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人は窮地に立たされると、才能が開花する瞬間があると言われている。近年、職場トラブルや学校での人間関係のもつれで、精神的にやられる人が多いと言われている。今でこそ、心療内科や薬やネットが発達した世界だが、これよりも更に発展した場合、また全てにおいて最高レベルの完成度ができるようになった場合、どうなるのだろうか。


「今日もまた学校か・・・もうネット参加でいいだろ。バーチャルで出席取るんだから登校する必要あるのか?ま、いいや。とっとと着替えて登校するか。」

「〇〇ー。そろそろ学校行く時間よー。もうバーチャル登校の回数使い切ってるんだからちゃんと行くのよ!!降りてきなさーい。」

「分かったから。今降りるからー。」

いつも騒がしい。でもそんな日常が俺にとっては幸せでたまらない。

「ちょっともう遅刻しちゃうでしょ!早く制服に着替えちゃいなさい。」

「わかったから部屋に入ってこないで!」

「そんな事言わないでよ。お母さんだって息子がどういう部屋にしているのか知りたいんだから。ほら、ベッドの下にエロ本とか・・・」

「ネットが発達してるからそんなの隠してないから!っていうかお母さんそういうの興味無いでしょ!」

「興味無いわけ無いじゃないの。あるに決まってるわよ!昔良く見てたんだから。AVの人かっこよかったなぁ・・・いくつになっても忘れられないの。」

「忘れられないって何がだよ。」

「私の夫AV男優だよ?話さなかったっけ?」

「今聞いた。ってか初めて知った。え?なに?お母さんAV女優なの?」

「その話はいいから早く学校に行きなさい!」

「はぐらかすな!ちょ、お母さん!?」



そんなことを言いながら今日の1日が始まった。何の変哲もなく、何もない1日。それでいい。いや、それがいいはずなのに。これから起こることを彼はまだ何も知らない。


「久しぶりじゃん!ここ最近バーチャル登校のみで登校してない君がまさか登校してくるとは思ってもいなかったよ。」

「失敬だなぁ。軽く人権侵害レベルの酷い事言うよな。」

「俺がこんなこと言うのは、今日に限った話じゃないだろ。」

「それもそうだけどさ……。もうちょい何か良い話し方ってものがあるでしょうに。」

「まぁまぁ。俺らの仲だし良いじゃないか。ほら、登校時間ギリギリだぞ。」

「それを先に言え!バカ!」


友人と言えるのか、はたまた親友と言えるのか。かなり怪しい部分ではあるが、登校時間に間に合わず遅刻になってしまっては非常に勿体無いので全力疾走で教室まで駆け抜けた。校舎5階の奥の教室より3番目の部屋。そこが俺の教室だ。今居る所から時間にして10分と程度。多く見積もって15分かな。それぐらいの距離だが、今の時刻は登校時間の5分前。普通に考えて不可能だが、俺はある能力に目覚めている。ほら、よく言うじゃないか。人間は誰しもが才能を持っていると。開花する瞬間は誰にだって存在していると。一握りの才能。そしてトリガーを引くことで人は開花する。


「テレポート。座標既存より参照。」


そう言い放つ。もちろん口にじゃない。心の中でだ。外でこんなこと言ったとしても不審者扱いを喰らうだけだ。それはさすがに避けたい。青白く光る閃光が包み込む。途端に俺の体は速攻で粒子となりその場から消える。座標を失敗するとどうなるのかと一度は考えたことがある。壁にめり込むのでは無いかと。全くもってその通りだ。簡単にめり込み圧死になるだろう。だからこそ正確な座標が必要になる。これに関しては詳しいことはわからないが、目に座標が見えるようになっていこう常々メモするようになっていった。


座標によるテレポート。それほど頭を使うことはないが、ただ難点があるとすれば使用後の記憶操作だ。気づかれてしまっては良いことはもちろん上にまで怒られてしまうからな。慎重に行動しないとこの能力を剥奪されてしまう。それだけは避けたい。いやマジで本当に!


見事までの座標ポイント、そして人がいない場所でのテレポート。到着場所ももちろん誰も人がいない。どこにテレポートしたかって?男子トイレの個室だ。ここなら誰も気づかれることは無い。一度を除いては。一度テレポートした際にいた人、それが今の友達だ。記憶操作をして親友、若しくは友達ということになっている。絡みがめんどくて今また記憶操作するか迷い中。


「うん。今日も誰もいないな。居たら記憶操作しなきゃだから少々めんどくさいが、まぁ居なければ特に問題は無いからいいや。」


独り言だ。決してやばいやつでは無い。全くもって変質者でも異常者でも何でもない。才能が開花しただけの人間だ。粒子となった俺の体は、トイレの個室の中。男性トイレだからな!で再び構築を始める。だからこそ、構築が終わって直後の俺の体は脆いし壊れやすい。何回か骨折もしているが、まぁ修復なんて無意識にしているから大したこと無いのだが。


トイレから出て、そのまま教室に向かう。バーチャル登校権3ヶ月分を入学初日ですべて使用した俺には深い理由がある。それは後々分かる話だから今はやめておこう。


教室に入ると、いつもの光景というわけでは無く俺と親友を除くほとんどの人がバーチャル登校をしていた。そこには教師も含まれている。いや、教師こそバーチャル出勤はだめでしょ。一番リアルに出てこなくちゃいけない人がんバーチャル登校だなんて。世も末とはこの事か。


「なんか人数少ない気がするけど……。俺の気のせい?」

「バーチャル登校があるにしても人数的に少なすぎるよな。欠席にしては少し多すぎる気がする。」

「雷斗。このことは少し黙ってくれよ。そして他の人には口外しないと誓ってくれ。」

「え?何が?どゆこと?」


困惑している雷斗を横目において、俺は問答無用で行う。あー、能力剥奪されるな。でも背に腹は変えられない。


「能力使用。テレポート。座標指定、検索開始」

――かしこまりました。10秒お待ち下さい。


全身が青白く光りだす。もちろん雷斗はというと……


「えーーーーーー。なにこれ。すげぇ。え、灰桜って異能力者だったんだ。だから黙ってと言ったのか。」


――座標検索完了。テレポート開始します。


一日に1回以上テレボートを使用すると、「死」の危険性があることは重々承知している。だが、俺の命と多数の命。どちらが大事かと聞かれれば迷いなく多数の命と答えるだろう。今までもそうやって生きてきた。禁句であったとしても俺はもう迷わない。


青白く光る俺の体は更に強くなり、段々と粒子へと分解されていった。その時俺の目に映った最後の顔が雷斗自身の顔だった。俺には聞こえなかった。それでも何か言ってるように見えた。そうして俺の体光の粒子となりその場から消えていった。


残された雷斗はと言うと……


「能力者であるのが灰桜だけだと思わないで欲しいな。僕自身能力者なのに。当然灰桜は知らないよな…。在籍しているトップ権力持っているのがこの雷斗であることに…。」


意味深な笑みを浮かべる雷斗。誰かを助けたいと強く願い禁句を犯した灰桜。2人の関係こそがこの世界を救うのだろう。記憶を操作することも助けることも容易い2人であるが、いずれ衝突が起きる未来は既に近い。だからこそ、能力者はその能力の全てを知られてはならない。奪い合いが起きるからだ。その事を理解しても尚助けたいと強く願う灰桜は今でも動き出す。


「この感覚は懐かしいな。なぁ灰桜。君は何の為に人を助けるんだ?何も意味がないこの現代においてどうして人を助けたいと未だに願うんだ?」


雷斗はなにもわからないのだろう。光の粒子となって消えていった灰桜の居た場所を未だに眺める。その瞳に映って居たのは果たして何だったのか。


青白く光る粒子となり、ある場所に収束した。やがて粒子は集合し、人の形を形成した。


「今回は失敗してないよな?誰も居ないし壁にも……。」


灰桜は壁にめり込んでいた。


「だよなぁ。今の座標と昔の座標じゃ少しズレがあるからなぁ……。どうすることも出来ないなこりゃ。」


足のみ血流の流れが止まる。壊死を仕掛けているがそんなものはお構い無しに灰桜はこう言い放つ。


「分解。コードAT4623。部分使用、両足。」

――かしこまりました。すぐさま切断し構築を始めます。


能力者である者が一つしか使えないということは決してない。灰桜は、名前の通り「灰」や「桜の花びら」のと同じように何百という数の能力をもっている。その中には当然、灰桜自身が作り上げた能力や意図的に上の人に作られた能力もある。可能性の塊。能力図書館。人間兵器。それが一番似合うのが灰桜だ。


「あんまし能力使いたくないんだけどな。でも致し方ないよな。めり込んじゃってるもん。使わないと動けないし、何なら死ぬし。」

「お兄ちゃんそこで何しているの?」

「ちょ、え!?誰??」


不意に声をかけられた灰桜は驚きを隠すことが出来なかった。けどどこかで聞いたことある声だなとは感じていた。記憶の中を探る。能力しか敷き詰められていない脳みその中を探る。やはりこの子のことは知っているみたいだ。名前が出てこない。なぜだ?


「お兄ちゃん不審者なの?どこから入ったの?キモいんだけど。」

「途中から悪口に変わってるぞ女の子!もう少し年上を敬おうか!?」

「お兄ちゃんの事私知らないし。なんなら今この家には誰も居ないから……。」

「誰も居ないのか。それならどうしようかな……。」

「やっぱりお兄ちゃん今変態なこと考えたでしょ!この変質者!変態野郎!でていけー!」

「ちょっと、痛いって!それは危ないから投げるなって。あ……。」

「……」


ナイフが見事に灰桜の胸に刺さった。赤黒い液体が溢れ出てくる。灰桜は何も動じず現実を受け止めている様子だ。しかし少女はというと……。


「私は悪くない。私は悪くない。変質者が悪いんだ。変態が悪いんだ。私は悪くない。人なんて殺してない。悪くない。悪くない。」


精神状態がおかしくなっていた。それもそうだ、目の前で死にかけの人が居るのだから。それも少女本人の手で殺めかけて居たのだ。灰桜は冷静に、


「なんで今日はこんなに能力使わなくちゃ行けないんだろう。使いすぎは怒られるのに。もう良いか別に。能力を多種多様に持ちすぎて押さえつけないと地球が滅ぶみたいだし。ちょっとお嬢ちゃん!」


灰桜がそう呼ぶと、びっくりして声が裏返りながら返事をした。


「お兄ちゃん!?死んでいない……」

「死んでたほうが良いみたいなもの言いうやな。これじゃ俺の心が廃れちゃうよ。」

「なんで生きてるの???なんで心臓に刺さっていたのに、あんなにも血が出ていたのに、なんで生きてるの?」

「いいかい女の子。俺は生まれたときから不死身だから死ぬことは無い。そういう力をもっているだけだ。心臓もほとんど動いてないし。現実的に言えば人じゃない。それだけの話しだ……。って寝るなよ!一応俺死にかけてるからな!?一般人だと確定でキルしちゃっているからな!?」

「ごめんね、お兄ちゃん。話聞いてなかったからもう一回話して。今度はちゃんと聞くから。」

「もう一回だけだぞ。だから俺は……って寝るなよ!」


緊張が切れた少女は倒れるように眠りについた。不死身ではない。刺さった直後から能力を使っただけだ。


能力「生命の源」。対象の意思の強さのみで蘇生可能か不可能かが決められる。灰桜の場合は別問題だが……。今回は少女の感情の大きさのみで蘇生を成し遂げた。どこまでもわからないやつだ。


「ここにも居ないのか。追跡機能使うしか方法無いのか?いや考えろ。能力の使いすぎは肉体が持たないからな…。」


少女を抱きかかえ、近くのソファーに横になってもらっている。膝と頭しか触ってないからな!今セクハラしただろとか思ったやつは素直に手を上げなさい!今回だけは許すから。


さて、どうしたものかと灰桜は考える。世界が変わっているのでは無いかと少し考えても見たが時刻は何も変わらずいつも通りだった。違うことと言えばこの地域のみ人が極端に少なくなっていること。もう一つは見たことがない生物がそこら辺を走り回っていることだ。


表面は緑色のブヨブヨした皮膚に包まれ、その眼は焦点を合うことがない。こちらを覗き込むおぞましい光景に灰桜は少しだけ震えたがすぐに正気に戻った。しかしその悪寒は抜ける事がない。小刻みに震え、手も足も頭も震えだす。そして内蔵まで震えだす。


記憶はここで途切れてしまう。

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