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練習が終わった。
結果は凌先輩の勝ち。けれど、先輩の顔にいつもの余裕はなく、膝に手をついて激しく肩で息をしていた。一方で遥も、コートに大の字に寝転がって動かない。
「……はは、まいったな。遥、お前いつの間にあんなエグいショット打てるようになったんだよ」
凌先輩が苦笑いしながら、寝ている遥に手を差し伸べた。遥はその手を「……うっせーよ」と払いのけながらも、どこか満足そうに立ち上がる。
「紗南ちゃん、今の……記録できた?」
凌先輩に声をかけられ、私はハッとしてノートを閉じた。
「あ、はい! 凌先輩の安定感もすごかったですけど、その……遥の、最後の追い上げもすごくて……」
「……」
凌先輩は私の顔をじっと見つめた。その瞳に、ほんの少しだけ寂しそうな、でもすべてを悟ったような光が宿る。
「……そっか。紗南ちゃん、今日のスコア、遥の欄だけ字がすごく丁寧だね」
「えっ!? そ、そんなこと……!」
慌ててノートを見返すと、確かに遥のポイントを記した記号だけ、力が入りすぎて紙が少し凹んでいた。
顔がカッと熱くなる。それをごまかすように、私は片付けを始めた。
「ほら、遥! いつまでもボサッとしないで、水筒片付けてよね!」
「あー……。ったく、うるせーな……」
遥は文句を言いながらも、私の隣に来て重い荷物を持ってくれた。
二人のやり取りを、凌先輩は成瀬先輩と並んで、優しく、そして少しだけ切なそうに見送っていた。
「……じゃあな、兄貴。次は、絶対引きずり下ろすから」
「ああ。楽しみにしてるよ」
並んで歩く帰り道。
部活バッグの擦れる音が、心地よいリズムで響く。
「……あんなに必死な遥、初めて見たよ。かっこよかった」
「……。……フン。お前、目腐ってんじゃねーの」
遥はそっぽを向いたけれど、その耳の端は、夕焼けよりもずっと赤く染まっていた。