からの住民たちは、その金融機関にホワイトカラー職として優先的に雇用され、彼らは以前とは比べ物にならない裕福な生活を送れるようになった。
そして三年後、世界標準時で一月一日、0:01GMTをもって、国連はスペースコロニーの国家独立を正式に宣言した。
スペースコロニーの内部ではもちろん、地球上のあらゆる場所で、人類史上初の、地球軌道上に浮かぶ宇宙国家の建国が盛大に祝われた。
その様子を立体テレビで見ながら、地球上の政治指導者層と富裕層たちも、極上のシャンパンで乾杯しながら祝った。だが彼らが祝っていたのは別の事だった。
彼らは祝った。地球軌道上の宇宙空間に浮かぶ、新しい租税回避地、いわゆる「タックスヘイブン」の誕生を。
その独立の日時は、地球上で最後に残っていたタックスヘイブンである英領ケイマン諸島の全金融機関が、国際通貨基金と世界銀行の監督下に置かれる事になった日時でもあった。
この一致に何か意味があったのか、それとも単なる偶然だったのか、それは長らく歴史の謎となるであろう。
宇宙 ―― それは人類に残された、最後のフロンティア。
(終)
コメント
1件
いやあ、これは痺れる作品でした。独立戦争の悲壮な覚悟から、あれよあれよと満場一致の承認、そして最後のどんでん返し——「タックスヘイブン」というオチ。英国の援助が飛びぬけて多かったあたり、ケイマン諸島が規制入りする日付と独立日が一致するあたり、細かい伏線が効いてますね。スペースコロニー建国、という人類のロマンを描きながら、裏では資本の論理が動いているという皮肉な構成。短い中に世界の仕組みをぎゅっと詰め込んだ、読み応えのある一話でした。