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ワンクッション
泣いた。泣き続けた。
日が沈み、高台が暗くなる。小さな灯りしかない高台には、波の音と女性のすすり泣く声。
草を踏む音。
自分しかいないはずの場所に、別の誰かの気配。
「……?」
振り向くと、そこには軍幹部の鬱がタバコを咥えて立っていた。足元に散らばる多数の吸殻を見るに、彼は相当な時間、エリが泣き止むのを待っていたのだろう。だが鬱は、そんなことをおくびにも出さない。
「気が済んだかい?エリちゃん」
「鬱先生……?」
「遅い時間やからな。お迎えきたで。女の子の一人歩きは物騒やから」
「立てる?」
鬱は優しく微笑むと、エリに手を差し出した。
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しっかしエグいわ~、エーミールの奴。
確かにアイツはクソエイムやけど、だからって旧知で、しかも可愛がってた女の子を、喉かっ切った上で頭と心臓って、カンペキにオーバーキルやんけ…
…まあ、腕に自信ないならではの、素早く息を止める方法としては…
なるべく苦しむ時間少なくしたろ思たら、そうなるんやろなぁ。
にしても、あのクソ紳士っぷり、腹よじれるかと思うくらい、クッソワロたわーw
どんだけ時代錯誤やねんw
しかも「お父さんみたい」とか言われてやんのwまあ、おっさんやしなーw
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呆れたり同情したり笑うたりと目まぐるしい鬱の内情。そんな愉快な内情を表に出さないように、鬱は頑張ってポーカーフェイスを保つ。
そう言えば
「せや。エリちゃん」
「はい?」
鬱に呼ばれて振り返ったエリに、鬱はそっとペンダントをかけた。
「え?え?」
突然の鬱の行動に、エリは何が起こったか理解できず、ただ憧れの軍幹部の鬱との距離の近さに心臓が高鳴る。
「これ、イリーナちゃんの形見やなぁ」
そう言ってエリの首にかけられたのは、かわいいピンク色をしたサクラガイだけのシンプルなペンダント。
「エーミールがイリーナちゃんの形見って、置いてったんやろけど。ホンマ不器用やねん、あのオッサン」
「あはっ。そうですね」
エリは、ペンダントのサクラガイを手に取ると、寂しそうに見つめた。
「さっ。帰ろうか、エリちゃん」
「はい」
エリが高台から離れるのを確認し、鬱はスーツのポケットから赤珊瑚の玉を取り出し、手に取った。
別のポケットから取り出したのは、エーミールの依頼でトントンが作った小型レーダー。
レーダーが指し示す信号の位置は、鬱のいる場所と完全に一致している。
しばらく赤珊瑚の玉を見つめると、指で弾き再びキャッチした。
「……馬鹿野郎が……」
鬱は左耳のインカムのスイッチを入れると、ボソボソと呟く。
「はい。クジャクさんだよ~。ホタル回収したんで、ペンギンの卵と戻りま~す」
『は~い。フクロウが了解しました~』
「後でペンギンさんに、殴らせろとお伝えくださ~い」
『いやで~す。通信終了ー』
「おいゴルァ!」
鬱は大きな溜め息を一つ吐くと、小走りでエリの後を追った。
ーーーーーーーー
数日前。軍の射撃場。
なぁ、大先生。
なんや?エーミール。
もしあなたが女性を撃つとしたら、何処を狙います?
は?…せやな。やっぱ俺のマグナムで、相手の娘の股k…
それ以上言わせねぇよ?
すんません。ニコニコ笑いながら銃口向けるん、やめてくれませんか?
うーん…せやなぁ、難しい話やなぁ。
大先生でも、女性の尊厳を上手いこと守れそうなやり方、思いつきませんか?
尊厳を守る…か。俺やったら、眉間一発でラクにしたるかなぁ?女の子が長いこと苦しむ姿は、見とうないねん。
眉間…ですか。私の腕では、厳しそうですね。
クソエイムやもんな、エーミールはw
ほたっといて。
まあ、エイムに自信ないんやったら、頭と心臓に1発ずつが確実かな…と思うんやけど
なるほど。貴重なご意見、ありがとうございます。
役に立たないこと、祈っとるで~?
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あのバカ。
尊厳守りたい言うてたのに、イリーナちゃんのキズ増やすとか、どういう了見やねん。
エーミールなりの葛藤はあっただろう。幹部の誰もが知り得ない苦しみが、どれだけエーミールを押し潰していただろう。
だとしても。
鬱は自分の心の安寧の為に、エーミールを責めずにはいられなかった。エーミールを責めたところで、彼はどんな理不尽な叱責でも受け止めようとするだろう。それがまるで、自分への罰であるかのように。
せやから、言ってやらへん。
それが、鬱が自分に課した、エゴ。
【次回、最終話】